6 フェイ視点
二階にある自室に帰るのは普段は憂鬱だけども、今日は楽しい。陽気でルンルンな気分でウザったるい大きい階段を登る。
後ろでは、よいしょ、よいしょと一生懸命に楓が登っている。ほんと可愛らしい。美しい人間がエルフなんかよりも高値で取り引きされるのも分かる。
腰まで伸ばした艶やかな黒髪に、真っ黒で無機質ながらも美しい瞳に、ふっくらとした艶やかな唇。凄い美人で、しかも纏う魔力の濃さが人間のソレではなく、魔女さえも霞むほどに濃い。
私は楓を人間ではないと思っている。人間扱いはしているし、楓自体も反対しないために人間だとは信じようとしている。
だけど、可笑しいのだ。まず、楓がいた場所は超危険地帯である『泥椅子の森』を通る道だ。あの至る場所がぬかるんで、泥沼とかしている森を通る道。商人は腕利きのガイドを雇って超える場所。空を飛ぶ魔物に襲われる危険があっても空路で避けるのが推奨されてる本当の危険地帯。
それを制服で、一人で抜けて此処まで来るなんて人間では英雄や勇者でしかあり得ない。
それに常識が無さすぎる。よその国の諜報機関かと思ったけど、そうだとしたら相手の国のこと調べて無さすぎる。
だって、この町には私のお婆ちゃんであるプリマドンナがいるのだ。あの歴戦の伝説を生きる人を知らないだなんて事あるっ!?他国の諜報機関なら一番に危険人物としてあげるわよ、あの化け物。
けども、魔力の濃さなら、お婆ちゃんは自分の魔力を偽ってるから正しいことは分からないけども、きっと楓も負けてない。
そこが一番に可笑しい所で人間と見れない部分ではあるのだけど。
知ってる情報が妙に存在するせいで、どう考えればいいのか分からない。さっきの靴を脱ぐのにも抵抗は無かったし、自分が着ている制服が何処の学校のやつかは知っている。
なんなの?いったい。
正体が、あの世界一の魔法使いが変装してるって言われも妙にしっくりとくるチグハグさがある。
こういったのを全てひっくるめて私は楓を人間と思ってない。後ろをついてくる楓の口は微笑を浮かべているけど、目が無機質だから不気味でしかない。
「ねぇ、フェイは一人部屋?」
何を思ったのか、楓がそんな質問をしてくる。
「そうよ。この寮は一人一人に部屋が分けられるのよ。」
だいたい、あなたの学校の寮もそうよ。一人一人に部屋が分け与えられるわよ。もう、本当に分からないわ。何を知ってて何を知らないのかが分からないわ。
「へぇ、いいね。」
表情が一切変わらずにそう返事する。表情が変わらないから、何を考えてるのかが分からないわ。可愛らしいからいいけども。
……ひょっとして私、殺される?密室になるから殺しやすいわけ?人間じゃないとして、もしかして人肉とか好んじゃう系の種族かしら?まぁ、その時はその時で考えればいいわ。『友達を作る時は死ぬ覚悟で。』それが常識じゃない。ほんと命が簡単にベットされるから、楽しいわ。
そうこうしてると私の部屋につく。
ドアノブに手をかけるとガチャッと右横の部屋のドアが開く。
「わぁ。」
やはり表情が変わらないままに楓が驚いた声をあげる。人狼のカイオンくんがのそっと眠そうに出てくる。
「ん?フェイか?また新しい番か?壁薄いんだから勘弁してくれ。」
開口一番にドストレードのセクハラをしてくる。
でも、私は昨日、誰も連れこんで無いわ。二日連続とかなら文句言うのは分かるけども、一日空けているのだから文句言わないで欲しいわ。
私だったら、カイオンくんの部屋から喘ぎ声とか聞こえても文句なんか言わないわ。
「そんなのだから、貴方は童貞で処女なのよ。」
「なんだかよく分かんないけど、ビッチに言われたくはない。」
そう言って、カイオンくんは私達の横を横切っていく。私は魔法を使って、ドアを開ける。
「フェイって、その、あの、ビッチなの?」
楓が部屋の前で、ドアを開けたままに遠慮がちに凄い質問をかましてくる。
「そうよ。さ、入って。」
嘘をついても仕方ないので、さらっと事実を言って部屋へと楓を招く。
「お、お邪魔します。」
楓がドギマギしながら、ゆっくりと私の部屋に入ってくる。けれど表情が変わらないので、可愛いのは可愛いが恐ろしさがある。
私の部屋は普通の部屋で、黒い年季の入った大釜がキッチンに、調合の素材があちこちに落ちている。誰のか分からない下着も落ちている。そして、縦四メートル、横に二メートルのどデカいベットが備え付けてある。
「まぁ、汚いけど、足の踏み場所くらいはあるわ。」
「……そ、そうだね。」
流石に表情が変わらなくても軽く引かれてるのは分かる。
ふうぅ。私は蛇がとぐろを巻いて、心臓に絡みつくのを頭に思い浮かべながら魔法でひょいっとドアの鍵を閉める。此処からどうなるか。鬼が出るか蛇が出るか。私が殺されるかどうか。
…………ふふ、スリルでゾクゾクしちゃう。出来るなら、想像も出来ないほどの魔法で殺してくれると魔女冥利に尽きるというものだけども。
人物紹介 そのニ
プリティー・プリマドンナ
分類:ヒト科 淫魔類 覇王種と純粋なヒト属のハーフ
性別:両性
年齢:ヒミツ(千歳以上)
身長:189センチ
体重:265キロ
説明文:ただひたすらに、貪欲に、本能のままに生きる人。産まれた瞬間から覇王としての才覚を見せた化け物。プリマドンナは産まれた瞬間に立った、と言われている。自分で臍の緒を引きちぎり、大地に立った。
今もなお生きる歴戦の化け物であり、本気を出せば夫である賢者が本気で戦ったとしても三秒としてもたないらしい。
結婚する前は世界を旅しながら戦うという事をしており、数々の国で伝説を残した。世界でも屈指の実力者である。通り名は色々とあるが一番、有名なのが『力天』である。
夫が死んでからは性に奔放であるが、夫が生きている頃は夫しか愛していなかった。愛する、という点では今も愛しているのは夫のみである。
一途同士の良い夫婦である。
プリマドンナは子供達や、自分が住む町を愛しており、それらを害する者がいれば鏖殺する。それは広く知られており、龍であっても、魔王であっても、ゴブリンであろうともこの町を襲う馬鹿はいない。
けども、町は無法地帯なので旅行の際には気をつけてくださいね。
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いらないと思うけど一応の説明。
プリマドンナは魔女ですが魔法使いでは無いです。ですので、世界十指の魔法使いにはそもそも入りません。そして、世界十指の魔女でもありません。単純な強さで言えば簡単に魔女の十指に入りますが、魔女や魔法使いの強さは魔法の扱いや、繊細さに重きを置きます。