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01

読むのは自己責任で。

会話のみ。

「ねえ、さっき月見里やまなしさんと初めて会話して――」

「胸はでかいか?」


 返事がないからスマホから顔を上げれば悪友の呆けた顔がそこにあった。


「いきなり胸の大きさ聞く人がいる?」

「え、重要だろ、胸の大きさは。え、なに、お前もしかして貧乳好きとか?」

「いやいや、そもそも名字を言っただけで女の子だと思うのもおかしいでしょ」


 む、確かにそうか、もし男だとしたら相当気持ち悪いことをしていることになる。変な噂が出ても面倒くさいし今度からは女かどうか聞いてから確認するとしよう。


「初めてだから分からないよ、見た感じではないように見えるけど」

「そうか、俺は貧乳好きではないから興味がないな」

「まあまあ聞いてよ。えっとね、僕らより格好良くて身長が高いんだよ?」

「へ~」

「興味持って……スマホいじらないで……そういうところだよっ?」


 自分に価値があるとは思わないし貧乳は無価値と言うつもりはないが、やはり胸が大きい方がお得だろう。大は小を兼ねるだ。


「それで高橋はなんでその女子と話すことになったんだ?」


 高橋(きょう)。出会ったのは小学1年生の時、友達になったのは4年生の時。現在高校2年生。それなのに名字で呼んでいる理由は前に女子に良くない方向で盛り上がられたからだ。


「お、おぉ……興味を持ってくれてる。えっとね、同じ係だったからかな!」

「ん? なんでそんな楽しそうなんだ?」

「だってすっごく格好いい子なんだよ?」

「え、ホモ……」


 髪を伸ばせば女でも通りそうなそんな顔、なるほど、心は乙女だったんだな。


「違うよ! あ――もう、影山のせいで見られたじゃんか!」

「えぇ……」


 勝手に盛り上がっておいてこの言い方である。

 んー、だが何度も言われている内に少し興味が出てきた。

 だから連れてきてくれと言ったらモジモジしだして、なぜか顔を赤くし、静かに席に戻るという謎ムーブを取った。

 しゃあない、たまには自分で行動しよう。


「なあ」

「えっ?」


 読書を楽しんでいるところを邪魔するのは申し訳ないが、生憎とその女子のことをまるで知らない。誰かに聞くのが手っ取り早いため利用させてもらった形となる。


「あ、えっとさ、やま……なんつったかな」

「あ、月見里、さん?」

「そうそう、そいつってどこにいる?」


 横の席で会話をしていればそりゃ聞こえるか。彼女は後ろの方、女子や男子が群れている方を指差し、「あの中央の子」と丁寧に教えてくれた。


「はい」

「え? ID?」

「俺に礼をしてほしい時はそれで呼び出してくれ。例え便所にいても、風呂に入っていたとしてもすぐに駆けつけるからな」

「は、はぁ……」

「おう、それじゃあな」


 よし、目的は達成。

 俺は遠慮なく群れに近づく。それからその女子の腕を掴み遠慮なく高橋のところに連れて行った。


「高橋、えっと山里を連れてきたぞ」

「ばっ――や、月見里さんだよ!」

「あ、そうだった……」


 紛らわしい名字しやがって。あと、なんで高橋はこんなに慌てるんだ?


