異世界にいった暗殺者の幸せ
戯れの息抜き小説です。
「死ね」
寝室という場所で至近距離で絡み合う人影。
この話を聞いたものには、恋人との逢瀬に聞こえるだろう。
しかし、片や四肢に針が数本刺さっている壮年の男。もう一人は、黒ずくめの男。
.....どこに、こんな逢瀬があるだろう。
「ごふっ!?」
「ほう、即効性の致死毒なんだがまだ息があるか。.....ふむ、どうせだ遺言を
聞いてやろう。喋れるはずだ」
黒ずくめの男は、高圧的に話す。
「お主は、一年前に召喚された勇者か?」
「よくわかったな魔王、情報規制したんだが」
「はっ!あれだけ派手にやらかしときながら情報規制とか笑かすな」
そこにある感情は、死者の諦観ではなくやり残した者が浮かべる悔しさだけで
あった。
「人族襲撃部隊が食中毒での全滅から始まり、要所にいた指揮官の急死。四天
王全員の病死。他にも色々あるが殆どお前だろ勇者」
「改めてみると結構殺ってるんだな」
「ちっ、呑気な。分かってたぞ。各国が勇者を輩出する中で一番お前が厄介だ
とな。他のクソ真面目な正義大好き勇者(笑)と違って戦争の意味を道理を分
かってる」
「.....」
「自分を正義だと思ってないだろう。戦争なんてものにだ英雄が居てはいけな
い。等しく悪で私利私欲の為に戦う。私も同類だ。魔族を生かすために人族を
殺してる」
「.....殺すのには惜しい。いまからでも和平交渉しないか?」
「心にも無いことを。長年の恨みは決して消えないし表面上は、出来たとして
もどこかで必ず不和が生まれる。私は、人族を根絶やしにするつもりだった。
お前もだろ」
その言葉を聞いた勇者ーー弘乃木和志は、先程までの雰囲気
を一転して明るくする。
「残念。違うんだよな~。だって魔族は復讐に囚われてる訳じゃないし」
「は?」
「魔族は、抱き込んだ。あいつらだって子孫にまでこの戦争を続けたい訳じゃ
無いんだ。未来の為ならって快諾してくれたぜ」
魔王を除く魔族達を全員連れ出して物理的説得で解決した和志だ
が魔族も子供には、幸せになって欲しいという思いもあったため後に反乱が起
きる心配も無いだろう。
「あとは、お前の承諾だけだったんだが別に人族に恨みを持ってる訳じゃなさ
そうだからな。ほれ、【完全解毒】」
和志が呪文を唱えると魔王の体から毒素が消えていく。
「ちょっと待て。百歩...いや、一万歩譲って魔族がOKだったとしよう。
しかし、人族はどうする」
良くも悪くも魔族は基本脳筋なので数日前まで『てめーら!、クソザル狩り
に行くぞゴラァ』とか言っていても何とか納得...出来ると思う。だが、人族
卑屈で臆病で脆弱で恨みも忘れにくい。そう思うのも仕方のないだろう。
「魔族がいい具合に人族の数減らして王都にあつまってたからな。....洗脳
も簡単だった」
「おい!?」
「いやいや、魔法的な洗脳じゃねえぞ?ちょーと、王都に龍種を召喚して自
作自演で英雄になったり、逆に地道に盗賊とかを壊滅させたりしたから俺王
様よりも人気だぜ。俺が白と言ったら白だ」
「クッ....ククク..クハハハッハハハ....、お前の言うとうりにしてやる。
じゃあシナリオはどうする?」
「そうだな、今までの魔族って事にしてこれからは、お前ら妖精族って事に
するのはどうだろう?」
この後どうなったかは、数百年後、歴代最後の勇者と魔王として全ての国に
石像が建てられてる事から察せられるだろう。
☆★☆★☆★☆★☆★
勇妖歴1年
妖精族と人族との歴史的会談が終わって数週間たったある日、勇
者と妖王を交えたパーティーの前日にその二人は、突如として消え、その後
目撃情報は多々あったものの永遠に表舞台に現れることがなかった。
