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月と私  作者: 猫田 寝巻き
蒸気機関魔女
12/14

下らない会議 1


【???】


コツン、コツンと硬い大理石を革靴が踏む音が、長い、蝋燭に照らされた廊下に響く。

その音を出す主は天上天下唯我独尊を自でしていそうな奇抜な格好をした見てくれは良い男がこの建物の主だ、と言わんばかりの大股で歩いていた。

男が行く、廊下の先には豪華な両開きの扉が一つ。

その扉の奥には煌びやかな空間が広がっていた。

天井からは直径が六メートルはありそうなシャンデリアが、その下には全長二十メートルはあるテーブルがある。そのテーブルの上にはゲテモノから美味そうな料理まで、幅広い色んな料理が載っている。オーク、天女、悪魔、人間、鬼、猿、天使などの二足歩行で知恵のある動物を調理した料理だ。

テーブルの席は十脚。五対五で座るようになっている。

その椅子には四人が座っており、残りの六人を待っている。その内、一人は部屋に通じる廊下を歩いているので実質、五人と言ってもいいだろう。誰も料理には手をつけていないが、ワインやなんらかの液体を飲んで待っている。

するとそこに


「遅れてすまねぇ。」


と先程の廊下を歩いている男が入ってくる。口では謝ってはいるが、態度は酷いもので入ってきた瞬間に誰も食べていない料理を一つ手で取り、食ってから謝っている。


「貴様は礼儀を知らないの?それとも馬鹿なの?」


一番、扉に近く、入ってきた男の横に座るフランス人形の様な少女が悪態をつきながら言う。少女の両眼は爬虫類のように切長だ。そして、頭には悪魔の様な羊にも似た角が生えている。髪色は紫にも青にも見える色である。目と角さえ見なければ人間目線で可愛いと言える少女だ。


「朕は、もうそのやりとりを聞き飽きたぞい。」


とため息を吐く、真っ黒な性別以前になんなのかすら分からない人型実体が。人型実体は顔を簾がついた様な傘みたいな被り物で隠し、真っ黒な質素な着物を着ている。着物から見える肌は光を拒んでいるようにただひたすらに黒い。


(きょく)(てん)(てい)のそのやりとりも聞き飽きたわい。」


紅茶を飲み、そっとテーブルに置くのはもはや人型でない老木。枯れてる様な見た目であるが葉は青々しく、水々しい。そのギャップを相まって、ある一種の美しさがある。


(まつ)のそのやりとりも含めてですわよ。……まぁ、それを言い出したら終わらない気がするわね。」


そう言って、艶かしい吐息を吐く美人がいる。仏教の地獄を模した模様の着物を着て、華やかな髪をした美女は狐の尻尾を何本も生やしている。頭部には狐耳も生えている。それに加えて、天使の様な羽と輪っかをつけて色々な意味で可笑しいさが際立っている。されど、この間において気品という一点は彼女が圧勝している。


「それはのう、仕方のないことじゃぞ。(ごく)や。」


松がそう言い、エルフの肝の燻製を蔓を使って喰う。


「つーかさ、今晩の料理は人型の料理が多くねぇか?いや、嫌いって訳じゃねぇんだけどさ?喰うんだけどよ?胃もたれしねぇか?」


と極はフォークでオークの肝を刺しながら言う。


「確かにのぉ。ちと多いわな。誰が用意したんじゃ?だいたい予想はつくんじゃが。」


「もちろん私に決まってるじゃない。嫌なら食べなきゃいいわ。」


何かご不満でも?と獄は態度で示す。その獄のお皿には人間の頭部がそのまんま乗っている。


「「「「食べます。」」」」


と言い五人は黙々と食べ始める。沈黙が続くと、極が松を見る。


「そういや、松の爺は人型になんの辞めたのか?」


「飽きたんじゃよ。別に儂らは人型の生物が多いから人間ぽくしていたが、そろそろ飽きてきたんじゃ。次は四足歩行とかで良いと思うんじゃが。」


「私は嫌よ?このままでいいわ。」


「獄はどちらでも可愛いと思う。」


「あら、天もどちらでも可愛いわよ。」


と一人が話し出すとわいのわいの喋り出す。脈絡の無い話が続き、テーブルの上の料理は消えていく。


「お?そういや、残りの奴らは待たなくて良かったのか?一番、最後に来た俺が言うことじゃねぇんだけどよ。」


偉そうに座る極が空になったワイングラスを持ちながら聞く。


「今晩は五人だけじゃ。賭けの準備で忙しいんじゃってよ。」


「私は部下に押し付けてきたわ。」


「あ、俺も俺も!」


極と獄だけでなく、此処にいる五人は全員、部下に仕事を押し付けてきた最低な上司である。


「そう言えば、次の賭けって何するんです?」


見た目は少女であるのにワイングラスを片手に持つ天が聞く。


「これだけ私らが動いているのよ?『勇者と魔王』に決まってるじゃないのよ。」


「そうじゃ、そうじゃ。」


「楽しみだよなぁ。普通に。」


「朕はそろそろ地球以外からもおもちゃを拐ってきて欲しいぞい。」


飽きた、と言わんばかりに無意味に帝はチーズをフォークで刺す、抜くを繰り返している。


「いやぁ、俺らもそうしたいんだけどよぉ。なかなかに条件に合うのが無くってさ。」


「そうなんじゃよねぇ。儂らとて飽きてきたんじゃけど、異世界転移にあんまり違和感を感じなくて、楽しんでくれるのってなかなかにいないんじゃぞ?しかも、地球でもオタクだけじゃし。」