「えーっと……どういう状況かな?」

「あ、ご、ごめんっ、影山は空気が読めなくて……」

「おいおい、失礼な奴だな」


 ここにいたということは同じクラス、同じ学年の女子ということだ。それならもっと堂々と接すればいい、女々しいのは顔だけにしておけよ高橋。


「とりあえず腕を掴むのをやめてほしいかな」

「あ、そうだな」


 高橋の手を掴んで無理やり女子の手を握らせる。その瞬間にぼんと顔を赤くし「あの……その……」と困惑MAX状態になった悪友。 


「え、僕の手より柔らかいよ高橋君」

「あ……」

「こいつは顔に見合った体つきなんだ」

「はは、見たことがあるの?」

「いや、見たことはないが」


 ふむ、この状態で怒らなかったこいつはいい人なんだろう。


「影山だ、よろしくな」

「え、知ってるけど……えっと、月見里秋です」

「こいつの名前は高橋響だぞ」

「同じクラスだから知ってるって!」

「え、俺はお前のこと知らなかったぞ?」


 同じクラスだから知らない人間だっているんだ。先程IDを渡した女子だっていつも本ばかり読んでいるしクラスメイトの半数も分かっていないはず。


「あ、そう……ま、まあ、人気者というわけでもないし」

「だろうな」

「だろうなって……」

「そもそも人気者の定義――」

「月見里さんごめんね! 僕はちょっとこの馬鹿をボコボコにしてくるから!」


 ラブコメヒロインみたいなムーブを取る高橋。こんなことをしているから女子に揶揄されたりするんだぞ、学んでないなこいつ。


「はぁ……はぁ……今日ほど影山の友達でいたことを後悔したことはないよ」


 勝手に廊下に連れ出しておいてこの言い草。


「あ、響だけにか?」

「はい? あの、いい加減にしてくませんか?」

「悪かった。で、お前はなんでそんな慌ててるんだ?」


 見た感じでは大きい割に乗りの良さそうなやつだった。常識もありそうだし高橋と相性がいいと思うが。


「だ、だって女の子と手を繋いだのとか……妹以外で初めてだし」

「へ~」

「興味持って!」


 そう言われてもどう反応するのが1番だったのだろうか。


「え、高橋君って女の子と手を繋いだことないの!?」

「わひゃっ!? や、月見里さんいつから……」


 なんかもう彼女の方が男に見える。高橋ヒロインは先程から赤くなりっぱなしだし逆転しているのは明らかだった。


「なんかごめんね、僕が初めてで」

「そ、そんなことないよ……だって月見里さんは格好いいし」

「うーん、一応僕も女だからね、格好いいって言われるのは微妙かな」

「き、綺麗」

「え、あ、うん、ありがと」


 ひ、ヒロインが主人公を口説いてる……。


「ちょうどいいや、せっかくだし仲良くしようよ」

「だってさ」

「え、この言い方だと影山もでしょ?」

「俺は違うだろ、なあ?」


 俺と友達になりたいやつとか高橋みたいなお人好ししかいないだろう。少なくとも女子が俺と仲良くしたいなんて思うわけがない。


「あ……」

「「え?」」

「残念だったな高橋、こいつは男子だ」

「女の子だよ!」「一応女だよ!」


 身長も俺よりでかいしこんなでかい女子がいてたまるか。

 おまけにイケメンだぞこいつ、女子にモテそうな顔してんぞこいつ。


「え、じゃあ胸でかい?」

「「最低……」」

