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私達は和気藹々と喋りながら空の旅をニ十分ほど楽しんだ。
遠くから見るとまだ小さかった建物も、町を間近に見ると一変した。人も多く、いたる所から煙が上がっていて、箒に乗っている人も想像以上にいた。
町に入り、噴水広場のようなちょっとだけ開けたところで降りた。
「さ、どうする?何から見たい?っていうか楓はお金持ってる?泊まる場所とかあるの?」
お金なんて持ってないし、泊まる場所なんてもっての外だ。
「いや、行き当たりばったりで飛び出して来ちゃったから何にも。」
「……どれだけ自分の力を過信してるのよ。」
呆れた目で見られる。本日で二人目だ。
「ごめんなさい。」
「まぁ、いいわ。私が奢ってあげるわ。泊まる場所は……私ん家くる?」
「え、いや、悪いよ。」
今日、会った人をいきなり家に招くって凄いな。これが文化の違いか。
「いいって。何かしら楓から貰うからいいわ。」
え?何を奪われるんですか?魔女らしく寿命ですか?
「な、何を?」
「これって多分だけど、駄目な質問なんだろうけど楓って処女?」
え?マジで何を奪われるの?怖い。怖いんですけど。でも、答えるしか無いし、頼れるのもフェイだけだ。
「う、うん。」
「じゃあ、おしっこくれればそれで良いわ。」
…………何がじゃあ、なの?え?いや、あの、え?私がおかしいの?これがこっちでは普通なの?処女のおしっこがお金くらい価値があるの?確かに処女の聖水って売れば地球でも売れそうだけどっ!!
やばいよ。メルヘンが急にクラウチングスタートで一気に走り出したよ。一気に私から離れていってるよ。さっきまでは『ウッス。オラはメルヘン。』って感じでフレンドリーだったじゃん。
「あぁ、ごめんごめん。引かないで。」
それは無理です。誰だって引きます。
「調合で清らかな乙女の聖水が必要でさ。先生に用意して来いって言われたんだよね。私は処女じゃないから自前で用意出来ないから困ってたんだよね。」
あぁ、そうだったんだ。……とはならないよっ!?!?何その調合。何を作るのさ!?おしっこなんて入れないでよ!!あと、私よりも年下そうなのに処女じゃないんだ!?……なんか一番、疎外感を感じたよ。
「へぇ、そうなんだ。」
私は平静を装って、納得した感を出す。
「困ってたから、ほんとよかったよ!!じゃあ、町を案内するね。」
嬉しそうに助かった、って笑うフェイは私の手を掴んで強引に町の方へと誘う。私は胸が熱くなり、これから見る景色に思いを馳せていた。
そのまま引っ張られると、なんだか人でぎゅうぎゅうの通りに出る。
「安いよ!!安いよ!!グリフォンの爪がなんと二千マカだよ!!」「好きな人にこれ一発!!惚れ薬、売ってるよ!!」「吸うと一撃で昇天!!『天国への近道』が一グラム、なんと二万マカだよ!!」「どうだい!!この体!!良い顔!!選りすぐりの淫魔しかうちは扱ってないよ!!」「筋肉質な人族の右足がセール中だよ!!」
……あれ、もしかして無法地帯?なんかヤバい匂いがプンプンするのが売ってるんだけど。あれ?あれれ?もしかして、私が何にもなってないのって割と奇跡だった?五体満足でいれてるのってもしかして、奇跡?
うっわ、しかも見るからにヤバい人と見るからに魔女しかいない。私がすっごい浮いてる。というか、蜥蜴のおっさんから連想してなんとなく予想はしてたけど、人外が多い。
骸骨が服着て歩いてるし、下半身が無くて上半身が浮いてる人とか、頭部が猫とか、そもそも魚類が二足歩行で歩いてるとか、色々といる。あ、二メートルくらいのドラゴンも二足歩行で歩いてる。
明らかに人間なのは魔女や魔法使いのような格好の人だけだ。ローブを身につけていない、三角帽子を被ってない、箒を片手に持ってない人間は私だけだ。
浮いてるって。しかも、めっちゃ見られてるし。
「さて、この町を楓に案内する前に服装をこの町に馴染むように変えないとね。」
フェイは私にウインクをして、この人外だらけの魔境をすいすいと泳ぐように私を連れて移動する。そして、サーカスのテントのような店に入る。
そこにはザ・魔女というような服装やアクセサリーが綺麗に並べられている。
するとフェイが「ほいほい。」とローブやら、三角帽子やら、なんだかよく分からないネックレスだとかを呆気に取られている私の手に追いつけくる。最後には、私を引っ張って、更衣室と書かれた場所に連れ込み、あれよあれよと言う間に私は魔女に変身していた。
「うん。似合ってる。楓の黒髪と黒い眼にぴったりなコーデにしたみたよ。どう?」
「凄い良い。どう?私も魔女っぽいでしょ?」
「うん、凄い魔女っぽい!!じゃ、買うからついて来て。」
あはは、と笑い合う。そうして魔女コーデのまま、フェイがレジでお会計をして元の人外魔境へと戻る。ちなみに店員さんは人間だった。あとレジでよく見る精算する機械もなかった。お金はそのままレジの机にしまっていた。