「だよなぁ、魔力とか魔法があると悪いなぁ、って思っちゃうから、その点でも何にも持ってない猿みたいなカスをおもちゃにするから罪悪感が無いのが良いんだよなぁ。何体かは喜んでくれるしな。」


「それなんじゃよなぁ。」


と極と松はしみじみとする。


「カスは流石に酷いわよ。玩具までにしときなさいよ。私達にとって大事な賭けなんだから、それに使う道具をカスと呼ぶのは私達の気品が下がるわ。」


「じゃあ、ゴミ。」


「だから、私達の気品が……馬鹿に気品を求めている私が悪いわね。」


「おい、流石に俺でも馬鹿にされてるのは分かるぞ。」


極がそう言い、獄が『分かるんだ。』と驚く。

こういった感じで話が脱線していくので、なかなか賭けの話が進まない。此処にいる誰もが実力者であり、なんらかのスペシャリスト。そして産まれながらの自分勝手。相手が自分に合わせるのが普通と思う者達の会合である。話がまともに進む訳がないのだ。


「話を戻すんじゃが、お主らの要望を聞きたいんじゃ。なんかあるか?」


松が聞くと極が速攻で口を開く。


「俺は当たり前だが、地球のオタクがいいぞ。アレは見ていて面白い。オタクじゃないと異世界というものに疑問を抱きすぎて話が進まない。まぁ、オタクじゃなくても見てる分には面白いんだけど、あまり驚きすぎてもなぁ。ちょっと前だと永遠に驚いてたしな。オタクの魔法とか異世界に理解あるほうが面白い。だから、オタクを誘拐してくる方がいいんだよ。しかもウィンウィンだろ?」


「そうじゃ。儂らだって、おもちゃが楽しんでくれた方が面白いしのう。」


極が自分の意見を言い、松がその意見をどこからともなく出してきたメモ帳に書く。


「朕は勇者と魔王を兄弟が良いぞえ。血の繋がりがあり、仲の良い者が争うのは見ていて気持ちがいいぞい。」


帝の顔は見えないので分からないがニヤニヤと言っているのは分かる。


「帝は見た目も中身も真っ黒だから面白いわ。」


「そういう獄はどんなのがいいんじゃ?」


「見た目が良ければなんでもいいわ。」


あっけらかんに獄は言う。


「お前も大概な気がするぞ?俺は。」


「天はどうじゃ?」


「前のプリマドンナの旦那が言っていたちーと?というものを与えたい。」


「あぁ、なんか言っておった気がするなぁ。プリマドンナが気に入って、結婚したというのが衝撃すぎて忘れておったわ。」


「……あれは凄かったぞ。俺はプリマドンナが誰かに恋するなんて思って無かったからなぁ。賭けの為の玩具を見る目から男を見る目に変わっていくのがすげぇ面白かった。」


「……純愛を見た気がするわ。」


と五人共がしみじみと感想を漏らし、頷く。


「でじゃ、どんなのがいいんじゃろうか。チートと言っても何も思い浮かばんぞ。」


松と共に四人は『うーん。』と悩む。


「コピーとか言ってたような気がする。」


天が言う。


「即死とか言ってたような気がするぜ?俺は。」


「無限の魔力とかも言ってたようがするわ。」


「朕は不老不死と聞いたぞい。」


「流石に無理じゃて。」


わはは、と五人は愉快に笑う。けども松は本気で無理とは言っていない。


「そうね、勇者はコピーでいいと思うわ。あと剣の才能も。」


「それだけじゃ勇者感がねぇだろ。病気にならないも入れようぜ。なんとかの加護とかでよぉ。」


「聖剣があってこその勇者と思いませんか?」


獄、極、天が自身の勇者像を言い


「魔王も同じ強くしないといけないんじゃぞ?」


松がバランスを考え


「朕はなんでもいいぞい。」


帝は飽きている。

これらの勇者案は可決され勇者にはコピー能力、剣の才、病気にならない加護、聖剣が授与されることに決まった。


「次は魔王だな。魔王は三回変身とかでいいんじゃねぇか?」


「やっぱり馬鹿ね。人間の限界を考えなさいよ。」


「じゃあ、あれだ。勇者のコピー能力が効かない。」


「それはいいと思うわ。あと、人間じゃなくて天使と悪魔のハーフとかに身体を書き換えましょうよ。」


「いいと思う。それと、魔王には魔法の才をつけたらどうですか?」


「それなら邪剣もつけようぜ。それと身体を変えるんだったら三回変身も良くねぇか?」


とまたもや三人が好き勝手に魔王を考える。そして出来上がった魔王が、三回変身、勇者のコピー能力を無視、天使と悪魔のハーフ、魔法の才、ほぼ無限に等しい魔力を備えた化け物と化した。

わいのわいのと好き勝手に決めた勇者と魔王の初期設定が終わり、また食事に手をつけ始める。


「じゃあ、案もだいたい決まったことじゃし、お開きとするかのう。」


「いえ、まだよ。私のペットの件が残ってるわ。」


「……それもやっておくわい。じゃ、また今度じゃな。今度の会議は皆がどう勇者と魔王に関わっていくかを話し合うぞ。それと魔王と勇者のどちらが勝つ方に賭けるのかも決めるんじゃぞ。あぁ、あと今度、バカンスに行くんじゃがお土産は何がいいんじゃ?」


「俺は家。」「私は土地よ。」「デッカいカジキが良い。」「朕は奴隷を所望するぞい。」


「聞いた儂が馬鹿じゃった。」






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