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月と私  作者: 猫田 寝巻き
蒸気機関魔女
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「それっていくらくらいになるんですか?」


私は重要な事を聞く。これで高ければ売ってもいいかな、と思う。痛みくらい、別に我慢できるし、治るのであれば腕の一本くらい安い。というか安全なうちに痛みに慣れておかないときっとキツい。

この世界で痛みなんて、慣れて当然なものだと思うから。


「まぁ、三百万マカくらいだな。それくらいは払う。」


「お父さん、もうちょっと出せないの?」


もうちょっと出せないの?ねぇ。人体を売る事自体は珍しい事じゃないんだろうか?

やっぱり、常識がまるで違うなぁ、と思う。

というか相場がさっぱり分からない。

地球じゃ、腕一本いくらだっけ?いや、知らないけどさ。確か、いや、うぅん、もうちょい上行けそうな気もする。フェイが言うように。

でも、三百万で売って、安くした分は貸し一つ……ん、それで行こう。

……私、焦るな。

まず三百万マカがいくらか分からないじゃん。簡単に円くらいだと換算していたけど、三万円くらい

の可能性だってある。だって、別に切ったって治せるんだよ?しかも簡単に。

どーしよ、いや、でも価値が三万円くらいでも貸しを一つ恩着せがましく作っておいた方が後々、役に立つんではないだろうか。立つかなぁ?

まぁ、いっか。騙されたっていいや。人生経験だと思えばいいし。此処で最悪、死んでも、私はそれまでって事で。


「いや、三百万でいいですよ。貸し一つって事で。」


「おぉ、割と簡単に承諾するんだな。魔力を持ってるやつって自分の身体に絶対的な価値を持っているから渋ると思ってたぞ?」


そんなこと言われたって知らないし。


「じゃあ、あとちょいで家に着くからそこで切るな。」


めっちゃ簡単に言うなぁ。私、普通に怖いんですけど。爪切るくらいの感覚で言わないでも……この世界だとそれくらいなのかな?なんかそれくらいなの気がする。


「楓はもうちょっと自分に価値を付けた方が良いわ。それだけの素質なんだから。」


「別にいいよ。友達の家族なんだし。」


「嬉しいこと言うじゃないの。」


会って一日も経ってないけどね。けど、悪い気はしない。始めての友達は異世界で出来たかぁ。そう思うと私はこちらの世界の方が合っているのかもしれない。

なんかそんな気がする。

私達は三人でスイスイと人を避けて通る。どんどんと住宅街のような家が乱立した場所へと向かっていく。その途中でちらほらとある出店で何かを買っていた。

ワインのようなものや、肉のようなもの。多分。多分としか言いようがないほどに姿が見慣れたものじゃない。きっとワインはそのままだけど、肉は棘とか、ボコボコが付いてたりと食う気を無くすようなものばっか。けど一個の肉はとても厳重に保管されている。なんか呪符みたいな、陰陽師とかが使ってそうな札が肉の形、色が全く分からないほどに貼られている。

なんの肉かは知らないし考えたくない。怖い。

歩くと特徴的な、家紋のようなものが扉に書いてある家の前に着く。家紋は可愛くデフォルメされた魔女が箒に跨っていて、下半身は書かれてなくて、箒が丸く魔女を囲むように円を書いている。その魔女にはサキュバスの尻尾が書いてあって、その尻尾がクルンっと杖を持っている。


「此処が俺の家だ。」「私の実家よ。」


そう言って、指差してくれる。

うん、普通。家紋が付いている事を除けば二階建ての周りと似たような普通の家だ。


「ただいま。」


二人が家に入り、入って来いと言われたので私も続けて入る。


「お邪魔します。」


中に入ると何もデカくない普通の内装の家だった。家具も普通のよく見る大きさ。けど至る所にフラスコや香水の容器のようなものが転がっている。そこが違う点だった。


「よし、じゃあ切るか。」


そう言い、無作為に玄関にある棚の扉を開けると中から大きいガラスのバケツのようなものが出てくる。中には水色の液体が入っている。

早いなぁ、まだ一歩しか家に入ってないのに切るの?


「それでこれ報酬な。」


シガラキさんはそう言ってポンと私に三百万の札束を渡してくる。どうすればいいだろう?

私が迷っているのを察したのかフェイが皮のリュックを私に渡してくる。


「あげるからこれに入れないい。」


そう言うのでありがたく使わせてもらう。


「ありがとう。」


「いいな。袖まくってくれ。どっちの腕でもいいぞ。」


私は左の袖を捲る。シガラキさんが私の左手の下にバケツを置く。

怖いよぉ。めっちゃ怖い。怖い。怖い。やばい。怖くなってきた。

怖いって。早くして。


「よし、じゃあ切るな。」


さっさと切れよッ!怖いんだよ、こっちは。


ーーーーーーボチャン。


そう音を立ててバケツに私の左腕が入る。

熱い。痛い。

そして、一瞬だけ頭が真っ白になる。

けども次の瞬間には治った。直ぐに痛みも無くなって、元通りになる。

キモいな。蜥蜴の尻尾切りみたい。なんか怖いし、キモい。

バケツを見れば私の腕が水色の液体に使っている。

今ある自分の左腕が自分のものではないような気分になって、気持ち悪い。


「ありがとう。これで色んな薬が作れるんだ。」


薬?これが薬になるの?へぇ。

原材料が人間の薬か。こないだの魔女の回復薬といい、ほんと人間や他の生物達の価値が似たようなもんだよね。地球だと倫理観とかあったけど、此処には無さそうだし。

どんな風に考えて生きてるのか知ってみたいよ。




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