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無希望転生物語。  作者: 翡翠しおん
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はじまり。

 嗚咽が響く、白い部屋。


 霞む視界で、母さんと父さんが泣きながら、笑っていた。


 うん、分かってるからさ。

 大丈夫だって。


 声も聞こえないし、だんだん視界が暗くなってきた。


 俺はもう、やれるだけやったからいいのにな。

 俺のことはいいから、母さんと父さんは、長生きしろよ。


 由美は泣くんだろうなぁ。

 あいつ、普段はつんけんしてるけど、何だかんだとお兄ちゃんっ子だったもんな。


 だけどまぁ、俺には後悔なんて微塵もない。



 痛くて

 苦しくて

 退屈なだけの日常とはおさらばだ。



 元気でな、みんな。




 ぶつんっ、と何かが途切れる様に全てが断絶された。


「ようこそ、××××」


 ……誰かが俺の名前をさらっと呼びやがった。


 不信感だけを抱きながら、俺は目を開く。


 ?

 目を開けられた?


 真っ白な靄が、座り込んでいた俺の胸ほどまでを覆っている。

 更に真上を見上げれば、晴れ渡った青空。


「何だここ」


「ここは転生の間という」


「ぬぁっ?!」


 目の前にどんと構えるじいさんに、俺は本気で驚いた。

 白いひげをたんまりと蓄えて、頭の上には金色の輪っかが浮いている。

 ……痛いじーさんだな。


「痛くなどないっ!ていうかそんな事神様に言っちゃダメっ!」


「テンションの高い神様がいるかっ?!」


 思わず反論すると、自称神様の老人はしょんぼりと肩を落とした。

 何なんだ、このじーさんは。


「……よっと」


 試しに、手と足に力を込めてみる。

 ふらつきながらも、俺は立ち上がることが出来た。


 なんだ、意外と覚えてるもんだな。

 立ち上がって見た自称神様は、デカい。

 2mは固いぞ。


「まぁ、いいや。で、君これ書いて」


 神様はずいっとバインダーに挟んだ一枚の紙を羽ペン付きで押し付けてきた。

 紙には、しれっと当たり前のように。


『転生先希望アンケート』


 中二病な文字が並んでいた。


 希望の転生条件に付いてアンケートにお答えください。


1.転生先の世界の希望は?

魔法世界

科学世界

どっちでもいい


 意味が分からん。


2.転生先での性別は?

その他


 ……その他って何だかすっげー気になるわー。


3.転生先での職業は?

勇者

王様

その他


 ……おいおい、他にも色々あるだろ?!


「はぁぁ……」


「おぉ、悩むがよい悩むがよい」


 満足そうに頷く自称神様が頷くたびに、長いひげがふっさふっさと獣の尻尾並に揺れ動く。


 俺はそのバインダーをそのまま突っ返した。

 全問無回答のままで。

 呆気にとられた神様に、俺はさらっと言ってやった。


「テキトーに設定してくれたら、もうそれで良いっす」


「え、え! 何で、どうして?君の人生だよ! しかも若くして命を散らしたというすごく不運な終わり方だよ?!」


「いや、俺別に、後悔も未練もないんで」


「そそそそんな今時の子って、こういう希望通りにしないと怒るのに?!」


 尋常じゃないほどに慌てふためく威厳ゼロの神様。

 俺はこのじーさんが神様であることの方がよっぽど心配だ。


 若くして死ぬ、にも色々あるだろう。

 事故、いわれなき殺人。

 でも、俺みたいな病人は、やっと解放された!って思う奴も多いんじゃないか?

 俺が特別なのかもしれないけど。


「とにかく任せたから、テキトーに頼んだ、神さま」


「ほんとに? ほんとにキミ、希望ないの?」


 寝っ転がって日曜の親父のような俺に、しゃがみこんで神様が言う。

 ていうか……つんつん構って欲しい子供みたいにつつくのはヤメロ。


「ない。全然ない」


「うーんうーん。困ったなぁ困ったなぁ」


 頭を抱える神様。

 全知全能、完全掌握の神様、後は頼んだ。


 俺は適当に生きるだけなんで。


 ていうか、転生って希望取るんだな。

 そんなどうでもいい事を考えていた、俺の耳に。


「よし出来たー! 完璧だっ! じゃ引き続き人生頑張ってね!」


 えー……俺また、そんな頑張らなきゃいけな……


 って、え?


「ちょっと待てッ?! 記憶そのままで行けとか言うんじゃ……」


「そうだけど? だって、希望転生だもん!」


 全然理論的じゃない回答が帰ってくる。


「ふ、ふざけんなぁぁ?!」


「あ、ごめん。もう実行しちゃった!」


 覚えとけ神様。

 次に会ったら、アンケート内容、まともなもんに書き換えてやるからなぁぁっ!!

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