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触罪  作者: 上田一郎
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序章~完結した部屋

兄弟分かつ親友を自殺で亡くした田中。彼は罪の意識を感じて自暴自棄な日々を繰り返すが・・・

 「なあ、中田。俺は何を目指して・・いや、そもそもどうして生きているのだろうな。俺の方が死ぬべき存在だったのに。」

 田中秀次は眠る前に宛てもなくそういう類の独り言を言うのが常になっていた。彼にとって、親友である中田義道の死後以降、これは自己憐憫というよりは儀式といってよかった。そうしないと眠りにつくのも覚束ないのであったから。

 そして、職も無いのに一人暮らししている6畳のアパートでは、夜中にアルコールや薬に頼ることすらあった。

 彼が考えていたのは、どうしたら親友の死を贖えるか、それだけだった。しかし、何をしたらいいのか分からず、書店で偶然見かけた本を頼りに今かりそめに目指すものを得ている。自宅に籠ってひたすら参考書と格闘している。そんな毎日だった。部屋代と生活費を負担している両親だけでなく塞ぎがちな田中を中田と共通の友人たちは次第に疎い始め、他人との接点はほぼない。

 「お前ら、本当に薄情だよな。いや、自分の日々で精いっぱいなだけか」

 恨み言も虚空に吸い込まれる。そう、この部屋では。

 あるのは机と布団、冷蔵庫にレンジだけだった。布団の周りには空き缶や空き瓶、古本屋で買った参考書が散乱している。所々にタバコの吸い殻すら転がっている。とても、他人が入る余地などない。そう、完結していたのだ。罪の意識とコンビニエンスストアとの往復、それにおぼろげな目標だけで。


 今宵も彼はアルコールに頼っていた。寂しい懐事情から高価なお酒など買えず、酒の肴も無しにコンビニで買った安物のハウスワインをラッパ飲みする。数錠の「錠剤」と一緒に。

 このまま死ねたらどんなに楽だろうか。

 田中はそう思いつつも死ぬことなど罪滅ぼしにならないと分かっていた。例え、死を天国の中田-もっとも彼は死後の世界など信じていなかったが-が望んだとしても、こんな死に方では生温いと彼は感じていた。現実問題、この錠剤とこのアルコールの量では人間は死なないのであったが。

 ともあれ、彼の期待とは裏腹にその日はアルコールが回ってこないのだった。そうして、彼は行きつけの近所のコンビニに出向くことにした。病的に痩せ細った身体を引きずり、似合わない無精ひげをたくわえた蒼白な顔面を覗かせて。

 夏の深夜、コンビニの道すがらで田中を気に留め、田中が気に留める人は彼の脳内の存在でしかいない。そう、季節が虚ろに回っていることだけを除いて、世界は自己完結していたのだから。

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