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後編




 一つ、昔話をしましょう。

 

 

 この王国民では十一歳に、義務である魔力測定をします。その結果、私は高位精霊の魔力を持っていました。王国中が、史上初の高位精霊並みの魔力を持つ人間の出現に、歓喜しました。



 しかし、自然を司る精霊王は、高位精霊並みの魔力を持つ人間の出現に、驚きを隠せませんでした。人間、いや肉体を持つ生物には、多くても中位精霊並みの魔力しか生まれないからです。高位精霊並みの魔力を持つ、それは精神体の生物しか持ち得ないからです。

 


 精霊王たちは気になって、その高位精霊並みの魔力を持つ人間――私に会いに行きました。


 いざ着いてみるとどうでしょう。その本人は、床に臥せっていました。精霊たちは精神体なので、生き物たちの魂を可視化することができます。

 なので私の魂を覗いてみたようですが、その命は消えかかっていました。



 光の精霊王は、思いました。このまま死んでしまえば、空座である闇の精霊王にできるのではないのかと。

 その考えに、全ての精霊王たちは賛成しました。闇の精霊王が空座になってから、この世界は日々少しずつ、闇が、夜が少なくなってきていました。光と闇は、どちらかが多くても少なくてもいけません。そのままだと、この世界が崩壊してしまうからです。精霊王たちは、この世界の崩壊の予兆に、一も二もなく次代の闇の精霊王を目の前にいる私にすることに決めたのでした。




 しかし、この会話を目の前にいた私は、全て聞いていました。

 私も人間です。世界のために身を投げうるなど、恐くてできません。さらに、私には好きな人がいまして、その人が婚約者になったばかりの頃でした。


 なので、私は辛い体に鞭を打ち、お願いをしました。




「どうか、私が結婚式を上げてから二年は生かせてください」




 ――と。



 精霊王たちは、悩みました。このまま、私の願いを無視し闇の精霊王にして、世界の安定をとるのもよし。成人まで待ち、熟成した精神と魔力で、闇の精霊王にするのもよし。

 これには、精霊王たちは悩みに悩みました。

 


 ここで、精霊王たちは多数決をとりました。結果は二対三で、私を生かすに決められたようです。

 



 精霊の代表として、光の精霊王が私に言いました。




「貴女を生かすことに決まった。そこにあたって、条件がある。一つ目が、貴女がその好きな人と心を通わすこと。二つ目が、結婚式から二年までに好きな人と心を通わすこと。三つ目、一つ目と二つ目が成せなかった場合、すぐに貴女には新たな闇の精霊王になってもらう。達成した場合は、心を通わせた者と同じ寿命を与えよう。これは、私たち精霊王の総意であり、世界の意見でもある。どうだ、約束するか?」




 結婚式は私が十六歳、期限は私が十八歳の時の結婚記念日。

 まだまだ、子どもで浅はかな私はとてもそれが希望の光に見えて、即座に約束を交わしました。



「そうか、約束してくれるなら、それでいい。必ず忘れるな。貴女が十八歳の結婚記念日に、貴女が住んでいるであろう邸の近くの森に、私はいる。そこが、約束の地だ。結婚式から二年後、心を通わしても、通わせてなくても必ず来なさい。私たち精霊王との約束だ」




 この言葉を残し、精霊王はまるで幻のように消えていった。



 私は夢か現か分からずにいると、部屋に両親と兄が凄い勢いで入ってきたのです。

 この時に聞きました。最後の精霊王の言葉が邸中に響いたことを。



 それから、結婚から二年でお別れは嫌なので、婚約者のところによく通い、心を通わせようとしました。

 が、結果はご覧の通り。惨敗で、今では私のことがお嫌いのようです。さらに、結婚前から愛人がいたようですし。









「契約の一と二の失敗により、今すぐに闇の精霊王になってもらおう」



 光の精霊王は、私の胸に手を翳しました。すると、私の胸はバァッと輝きだし、複雑な紋章がそこから抜き取られます。



 この紋章こそが、私と精霊王たちとの約束の証であり、私の命を長らえるためものです。

 一度も私と夜を共にしなかった旦那様には、もう二度と分からないことでしょう。




 光がおさまると、私は一気に苦しくなります。 もう私の体は、自由が利きません。世界が横に見えます。

 あの時と同じ、どんどん呼吸ができなくなり、口からは透明な結晶が出る病気。

 今なら分かります。この病気が、この肉体には多すぎる魔力のためになるものだと。だから、高位精霊並みの魔力を持つ肉体を持つ生物はいないのでしょう。


 

 私の命はもう一時間も、保たないでしょう。


 


「やり残したことはないか?」



 光の精霊王は意地悪です。この状態になってから、こんなことを聞いてくるなんて。



 でも、だからこそでしょうか。





 私はこの二年間いや、旦那様に愛人ができた頃からでしょうか。旦那様に愛されないと理解したので、残りの命をどう使うかに悩むことにしました。



 そこで、私は二つ決めました。一つは旦那様に役立つことをしよう。それで、邸の管理を徹底的にしましたし、旦那様の健康にも気を使いました。

 もう一つは、アルビドゥスを育てること。これは、とても私にそっくりな花だなと思ったら、手放せなくなったからです。


 このどちらも、自己満足です。特に、旦那様の方は。





 いなくなった私をどうとでもできるよう、旦那様の机に遺書と私の大切な押し花を置いておきました。家族はもう知っているでしょう、手紙も送りました。



 こうやって考えると、心残りはないようです。



 そのことを伝えようと、精一杯の笑顔を作ってみました。




「そうか……なら、よかったよ。精霊になるために、貴女の記憶は全て消えるからな、精霊になってから伝えるなど、到底無理なんだ」




 そうなのですか。遺書と手紙を書いていてよかったです。












 随分時間が経ったような、気がします。もう、口からは結晶がでなくなりました。肉体が無くなるまで、後もう少しのようです。 



 誰かが私の髪をすいています。ぼんやりとした視界の中、金髪と金の瞳の男の人が写ります。誰だったのでしょうか。会ったことがある気がします。曖昧な記憶のなかでも、同族だということだけは分かる気がします。



 お父様とお母様とお兄様、今までありがとう。あら、思わず口にでました。でも、お父様とお母様とお兄様って、何でしょうか。




 ああ、私の記憶が薄れていってる気がします。




 旦那様、大好きですよ。あいしてます。





 この言葉を最後に、目を閉じたいと私思っていました。まだ、覚えています。でも、旦那様って、何でしょうか。


 あれ、目から涙が。あらあら、どうしてでしょう。




 何か大切なものを忘れている気がします。





 あの花、アルビドゥスは今満開に咲いているのでしょうか。









 



 














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