「お前……ロリコンだったのか?」「ふざけんな!俺はロリコンじゃない!ていうかお前にだけは言わたくねえ!」
俺の友達が最近おかしい。
俺、旭佑真が桜ノ宮学園に入学してしばらくたってからのことだ。俺は友人である一之瀬恭耶を部活見学に誘った。しかしその時あいつはどうしても外せない用事があるから無理だと断った。今だから言うが、俺はここでやつに食い下がるべきではなかった。「そっか、じゃあな」程度に軽く挨拶して一人で部活見学に行くべきだった。その後の展開を知っている今なら間違いなくそうする。そうすれば俺が今おちいっている状況には決してならなかったはずだ。しかし俺はこの時この友人に何の用事なのかを聞いてしまった。そうしたらあいつ、「小学校に行く」などという。挙句の果てに「気になるやつがいる」などというわ、その気になるやつというのが小学校1年生だったりと友人の知らない方がよかった側面を知ってしまった。だから俺はこいつの監視をすることにした。もちろんこいつが間違い犯さないためである。なにせこの友人、やってることが完全に不審者だ。まず気になる相手とやらが通っている小学校まで自分から赴き、小学校の監視を行う。次にその気なる子とやらの情報を得るためにお菓子をエサに友達と見られる小学生女児から情報収集をする。挙句の果てに下校時に眺めるだけに飽き足らず休日に出かけているその小学生女児を後ろから付け回すなどである。もう意味が分からない。
その上ものすごい不本意なことに先日小学校の周りを徘徊するロリコンの不審者情報が出たのである。それも二人組の!
ふざけんな!俺はロリコンじゃない!むしろ俺は友人の凶行を止めようとしている立場だ!
だが厄介なことにそんなことをおおっぴらに言うわけにもいかず、仕方なくこの話に関しては放置している。だが真に厄介なことはこの不審者情報、恭耶がまったく自分のことだと思っていない点だ。挙句の果てに「ロリコンか。日本のモラルも落ちたな」などと言い出す始末である。
お前が言うな!ていうかお前にだけは言われたくねえ!
さて、思わず昔を思い出していたわけだがそろそろ現実に戻らなければならない。
「ちょっと君たちに聞きたいことがあるのだが」
正直現実逃避を続けていたいがそうもいかない。このままではあらぬ罪を着せられてしまう。
「君たち、小学校の前でいったい何をやっていたんだ?」
そう、俺と恭耶は現在小学校警備員に事情聴取という名の取り調べをされていた。
「君たち、小学校の前でいったい何をやっていたんだ?」
なぜだかわからないが俺は一緒になぜかいつも俺のいくところについていく佑真(ホモ疑惑)とともに城山小学校の警備員につかまっていた。
正直意味が分からない。
俺一之瀬恭耶には前世というものがある。その前世曰くこの世界は乙女ゲームの世界らしい。そして俺はその乙女ゲームにおける攻略対象らしい。しかしである。これが前世の記憶ですなどと、ましてやここはゲームの世界ですなどといわれてすんなり信じられるわけがないだろう。ならば当然確認をしなければならない。幸いにもゲーム本編が始まるまでまだかなり時間がある。なんでも俺はその乙女ゲームでは教師ということになっていた。つまりだ、まだ9年もゲーム開始まで時間があるということだ。ならば確かめるしかないだろう、ここが本当に乙女ゲームの世界なのかを。だから俺はここに来た。将来のヒロインである桜野奏(現在小学1年生)が通うこの城山小学校に!
だがもちろん桜野の存在を確認するだけでは意味がない。本当にゲームの設定通りの桜野なのか?それはこの世界が乙女ゲームの世界なのかを判断する上で重要なピースの一つだ。ならばそれも確かめるしかないだろう。それから俺は彼女のことを見続けた。桜野は何が好きか?彼女の交友関係はどんな感じなのか?などである。
残念ながらまだ彼女の過去話などは把握しきれていないがとりあえず現状についてはある程度把握できた。把握した結果は、幼いながらもやはりゲームの桜野に近い人格をしていた。
やはりこの世界は乙女ゲームの世界なのか?俺はさらに彼女の調査をすることにした。
しかしである。せっかく調査が進んできたというのにここで思わぬ邪魔が入った。そう、先ほどの警備員である。桜野の過去に一之瀬先生というのは存在しなかったはずなので、せっかく桜野の視界や耳に俺の存在が入らないようにしていたというのに、これはどういうことだ。それもこれも佑真の奴が奇声をあげたりして目立つからだ。やはり連れてくるべきではなかった。
「何をやっていたかですか。ただ写真を撮っていただけですが?」
しょうがない。別にやましい何もないので正直答えておくとしよう。俺は手元のカメラ見せる。
「どういった理由で写真を撮っていたんですか?」
「理由ですか。そうですね、いわゆる(桜野の周辺の)調査の一環、フィールドワークの一種とでもいえばいいのですか?」
「いや、(小学生女児の)調査とフィールドワークは違うだろ……」
「そうなのか佑真?まあ他に表現方法がわからないので大体そんな感じです」
俺は嘘偽りなく正直に答えた。
なぜか隣の佑真が『絶対違うだろ』みたいな感じの視線をよこしてくる。いったい佑真は何が気に入らないというのだ?
