昨日見た夢3 倫子と創(はじめ)の場合
今回はちょっとだけおまけがあります。
少しだけ家族の日をネタにしてあります。
「お前だけ……ずるい」
「ずるくない。私が飼い主様」
「そうだけど……それなら今位は俺に譲ってくれよ」
センター試験の自己採点も終わって最終的な志望校も確定した水曜日の放課後。創君が私の家の炬燵で寛いでいる。今年は炬燵で勉強するつもりだったので、横長の炬燵を置いてしまったのでいつもよりも更に部屋が狭くなっている。炬燵の下にはホットカーペットが敷かれているので、どちらかの電源を付ければかなり暖かい。今はカーペットの電源をつけてぬくぬくしているのだけど、今の私たちが取り合いをしているのは、炬燵布団に寄りかかってリラックスしているビリーだ。
センター試験の直前は、会うことも電話もしないで互いに頑張ったのだ。試験終了後に彼に会った時にいつもよりスキンシップが激しかったのは若いからという事で察して欲しい。
そして私と彼のスキンシップの証をうっかりクラスメイトに見られてしまって恥ずかしい思いをした私に謝って欲しいと訴えたら、嫌だと宣う。
私と彼の関係を校内で知っている人は片手もいないから、私の彼につけられたうなじのキスマークはいろんな方向のうわさが飛び交った。そのすべては正解に全くたどり着けていないのが更に笑えるのだった。
本来校則でも指輪は禁止なのに、婚約指輪だから許可して貰いたいと学校長に直談判しに行ったのは冬休みだったせいか、年明けから指輪を付けているけど誰もそのことを突っ込んではくれない。世間的なダイヤモンドがついていないせいかファッションリングに見えるらしい。校則では不純異性交遊はいけないとあるが、婚約と婚姻に関しての記述は一切なかった。多分私が卒業したらその項目も増えるんだろうなあ。
中学校を卒業してすぐに彼から告白されて、自分の気持ちを彼に伝えたのは高校三年になる直前。時を同じくして、はとこの家から家にやってきてのが、漆黒の体にゴールデンアイの猫のビリー。どこかの品種の猫なのかと思う位、優雅な仕草をするのだが、ビリー自体が怖がりのせいで、すぐに隠れてしまう。私とお家デートをしている創君がビリーに触れるようになったのだって、炬燵を部屋に置くようになってからの事だ。
創君とビリーのやり取りを見ていると、創君に甘えるときはいつでもビリーは創君の目をじっと見つめる。その仕草があまりにも可愛らしくて、猫が好きでもなかった彼が骨抜きにされて猫好きになってしまったのはお約束なのかもしれない。
けれども……飼い主の私としてはかなり羨ましいのだ。だって……彼と一緒の時のビリーは私に甘えてくれないのだから。このままの状態だと、私と彼どっちが大事なの?って冗談交じりに言ってしまいそうな位に二人の状況はラブラブだ。猫と人間で良かったとこの時ほど思ってしまう。まさか猫に彼氏を取られる半歩手前だなんて。
そんなこんなもあって、どうしても私は彼の元にビリーを渡したくなかったのだ。
「酷くない。創君といるときのビリーは別人すぎるんだもの」
「いや、猫ってツンツンしていながら甘えてくるのがいいんじゃないか」
ええ、あなたならそうでしょうよ。私は甘えてくる子をべたべたに甘やかしたいのよ。勿論我が家のルールを守ったうえでね。
「同じ学校の女子にやきもちを焼くのは分かるんだけどさ、まさか自分の飼い猫にやきもちを焼くなんてな。俺ちょっと嬉しくって・・・・・・顔が緩んじゃってもいい?」
「言われなくてもやきもち焼きなんだから。悪かったわね」
もっと彼と親しくしたいのに、方向はどうも怪しい方向に進んでいく。
別にお家デートじゃなくても本当はもういいのだ。けれども……春からの習慣のせいか自然と私たちは家の中で人の目を気にしないで過ごすことを選んでしまっている。
彼の卒業したその日に入籍することにしている。もうすでにクリスマスに婚姻届けは記入して彼のご両親がその日まで預かってくれている。入籍までの約束という事で、体の関係までは進まないようにと釘を刺されている。クリスマス前後に体を重ねて妊娠したら卒業式にはつわりがあるかもしれないし、学校を休学しなくてはならないかもしれない。何より自分たちが受験生であることも分かっているから今は試験に専念という事でせいぜい服を着たままでどこかにキスマークを付けられている位だ。うなじの件があるから暫くは私の方からお断りしたい気持ちだけどね。やっぱりそういうことは当人たちが知っていたらいいことと思っているからだ。