『勇者と魔王の考察』から抜粋
★☆★☆★☆★☆★☆
とある山奥のログハウスにて
「アハハハハッ。苦し....ゲホッ...あー笑える。」
笑う勇者。
勇者と魔王は、俗世を離れて暮らす為に山奥にいた。
「言わないでくれ....舐められない為にも仕方なかったんだ。」
羞恥に顔を赤らめる魔王。その顔は、可愛らしい10代前半の少女だった。
実は普段の魔王は、顔と声を渋めに変えていたのだ。
「いやふっ....そのあの容姿の..ふっ中身がこんな可愛いはらアハハハハも
ー限界クヒッ。アハハハハー」
「そんなに笑わなくてもいいだろう!?私の幼なじみに此処に来るときどん
だけ笑われたことか!!」
ふと、和志の目が細くなり周りの気温が数度下がったように感じた。
「その幼なじみって女だよな?」
「あっ、ああそうだけど。何でそんなに怒ってるんだ?」
「男だったら...抹殺する。俺の女だ誰にもやらん」
「うぅっ」
魔王は恥ずかしくて顔を真っ赤にする。
悔しかった魔王は、せめてもの抵抗で精一杯言い返す。
「ふふん、私もそのだっ、だ」
「だ?」
「だっ、だ大好き!」
「うん、俺も愛してる」
「はぅぅ」
軽快に切り返され余計に恥ずかしくなる。自業自得である。
「んっ?」
「なに、どうしたのこれ以上私をどうするの?」
「ごめんごめん。ちょっと可愛い奥さんと一緒に住めるからまいあがちゃって
ね」
若干目が病んでる魔王に一応可哀想になったのか謝る和志。
しかし、それでも天然たらしは健在である。
「はぁ、もういい。で、なんだったの」
「えーっと、あ。来たよ」
「何が…」
「カズシーー!!!!」
ドッコォーーーン!
行きなりログハウスの前面が吹き飛んだ。
やって来たのは一時期和志と一緒に旅をした聖女だった。
ちなみに、魔王に飛んで来た破片はしっかり和志が消滅させた。
「やっと見つけましたわ!貴方と言ったら何の連絡もなしにいなくなってしま
うのですもの。一言こえを掛けてくれてもいいじゃないですの「レイア」そう
いえばこの女は誰ですの「レイア」私に黙ってこんな女「レイア?」はぃっ!」
軽く和志のこめかみに青筋が立っている。
「ひとの家を壊しておいてその態度なんだ、おい。それとそこの女は俺のだ。こ
んななんて言うのは怒るぞ。来世も一緒にいれれるように呪いも掛けた。」
「えっ、...その人があなたの奥さんってことですの」
「そうだ」
「...........」
和志が肯定するとレイアは黙り込んだ。
そして....
「うぇぇぇぇぇぇんわあぁぁぁぁ....えぐっ。うぇぇぇぇ」
泣き出した。
「おい!?」
「うわぁあぁん..あんだがわだしの処女奪ったせいで神聖まぼうつかえなぐなた
んでずのよー」
「いっいやそれはお前から「和志?」えっ」
「和志、正座」
「何で...」
「せ・い・ざ」
先程までの病み顔から一転、魔王は怖いくらいに無表情になっていた。
「はい、釈明」
「いや、俺もやめろって言ったんですよ?神聖魔法も使えなくなるしね。それで
も押し倒されちゃって」
「判定、ギルティ」
「何故に!?」
「断れたよね。よって正座説教3時間フルコースの刑」
無慈悲な判決が下された。
説教を横目に聞きながら和志は、今の状況を考える。
泣きわめく聖女と説教する魔王とされる勇者。
まさにカオスである。
しかし、この気持ちはなんだと考える。
そして、和志は思い当たる。
地球にいた頃も幼少期から暗殺者として育てられ戦いの毎日。
異世界に来てからもマシになったものの戦いに明け暮れる毎日。
もう無理だと諦めていたもの。
そして、その思いを確かめ為に呟く。
「ああ、幸せだ」
と。