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前編




 







 こもるような鐘の音は、今私がいる教会の鐘の音。空はからっと晴れており、まるで私たちを祝福しているようです。



 ――そんな想像をしては、私は私自身を鼻で嗤ってしまいます。これは、政略結婚であり、私は望まれた花嫁ではないことなど、火を見るより明らかなこと。




 そんな私の旦那様は、肩まである黒髪に切れ長の碧眼。顔の黄金比を一寸の狂いもなく配置された目や口は、まるでビスクドールでも見ているような、美男子です。




 外面だけはよかった私たちは、周りからは恋愛結婚と思われている。なので他の令嬢夫人の方々は、こんな美男子と結婚されるんだもの。私は、幸せである。と、羨み妬んでいます。



 実態を分かっている方々は、結婚すれば仲良くなると思っている人もいます。世間では旦那様に女の影など、少しもなかったからです。



 でも、私は知っています。旦那様には愛人がいることを。



 愛人はとっても、可愛らしいお人でした。栗毛色のふわふわとした髪に、まんまるの翠の瞳。妖精のような愛らしさのある方。黒髪に紫眼の私とは真逆です。

 旦那様の愛人は、あまりよい噂を聞きません。三股してるだの五股してるだの。それでもこのままいけば私は長くないことなど分かっているので、旦那様の支えになるならそれでいい。私はそう思っていました。




 その初夜、やはり旦那様は来ませんでした。この邸の私の部屋に持ち込んだアルビドゥスの鉢をぼんやりと眺めました。





 私がある方とした約束まで、残り二年。















  あの結婚式から、一年は経ちました。旦那様はあまり帰ってきません。帰ってきたとしても、旦那様は香水や白粉の匂いを付けてきます。その香りは、あの愛人のもの。旦那様は一途のようです。




 旦那様が私を愛してはくれないからと言っても、私はこの邸の管理を怠る訳にはいきません。その成果として、最近執事と侍女長からは邸が明るくなった。との評価を頂きました。

 王宮で文官の仕事をしている旦那様には、頭と体の回復を早くするようご飯は料理長と相談を。さらに、私自身では得意分野である薬草を利用し、気づかれないように薬草風呂を毎回作っています。

 旦那様に内緒で。と、執事やメイドなどのこの邸で働いている皆さまに言いましたら



「あんな、阿婆擦れ女の取り巻きなクソ旦那様に、こんな献身的で……」

「私……旦那様が憎くなります」

「なんで奥様はそこまで……人伝にでも、言ったらどうです」



 こんなことを言っていましたが、皆さまは全て秘密にしてくれました。ありがたいことです。



 

 邸に持ち込んだアルビドゥスは、去年より倍以上は増えていました。




 私がある方とした約束まで、残り一年。















 あの結婚式から、もう一年と半年。最近、旦那様はよく家に帰ってきます。



 よく遠くから私を見ていますが、何故か旦那様は私と目が合うと、じっと見つめ、顔を反らします。これが、少なくて1日に十回ほど。どうしたのでしょう。もしかして私、嫌われました? ほとんど、会っていませんのに、最近。





 執事やメイドなどの邸で働いている皆さまは、何故か私と旦那様を見ては、地団駄やため息を吐いてます。どうしたのでしょう?




 そんな疑問も尽きませんが、私はそんなことより約束に考えがいきます。



 約束の条件を思い出しては、やはり駄目だったか。と、息を溢してしまう日々。

 私と近くにいる使用人の方には、心配そうに見つめられます。申し訳ないばかりです。




 私がこの邸に持ち込んだアルビドゥスは、一輪だけ咲きました。とても、綺麗でした。





 私がある方とした約束まで、残り半年。



















 もう結婚式から、二年が経ちました。旦那様は相変わらず、遠くから私を見るばかり。




 執事やメイドなどの邸で働いている皆さまも、半年前から変わりがない。




 そんな私の平和な日常も今日で終わり。





「奥様、どちらへ」

「少し一人で、散歩をしてくるわ」

「一人など、邸でも危ないです」

「それでも、私一人で行きたいのよ」







 何とか無理を通して、一人で森に向かいました。この邸が、森に近くてありがたいかぎりです。



 貴族の女性にしては、危うくない足取りで、私は森を進みます。

 



 一時間も歩いた頃でしょうか。開けたところに出ました。ここが、私とあの方との約束の地。




 赤や青に黄色、色とりどりの花が咲き乱れる約束の地。約束した頃は、ただ雑草が青々としていた所がこうなったのは、あの方がここに長らく棲みかとしていたからでしょうか。




 私は一つ大きく深呼吸をして、あの方を呼びます。





「来ましたよ、光の精霊王よ」




 私以外何もいなかった花畑に、光が収縮し、それは人形を成していきます。


 黄金の瞳に腰まである髪。その容貌は私の旦那様が、霞むほどに美しさ。身体には薄絹を纏い、腰の位置で赤い紐を使い整えています。まさに、美しい精霊たちの王という容姿です。



「約束の刻が、来たようだ。違わずに来てくれて、私は嬉しいぞ」

「この命を長らえてもらっているのに、約束を破るわけにはいきません」



 逆に精霊との約束を破る者など、いるのでしょうか。昔から、精霊との約束を破ると大きな疫災に見舞われると言い伝えられているのに。




「約束の条件は覚えているか?」

「もちろんです」





 


 約束の条件。それは私が幼い頃、大病からこの命を長らえるために、光の精霊王と交わした約束の条件。


 

 一に、婚約者と恋愛的な意味で心を通わすこと。

 

 二に、結婚式を上げてから二年迄に、心を通わすこと。


 三に、前記の全てがなし得なかった場合、新たな精霊王の一柱になること。





 

 これが私とあの方――光の精霊王との約束です。





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