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僕達はもう、友達には戻らない

作者: 千曲千明

恐らく2013年2月頃の作。

 僕も、君も、君の傍らで控えている家来達も、誰一人として物音を立てず口を真一文字に結んで屹立している。

 まるで、円卓の間全体が凍り付いてしまったかのようだ。

 今この瞬間、この場を支配しているのは完全なる静寂。そう思った。


 君は高い所から僕のことを見下ろしている。

 その眼差しは冷ややかに尖っているようにも、憐れみや慈しみを帯びているようにもとれる。

 僕は跪いた姿勢のままで、それに晒されながら、事が終わるのをじっと待つ他に無かった。


 * * *


 ――僕達はあの日、友達になった。


 僕が君と出会ったのは忘れもしない、今から丁度十五年前のキャメロット城の中庭で、だ。

 一人は、教育係の目を盗んで部屋から抜け出したログレス王国の王子として。

 もう一人は、父親と逸れて中庭に迷い込んだ宮廷魔術師の倅として。


 僕達は互いの素性を知らないままに出会い、年月が過ぎて互いの身分が分かるようになってからも、時間が許す限り行動を共にする仲となった。


 * * *


 従者から受け取った剣が、君の華奢な腕によって高々と振り上げられる。

 西の窓から差し込む夕日を浴びて淡く輝くそれを、僕は祈り縋るような心持ちで眺めていた。


 君の家来に促され、目を瞑って軽く頭を垂れる。

 その直後、白刃が肩を叩く感触が波となって全身を駆け巡った。


 * * *


 ――僕達はあの日、友達じゃなくなった。


 僕達が十四歳になった年の春、ログレス国王が崩御した。

 父王の遺した言葉に従って王位を継ぐ事になった君は、円卓の第一席――ログレス国王が代々掛ける玉座――に凭れ掛かり、顔をぐしゃぐしゃにして笑った。

 それを見て僕も、目尻で揺れる涙を零すまいと必死に笑い顔を作った。


 次期国王として、次期宮廷魔術師として。

 僕達はそれぞれに一国の王たる人間がどういうものであるか、否、どういうものであるべきかについての了見を詰め込まれてきた。


 その結果、君の父上と僕の父親がかつてそうしたように、僕達には友達同士から王と臣にならなければならない時期があることを悟った。

 そしてそれが思ったよりも早く訪れた。ただ、それだけの事だ。


 * * *


 体を強張らせている僕の目の前に、君の白い手が差し出される。

 ぶるぶると震える両手で何とかそれに応えると、君は五年前のあの時と同じ、今にも泣き出しそうな顔をした。


「兄弟として永久に生死を共に」


 ――僕達はもう、友達には戻らない。


 僕も五年前と同じ様に、円卓を真っ直ぐに見据えて笑ってみせる。

 その時と違うのは、きっと今の君と同じ様に、これが心からの笑みであると言うこと。

 それから、僕がこの円卓の第二席――王を補佐する宮廷魔術師の椅子――に座ることを許された“円卓の騎士”にたった今、なったこと。


「兄弟として永久に生死を共に、国王陛下」


 言い終えた瞬間、堪え切れなくなった涙粒が零れ落ち、黒色のローブに小さな染みを幾つも作った。

騎士叙任式の一幕です。

お読みいただきありがとうございました。

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