「いや、重要だろ」

「もう影山は黙ってて……」

「了解」


 席に戻ってスマホいじりを再開。

 そんな時『木村菜乃花☆』という明らかな迷惑女ユーザーから『よろしくお願いします』とメッセージが送られてきた。


「悪友っ、ちょっと来てくれ!」

「誰が悪友だ……どうしたの?」

「い、いきなり詐欺メッセージが送られてきたんだ」


 スマホを見せる。

 すると奴ははぁと溜め息をついてから「木村さんだよ!」と叫んだ。


「え、お、お前、サクラのバイトをしていたのか?」

「じゃなくてっ――え、さくら?」

「細かいことはどうでもいい。で?」


 詐欺メールに引っかかったことがあるのは俺だけだったみたいだ。まあ確かにこいつはエロサイトを見る前に赤面して見れなさそうだからな、ピュアな奴なんだろう。


「横の席の子が木村菜乃花(なのか)さん!」

「なっ!?」


 ブルブルと震えながら横を確認する。彼女も同じようにスマホを持ったままこちらを見ていた。


「き、木村……なのか?」

「は、はい、木村菜乃花です」

「ん? どうしてなのかまで言ったんだ?」

「な、名前ですから……まさかいきなり呼び捨てにされるとは思っていませんでしたけど」

「いや……俺はそうなのかって聞いただけだが」

「――っ!? す、すみませんっ……」


 おぉ、先程のヒロインと同じくらい顔が真っ赤になっている。が、ヒロインはこいつ馬鹿だという顔で俺を見ていた。なにかと失礼な奴である。


「ごめんね木村さん、こいつ馬鹿だから」

「べ、別に大丈夫ですから」

「それよりどうやってこの馬鹿のID知ったの?」

「直接本人から手渡されました」

「おぉ! 影山にしては積極的じゃん!」


 勝手に誤解しているのもムカつくし、自分のことじゃなくなった瞬間にこのテンションはムカつく。なので、


「やまなしー、こいつがお喋りしたいってさー」

「あ、ちょっ――」


 新たに得た必殺の切り札を利用した。

 

「はは、だって僕らは友達だもんね。よし高橋君、お喋りしようか!」


 そして彼女もノリ良く付き合ってくれる。やばい、背が高いし胸もないけどこいつはいいやつだ。


「やまなし、お前はいいやつだ」

「え? ありがとう?」

「自信を持て、そしてこいつを赤面させろ。で、胸でかい?」

「「「うわぁ……」」」


 なぜか3人から白い目で見られました。




「ただいま」

「おかえり兄ちゃん!」

「おう」

「ぐぅぇ!?」


 突撃してきた小さき者の攻撃を躱しリビングへ。

 冷蔵庫を開け茶のボトルを取り出したところでやっと入ってきた。


「か、かわいい妹がだきつこうとしてあげたのによけるって……うぅ」

「いや、兄ちゃん膝が弱いからな」

「え、でもまだ17さいでしょ?」

「ま、冗談だ。小学校はどうだ? 楽しいか?」

「うーん、新しいクラスになったばかりだから分からない」


 いや、クラスが楽しいかとは聞いていないんだが。一応小学3年生になったんだから学校が楽しいかどうかは分かるだろうに。


「兄ちゃんはどう? 学校は楽しい?」

「まあな、今日も高橋と一緒にいたぞ」

「きょう兄ちゃんは兄ちゃんのお父さん!」

「やめてくれ……」


「高橋君って影山君のお父さんだよね!」って無邪気に女子からからかわれたこともあるんだぞ俺は! 