「俺もお前と喧嘩したいわけじゃないから。卒業したらずっと一緒に暮らしていくというのに本当に大丈夫なのか?」
彼が不安げに私を見つめる。確かにそうなんだ。卒業して婚姻届けを出したら同居できるわけで。どこか部屋を見つけるか、この家で暮らして叔母たちにまとまった現金を渡して出て行ってもらうかのどちらかにするつもりだ。叔母たちに出て行ってもらうのなら、二月の末には言い渡さないといけないだろう。
「ビリーが慣れたらこんなことは減っていくはずだもん」
かなり不安だったりするけど、そんなことは隠しているふうに装う。少しくらい彼氏(というか婚約者だけどさ)に見栄を張っても誰も責めないよね。
「まあそういうことにしようか。それよりもさ、お前覚えているか?」
「何を?」
「かなり前にお前が見た夢を俺に教えてくれたじゃないか」
彼に言われても思い出す。確かあの時は……私と創君とペットがいる夢だった。
とても暖かくて幸せだったのでかなり印象的な夢ではあった。
「そうね、創君と一緒に猫をベッドの中で撫でていた……だっけ?」
「そう。一緒に暮らせたらその夢を叶えさせてやるからな。ちょっと強引にやり過ぎて結婚まで突き進んでしまったけどな」
「創君は……それでもいいの?私以外の人が出てくるかもしれないよ」
「それはないな。12年もお前のことが好きだった訳だし、むしろ責任を取ってくれてありがとうって感じ?」
なんかすごく物騒な言い方したよ。この人……大丈夫なのかな。
「なんか私のコト好き過ぎって言い方ね」
「当然。親たちの言う通りに本当はしないでお前が欲しい位。出来ていなければいいっていう訳じゃないけど、お前の初めてをぱっくりと食べちゃうことないかなって」
「ちょっ、創ってば」
「俺を呼び捨てにするのもいいな。今度からそう呼べよ」
「いきなりなんて無理よ」
「お前にとって肌を見せることってそういうことだろ?ごめん……中学の修学旅行前に担任に相談しているのを聞いていたんだ」
確かに中学の時は、生理ということにしてお風呂には入らなかった。高校の時は保健の先生の部屋のユニットバスを貸してもらった。お腹にある手術の傷跡を誰にも見られたくなかったから。
「だから……少しずつ進めていけばお前も怖がらないのかなって。お前とビリーって似たようなものじゃん。怖がりで」
うっ、そのことについては反論が出来ないのがまた悔しい。
「いいんだよ。お前はお前でさ。ここら辺から下に切られているんだろう?母さんに聞いた」
創は私のおへその辺りに手を当てる。確かに婦人科だけならそうなんだけどね。
「それと……もう一本あるの。今はそれしか言えないや」
「その傷そんなに気になるのなら……形成手術してみるか?」
「いいの?」
「ああ、社員旅行とかでも皆とお風呂に入れないだろ?まあ俺は早い時期に見せてもらうけど」
また爆弾発言をされた。今日の彼の頭はちょっといつもよりねじが緩んでいるのかもしれない。
「センター試験で……壊れちゃったの?」
「まさか。大学に受かったら結婚じゃないから、浪人しても俺の嫁だよなって思っていただけ」
あまりにもバカすぎる発想にこっちまで頭が痛くなる。
ビリーも若干テンション高めになっている創が気になったのか気が付くと創の膝の上に乗っていた。
「やっぱりお前は可愛いなあ」
そう言ってお腹に顔を埋めている。私がやると体を捩って嫌がるのに彼にはされるがままになっている。それがまた嫌だ。
「もういいわよ。二人で薔薇でもしていたら?私は勉強をする」
ベッドの上に置いてある勉強道具を取り出す。基本的には商学部をメインに受験するんだけど、唯一ドイツ語学科も一校受けることにしていた。
「それってずるくないか?」
「あなたはビリーに頼られているので、飽きるまでご接待をしてあげてください。私は勉強が本来のお仕事だから勉強するだけです。浪人したくないもん」
私が完全にへそを曲げたと勘違いした彼は暫くの間オロオロしていたけれども、そのうち膝の上にビリーを置いたまま勉強を始めたのでした。
おまけ
「なあ、今日って家族の日なんだって」
「ふうん」
「だからさ、俺達ももっと仲良くなってもいいと思わない?」
「思うけど、今じゃない」
「本当にお前ってそういうところは真面目だよな」
「私は私でいいです。だったら……今日は帰ったら」
話を反らしてイチャイチャしたいみたいだから私の方も全力で阻止することにする。
今頑張らないでどうする気なんだろう?受験生なのに。