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彼の居場所

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 ようこそ


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 眩い光が一瞬輝いたかと思うと、そこは既に別世界だった。


 あらゆる感覚は全てゲーム世界の中に繋げられ、そして意識そのものが異世界へと飛ばされるその技術により、人々は新天地を手に入れた。


 少年もその一人だ。


 彼はいじめられているリアルとは打って変わり、バーチャル世界ではVR世界唯一のゲーム、エクストリームファンタジーのトップランカーであったりする。


「生き返るぜ。ったく、リアルは疲れてしょうがないな」


 そういうと彼は異世界で大きく伸びをした。


「あれー?シュウキくん、ログインしてたんだー、今日ははやいねー?」


 そこに現れたのは猫耳のあざとかわいい少女だった。


 赤いフリルのドレスを身にまとい、くるりと巻いた魔法の杖にリボンをつけてある、実際の世界では全く戦闘とは無縁そんな格好をしているが、これでもランキング20位以内の超廃人プレイヤーだったりする。


「はは。ちょっといろいろあってさ。それよりクライブは今どこに?」


「あー、クライブくんはねー。『灼熱の監獄』のエクストラボス討伐に出ちゃってるよー。ソロ撃破の限定報酬狙いらしいんだけど、あれを一人で倒すだなんて流石に無理がありすぎるんじゃないかなー」


「はぁ……、なるほど。それじゃあと四時間は帰ってこないな。全く、今日は『雷撃の森』でホウジュレアを倒しに行こうって約束したじゃないか……。無責任だな、あいつめー」


 そういうと、彼は神殿の入り口のような現在のフィールドからその中へと移動しようと足を進める。


「あー待ってよー。私も一緒に入れてよー」


 そういうと猫耳少女はトテトテと彼の後ろを追いかけていくのだった。


 --------------------------------------------------------------------------------


「こんにちは、エミリーさん。クエスト新しいのきてますか?」


 シュウキこと少年は神殿のような建物の中で、受付嬢のようなNPCに対してそう話しかけていた。


 神殿なのにデパートの制服感丸出しの衣装が与える違和感にシュウキはもう慣れきってしまっていた。


「はい。シュウキ様には新規クエストが運営から配信されております。えーっと、このクエストなんですが、文字化けして、よく私にも読めませんね……、えへへ……」


 NPCとは言ったが、別に人間が操作していないわけではない。


 ゲームをプレイしていないだけであって、きちんとした人格のある人間がゲームを運営している。


 当然、人件費は嵩み、一般企業が参入しにくい状態が続いている。これが、エクストリームファンタジーが唯一のVRゲームとなっている所以である。


「なるほどなー。なんか地雷臭がすごいし触れないでおこう。じゃあ、ミミちゃんが来たらこの採集クエストを受けようかな。サイトウさんもそろそろ来るだろうし」


 そう言って、シュウキがクエスト選択画面を操作していると後ろから声がかかった。


「ちょっとー、シュウキくん!ひどいよひどすぎるよ!どうして置いていくの?」


「ごめんごめん、もしサイトウさんが来てたらいけないからね。あの人短気だからここに10秒も止まってくれないし」


「確かにそうだね……。って、あの気難しいサイトウさんも連れて行くの!?あの人女性恐怖症でしょ?私とすごく相性わるいよね!」


「あー、確かにそうか。なら、採集クエストは断念するよ。んー、じゃあ何にしようかなー」


「んー、何これめっちゃ文字化けしてるじゃんこのクエスト!きっと運営の調整ミスかなんかだよ、もしかしたらすごい量のステータスがもらえるのかもしれないよ!」


「いや、明らかに地雷でしょ、これ!あっ、こらっ、ミミちゃん、ダメ!勝手に操作しちゃ!」


「うるさいのです!えぇーい!!!」


 ピコン、という電子音が響いた時にはもう遅かった。


 強制的にフィールドを移動させられる軽い眩暈のような感覚が起きて、前後不覚に陥る。


 彼らが最後に聞いたのは、NPCエミリーのいってらっしゃいませ、という事務的な声だった。


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 意識がはっきりすると、目の前は真っ暗だった。


 ただ、何もないところに自分の体だけがはっきりと視認できた。


 光源がない状況にもかかわらず視認ができるという異常事態。リアルではありえない。つまりそれは、ここは相変わらずVR世界の中であるということを示している、ということだ。そして、VRゲームとしてフィールドが配置されていないという完全な欠陥ステージであるという証明もついでにはっきりとなされていた。


「なんだよ、ここ。やっば地雷じゃないか!」


 シュウキは適当に毒付くと周囲を探索し始めた。


「ふぇぇぇん。暗いよぉぉぉ。怖いよぉぉぉ」


 そうしている内にどこからかそんな声が聞こえてきた。


「ミミちゃんか?」


 そういうとシュウキは声のする方へと駆けて行った。


 すると、暗闇の中に彼女の姿だけがはっきりと浮かび上がっているのが見えた。


「シュウキくーーーん!!!」


「うわっ、飛びついてこないで!」


 彼女はシュウキに抱きつき、ぎゅーっと力を入れて抱きしめた。


 VRゲームといえどもその感覚はリアルだ。女慣れしていないシュウキは即座にうろたえた。


「怖かったよぉぉぉ!!!早くここから逃げようよぉぉぉ!!!」


「わ、わわわ、わかった!分かったから!落ち着いて!」


「う、うん。落ち着く……」


 ミミはあざとく深呼吸をすると、最後にもう一度シュウキを抱きしめると、パッと離れた。


「えへへ、落ち着いたよ!」


 百点満点の笑顔を浮かべる彼女にシュウキはどぎまぎするが、状況が状況なのでシュウキは理性を振り絞って話を始めた。


「そ、そうか。よかった。じゃあ、状況を整理しよう。とりあえずメニューは開けるのかな?」


 そう言って、二人はメニュー画面を開いた。


 いつも通りインベントリや、ジャーナルなどのゲーム関連の項目の中にミッションもあった。


「よかった。この機能がバグってたら帰れなくなるところだったよ」


「えぇぇー!よ、よかったー!!!」


 ミミは依然とあざとかわいい声をあげていた。


「じゃあ、ミッションをさっさと破棄しちゃおうか」


 そういうとシュウキはミッションを選択し、文字化けして読めないその項目をタッチした。


 いつも通り、ミッション破棄という項目を選ぼうとする。


 しかし。


「あ、あれ?」


 いくら押しても、それは実行されなかった。


 全く景色に変化はなく、何も変わらない。


 ただただ、選択音がピコピコと無駄に鳴り続けるだけだった。



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