「今日は来ないの?」

「ああ、あいつはクラスの女子とお出かけ中だ」

「へえ、かわいい?」

蜜柑みかんほどではないぞー」

「えぇ……気持ちがこもってないよぉ……」


 ソファに座った俺の片足の上に座る妹。

 子どもというのはどうしてこうも体温が高いのだろうか。こちとら常に5度後半だというのに。 


「横空いてるぞ」

「ここでいー」

「宿題はやったのか?」

「まだー」

「早くやらないと鬼が怒るぞ」


 自分が小さい頃はそれはもう毎日怒られた。でも、俺がどんどんでかくなったのと蜜柑が生まれたことによって対象に選ばれることが少なくなったという状況になっている。


「なにが鬼よ」

「お、母さんいたのか」

「当たり前じゃない、専業主婦なんだから。ところで蜜柑、宿題は?」

「に、兄ちゃんがじゃまをしてきた!」


 なっ、俺の膝を苛めてきた上にこれって。この歳でその場の乗り越え方ってのを分かっている。


「こら陽大ようだい!」

「えぇ……」


 大して交わしたやり取りも聞かず判断するのは短絡的すぎないだろうか。


「あはははっ、兄ちゃんおこられてるぅ!」

「蜜柑も!」

「――あっはははっ、くす、くすぐったいよぉ! あひゃぁ……」

「ふふ、私のくすぐりテクニックを前にしては誰も勝てないのよ」


 だが、怒るばかりではないのが母のいいところだ。

 俺が小学生の頃は鬼母だって恐れていたが、でかくなった今ならそうしてくれて良かったって心から思える。

 俗に言う一般的な男子高校生らしい生活は送れていないにしても、それ以外のことでは人並みになれた気がするからだ。

 テストだって悪友しか友がいないがなんとか乗り切れているわけで。


「そうだ、ちょっとお使いに行ってきてくれない?」

「なにを買えばいいんだ?」

「お醤油とお砂糖……かしら」

「あいよ。金は?」


 なんで俺ばかり、なんて言うつもりはない。蜜柑には任せられないし、なにより危ない人間がいたら危ない――語彙力がないのは問題かもしれないな。


「え?」

「えって、え、俺の自腹?」


 そこで不思議そうな顔をされても困る。家で使うものを自腹で払いたくはないぞ。


「ふふ、冗談よ。はい、よろしくね」

「蜜柑も行くかー?」

「いー」

「あ、そう……」


 ひとり寂しく外に出て近場のスーパーへ。

 問題なく醤油と砂糖を購入し店外へ出た時だった。


「きゃっ――」

「あ、すみません」


 ちょうど入ろうとしてきた女子とぶつかってしまったのは。だが、俺が悪いのもあるが、全く前を見ずに入ってくるのは如何なものかと思う。


「あたた……え、あれ、影山くん……?」

「あ、木下か。ほら、手を掴めよ」

「あ、ありがとうございます」


 彼女は汚れを払ってから改めて俯く。


「あれ、お前眼鏡は? 今日してただろ?」

「え、あ……どこかにいってしまいまして」

「は? そりゃ不味いだろ」

「あの、その……とりあえずここで話すと迷惑なので……」

「だな、とりあえず横で話すか」


 よくある眼鏡をかけてなかったら見づらいとかそういうのだろうか。


「で、どこで失くしたんだ?」

「学校で、ですね」

「よし、今から探しに行くぞ」

「えっ?」

「ほら早くしろ! 眼鏡がなかったら困るだろうが!」


 なんか動きが鈍いので腕を掴んで運んでいく。

 学校は幸いここから近いところにあるのですぐに着いた。


「心当たりとかないのか?」

「図書室……でしょうか」

「行くぞ」

「え、もう鍵が開いてないんじゃ……あっ、また……」


 職員室に突入。


「君、も、もう少し静かに開けなさい」


 見るからにうるさそうな教師が自分からやって来てくれた。正直に言ってこういうタイプの方が対応しやすい、ありがたい。


「あー、図書室の鍵を貸してくれませんか?」


 一応俺だって敬語を使える。なんたってあの鬼母に嫌というほど礼儀を叩き込まれたからだ。その教えを完全に活かしきれているというわけではないが、そこまで嫌われてばかりではないだろう。


「図書室? なんでだい?」

「この女子が眼鏡をそこに忘れてしまったと」

「なるほどね。それじゃあはい、終わったら返してくれよ?」

「ありがとうございます」


 またあわあわと慌てている木村の腕を掴んで連れて行く。

 鍵を開けて中に入るとなんとも言えない匂いがしていた。


「って、どうすれば机の上に置いてある眼鏡を忘れるんだよ」

「ご、ごめんなさい……慌てていたものですから……お使いを頼まれていたのを思い出しまして」

「ちなみにそのお使いってのは?」

「お醤油とお砂糖を買ってこい、と」

「あ、それならこれをやる」


 自分の金も持ってきているしなんとか買える。でも、こいつに買わせるとどっちかを忘れそうなので差し出すことにした。


「えっ、そ、そんな……貰えないですよ」

「いいから受け取れ。俺は鍵を返してくるからお前はもう帰れ。じゃあな」

「な、なんでここまで……」

「今日のお礼だ。とはいえ、まだ全然返せてないからな、どんどん連絡してこいよ」


 彼女に触れないよう図書室から追い出して鍵を閉める。それから職員室で鍵を返してからふたつを買って家に帰ったのだった。

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