「失礼ですけどカメラの中身を確認しても?」
「別にかまいません」
そう言って俺はカメラを警備員に渡す。
「お、おい恭耶。そんなにあっさり(幼女の盗撮写真を)渡して大丈夫なのか?」
俺がカメラを警備員に渡したらなぜだか佑真がものすごい狼狽し始めた。
うざい。
「佑真がなにを心配しているのかわからないが、写真程度に何の問題が?」
「俺がお前の(幼女盗撮)仲間だって思われることだよ!」
「意味が分からない?」
相変わらず佑真は俺のよくわからない判断基準で発言をする。
「はい、確認終わりました。お手間をとらせてすみません」
そうこうしている間に写真の確認が終わったらしい。俺は早速カメラを返してもらおうとしたら―。
「お、おとがめなしだと!」
また佑真が騒ぎ出した。相変わらずうるさい。
「ちょ、ちょっと見せてくれ恭耶」
そう言うと佑真の奴は警備員からカメラを奪うように取るとカメラの中身をものすごい勢いで確認し始めた。正直ドン引きだ。ほら警備員もお前の突然の奇行に引いてるぞ。気付け佑真。
しかし俺の思いもむなしく佑真は引かれていることに気付くことなく確認作業を続ける。そして一通り確認作業が終わったのち―。
「な、なんだと……」
なぜかひどく驚いた声を上げる。
「どうして小学生が映ってないんだ」
……こいつはほんとに何を言ってるんだろう?ほら警備員も怪訝な顔をしているぞ。
「お前が一体何を期待しているのかわからないが、勝手に小学生を撮影するとか肖像権の侵害だろ。常識的に考えて」
「恭耶が常識的なことを!?」
「それにまったく写っていないことはないだろ。こことか」
そう言って俺は一つの写真の隅を指さす。そこには桜野の姿が映っている。
「た、確かに」
俺に指摘され佑真は猛然と写真を再度確認し始める。この鬼気迫る勢い、きもい。
そもそも俺はさっきも言ったが肖像権を考えて一度たりとも桜野や彼女の友達を直接取ろうとしたことはない。あくまでも別の、例えば桜野がよく行く公園の木をとっていたら桜野が映りこんでしまった。そういった写真しかとっていない。これならば誰に文句を言わせることなく桜野の調査がてら写真を撮ることができる。別に写真の背景に全然知らない人が写ってしまうなどよくあることだ。
「それで確認は終わったか?」
「あ、あぁ」
佑真は何やら俺を畏怖するような目で見てくる。なんだこいつ?
「それで、お前はどうして小学生が写っているかの確認なんてしたんだ?」
「いや、その……」
何やら佑真が口ごもる。これはもしや。
「もしやお前、小学生が目当てで俺についてきていたのか?」
「それは違う!」
佑真は否定するが俺の疑いは、ついでに警備員の疑いは一層深いものとなる。
「なるほど、やたら俺についてくるからホモかと疑っていたがただのロリコンだったか」
「いや、ホント違うから!」
「じゃあなぜさっき鬼気迫るような勢いで小学生が写っている写真を探していた!」
「だから―」
「それにさっきも俺がカメラを警備員さんに渡した時、ひどく狼狽していたな。大方小学生の写真が見つかるなど変な妄想をしていたのだろう!」
「いや、それはあってるんだが―」
「なに!やはりそうだったのか!」
「人の話を最後まで―」
「どうやら君には話を聞かないといけないようだな」
往生際の悪い佑真に警備員の静止の声。
「いや、ホント待ってください。話を聞いてください」
「話なら向こうの別室でちゃんと聞こう」
そうして警備員に連れていかれる佑真。
しょうがない。ここで佑真を置いていくのは寝覚めが悪い。俺もついていくか。
「そういえば最近このあたりにロリコンの不審者が出るんだったな。まさかあれも―」
「もうお前ホント、何もしゃべるな!俺はロリコンなんかじゃない!」
こうして佑真は警備員につかまったのだった。
おまけ
「あ、公園でよく見るお兄ちゃんだ」
「……やはり話をよく聞く必要がありそうですね」
「いや、待て。俺をよく見るなら恭耶だって」
「?このお兄ちゃん?私知らない」
「な、なに。どういうことだ恭耶!」
「どういうも何も、人の視界は180度ないだろ」
「は?」
「(調査対象たる)小学生の視界にやたらめったら姿を表さない、当然のことだろ?」
「……お、お前」