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海峡の向こう側で  作者: エティエンヌ・イスラン
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序文

 中世期1037年から1053年の間、アルドフリド王国とエノ―王国は戦争状態にあった。今日この戦争は一般に、「海峡戦争」と呼称されている。

 この戦争の発端は、エノー国王ジルベール2世がその複雑な血縁を利用して、アルドフリド王国の継承を望んだことであった。ジルベールはアルドフリドの先々代国王|(当時)ジェームズ3世の孫にあたる人物であり、叔父であるアーサー5世崩御後の王朝交代を征服の好機と見たのであった。

 当然時のアルドフリド国王ラドヴィッジ1世はこれに抗することを決意する。かくしてアルドフリド海峡を挟んだ継承戦争が幕を開けたわけであるが、戦争は双方の予想を超えて拡大していくことになる。ジルベールはラドヴィッジが自軍に勝利できると考えてはおらず、上陸後の戦い一度で勝利できるとみていた。しかしその一度は広く知られているように、ラドヴィッジの軍才によってアルドフリドの大勝に終わる。一方のラドヴィッジも、大陸に渡ってからしばらくの間はエノ―王国各地を荒らしまわることに成功するも、ダンバル伯領内モルノ―において行われた戦いでダンバル伯アンリ4世に敗北を喫したことで兵を退かざるを得なくなる。結果戦争は膠着状態に陥り、最終的にはジュサック条約によって終結を迎えたのであった。


 本書の執筆を決意したきっかけは、遡れば20歳の夏に大学の図書館において見つけた一冊の図書となる。「ギュスターヴ卿の回顧録」、それが図書のタイトルであった。著者はイヴ・ド・モルノ―とある。

 イヴ・ド・モルノーのことは、祖父からよく聞かされて知っていた。私も祖父も彼の遠い子孫にあたるためだ。そのイヴが書いた本ということで、私は開かずにはいられなかった。

 内容のほとんどは海峡戦争後半のことであり、膠着状態のなかでの騎士たちの生活が事細かに記録されていた。そしてその詳細な記録こそが、専攻分野に悩んでいた若き私を今日の一端の研究者にしたのである。「回顧録」に始まった海峡戦争研究は、いまでは30近い論文となっている。


 本書は当時の史料を素に、海峡戦争を一人称視点から眺めることを可能にすべく執筆した。そしてなるべく多くの視点から見ることができるよう、登場人物も多種多様な者を用意したつもりである。

 モルノ―の自由民にして、戦争中に異例の騎士叙任を受けるイヴ・ド・モルノ―、彼の上司にしてモルノ―とエクイテの領主ギュスターヴ・ド・モルノ―(あるいはド・エクイテ)、アルドフリド王ラドヴィッジ1世、ダンバル伯アンリ4世、傭兵ヒューバート・オブ・サイモン、後にこの戦争の年代記を記すジルベールの秘書官ジャン・ダラム、ルシャペルの市参事会員にして、同市の防衛を指揮したクロード・カティナ、彼らが本書の主人公たちである。

 ギュスターヴ、ラドヴィッジ、アンリ、クロードなどは現代でも名の知られた人物であり、テレビ海峡戦争が取り上げられればほぼ確実にその名が登場している。一方、イヴ、ヒューバート、ジャンなどは今日では歴史をよく知る人でなければ知らない人物であろう。メジャーとマイナー、相反する二種の人間の視点からこの戦争を描くことが、私はこの戦争のより深い理解へと繋がると確信している。そしてこの戦争を理解することは、祖国エノーをより深く理解することと同義であると私は断言する。


 読者諸君は時系列の理解や登場人物の多さに困惑することもあるであろうが、それによって本書を読むことを諦めないでほしい。もしそうした壁にぶつかったのであれば、どうか特定の人物の章だけでも読んでいただきたい。それぞれを読み終えた末にすべてを読み終えても、それは通読したこととなんら変わりないのだから。



―—————-祖先、イヴ・ド・モルノ―の700歳の誕生日に。

                 エティエンヌ・イスラン


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