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「此処はこの町、一番の大通りなの。ラムダルイス大通りって言ってね。調合とか、調薬、実験とかに必要なものはだいたい此処で全て買えるわ。あと杖とか、箒とかもね。」
「へぇ、凄い。」
私は箒を売ってる店とか、三角帽子をデカくしたような店とかを尻目にフェイの話を聞く。露天の店では魔法使い姿のおっさんや、どう見ても悪魔が大声で呼び込みをしている。凄い光景だ。
「まぁ、ほとんどの店が違法なんだけどね。他所じゃ持ってるだけで極刑のものとか普通に売ってるから気をつけてね。」
そう言って笑うフェイを見て、私は乾いた笑みしか浮かべられなかった。違法なんだ……。極刑って……駄目じゃん……。
「それと魔女って分かる格好してないと攫われるからね。さっきは私が持ってたから、私のモノだって証明してたけど、一人でこの町に入ってたらヤバかったね。濃いし。」
もう笑えた。笑うしか無い。誰だよ、危険とか無さそうとか考えてた馬鹿。私だね。
「魔女の格好してたら大丈夫なの?」
「うん、魔女か魔法使いの格好してたら大丈夫だよ。どんだけ弱くても、攫われる事はないね。」
「へぇ、そんなものなんだ。」
なんだろう、あれ。蝙蝠?
「何あれ?」
私は指差してフェイに聞く。そこには『第一競バ中継場』と書かれた蝙蝠の形をした看板があった。そこには白い壁があるだけで建物は無い。
「あぁ、あれ?競バよ、競バ。蝙蝠をスピードで競わせるの。それで一着とか二着を当てるとお金が貰えるのよ。そして、レースがある日はレースの様子をあの壁に写すのよ。」
「へぇ。」
競馬みたいなもんか。
「あれだけは合法よ。この町って魔女と煙の町って風体を守るために色々と規制があるのよ。それでカジノとかスロット場とかはこの町に合わないって事で禁止になったのよ。それで、その代わりに用意した合法のギャンブルが競バよ。」
「へぇ!」
そんな歴史があるんだ。ん?
「……賭博は律儀に規則を守ってるのに、売ってはいけない物を売ってるの?」
「それはそれ、これはこれよ。」
真顔で堂々と言われても……。
「そう言えばこの町ってなんて名前なの?」
「え?知らないの?」
え?知らないけど。そんな顔で見ないでよ。常識でしょ?みたいな、その顔。
「うん。」
「じゃあ、教えるけどこの町の名前はスチームパンクウィッチよ。長いから、みんなはスパウィって呼んでるわ。」
スチームパンクウィッチねぇ。もう、名前だけでだいたい此処がどんな町か分かってしまった。蒸気機関と魔女の町ね。科学と魔法か……。
「へぇ。凄い町だね、此処は。」
「でしょ?まず橋の上に町を作ろうって時点で可笑しいわよ。」
あ、それはそう思うんだ。橋の上に町を作るのがこの世界では常識かと思っちゃった。
「なんで、橋の上に作ったの?」
「楓ってほんとに何にも知らないわね。いいわ、教えてあげる。」
ありがたいです。
「まず、この町の土台である橋はある一人の魔法使いがその生涯をかけて作り上げた傑作よ。」
「え!?この橋を一人で作ったの!?」
大きい声で驚いてしまい、周りに何事?と奇怪な目で見られる。
「……まさかと思ったけどそこからなのね。」
ほんと気苦労をおかけします。
「まぁ、いいわ。近所の子供達に話すように一から説明するわ。昔にね、モテない事で有名なこの国随一の魔法使いである大賢者ラムダルイスがいたのよ。口癖は『リア充死ね。』だったらしいわ。」
そいつ絶対に日本人でしょ。あと、大通りはその人の名前からとったんだ。
「それでね、ある時に国王に言われたらしいわ。『隣の国まで攻めるのに渓谷をいちいち迂回してたら面倒だから、橋をかけてくれ。』ってね。本当はもっと王様っぽい言い方だったでしょうけど、内容は一緒よ。それで魔法使いは『褒美に美女をくれ。』って言ったらしいわ。」
すげぇな。そこまでモテなかったんだ。
「で、王様は『分かった。』と承諾したらしいの。それで、魔法使いは意気揚々と橋を作り出したわ。それで最初に出来上がったのが幅が電車ほどしかない細い橋よ。」
その最初に出来た橋が今の中央にある線路になったのかな?
「それが今の橋横断鉄道の原型らしいわ。それで、魔法使いは『完成した!美女をくれ!』って叫んだらしいの。でも、王様は『それだと細すぎる。』って言って要求を受け付けなかったらしいわ。」
「なんだか話の展開が見えて来た。それの繰り返しでこの橋の太さになったんでしょ。」
「そうよ。で、この大きさになった時に魔法使いはいよいよキレて『もう完成!』って叫んだらしいわ。王様も、それで『分かった。褒美をやろう。この者でいいか?』と言って褒美にそれは美しい女性を魔法使いに渡したらしいわ。その女性も魔法使いと一緒になることは望んでたことらしいわ。」
え、めっちゃハッピーエンドじゃん。魔法使いの『美女くれ。』さえ無ければ絵本になりそう。
「良い結末じゃん。」
「此処までならね。此処からがこの街が魔女の町になった理由の説明になってくるのよ。」
「おぉ。」
「王様はね、また橋の増築を頼むからしれないから『橋の近くに住んでくれないか?食料とかお金は上げるから。』って頼んだらしいの。綺麗な美女と結ばれた魔法使いは上機嫌で二つ返事で頷いたらしいわ。そして、橋の上に一軒の家が出来たの。魔法使いと魔女が住む家がね。」
「ん?あれ、美女は魔女だったの?」
美女で魔女か。私はフェイの整った顔を見て、コレね。と理解する。
「そうよ。その綺麗な美女は七百年も生きた歴戦の魔女だったの。脱いだら筋肉バッキバキで凄かったらしいわ。」
お、おぉ。凄い。
「それこそ魔法使いを抱きしめただけで、魔法使いの骨がバキボキと折れるくらいに。」
ん?え?つっよ。