転生先ではお静かに
ああ。そういえば、僕は死んだんだっけか?
白い真っ直ぐな地平線が、僕の周りを三百六十度ぐるりと囲んでいる。
地面は塩を敷き詰めたように真っ白で、頭の上にはくらくらするような青空が雲ひとつなく澄み切っている。
こんな場所が現実に存在するわけない。
うん。僕は死んだんだな。
そして目の前には一人のお爺さんが浮かんでいる。まるで透明な足場の上に立っているみたいに。
お爺さんは何も喋っていない。だけど、ああ、この人が『神さま』なんだ、と分かった。
僕は自分が死んだ瞬間のことを思い出した。
そうだ、小惑星が頭の上にいきなり落ちてきたんだ。
ひどいよね。心の準備もなにも無しに死んじゃったじゃないか。やりたいことも色々あったのにさ。
お爺さんが肩をすくめた。
「すまんすまん。ちっと手元が狂ってしもうた。昔から天文系は苦手でなあ」
あまり真剣味のない謝罪ですね。僕の事、なめてません?
「いやいや。もちろん、儂がきっちり責任を取らせてもらう。新しい世界で、快適に気ままな生活ができるようにしてやる。安心せい」
おお。ひょっとしなくても、それは例の転生ってやつですね! それはどうも!
「詫びのしるしと言うとアレなんだが、転生ボーナスをつけてやろう。具体的には色々な特殊能力が使えるようになる感じじゃな」
いいですね! なんかやる気出てきました! で、どんな能力がもらえるんですか?
「そうじゃな……嵐を起こしたり、火山を爆発させたり、雷を降らせたり、大地を氷河で覆い尽くしたりと、そういうのをお前さんの意思で自由自在に使える感じのが色々あるぞ」
じゃあそれ全部ください。僕の意思で自由自在に使えるってとこが気に入りました。
「……最近の若いのは遠慮がないのう。まあ、いいじゃろ。転生先の世界はどんなのがええかな?」
うーん。特に希望は無いですね。お任せします。
「さよか。じゃあ前回と似た世界にしとこうか。それではさっそく転生スタートじゃ!」
僕に向かって手をかざしたお爺さんから、オーラっぽいものが出てきた。なんか神々しいぞ。
「まあ、神じゃからな」
ですよねー。
「ああ、そういや、お前さんの名前を聞いとらんかったな」
名前ねえ……ああ、現住生物の中で二番目に頭の良かった連中が、勝手につけたのがありました。
あいつらは『地球』って呼んでましたね、僕のこと。
「ふむ。なかなか良い響きじゃな」
そうですかね。名前には、あんまり興味なかったですけど。
「ついでに、その現住生物たちも一緒に転生させてやろうか? お前さん一人じゃ寂しかろう?」
あー。いえ、結構です。
次は少し静かに暮らしたいので。
あいつらが増えだしてから、どうも体があちこち痒くてたまらなかったんです。
「さよか。まあ、そこはお前さんの自由だ……そろそろ転送が始まるぞ。では、元気で暮らせよ」
ええ、あなたも。色々お世話になりました。あと、次に僕に何か衝突させる時は、できれば前もって教えておいてくれると助かります。
そして、僕の視界は暗転し、気がついた時には目の前に大きな『宇宙』が広がっていた。
僕の公転軌道の真ん中にある恒星がまぶしい光を投げてくる。よろしく、僕の新しい太陽さん。
さて、こんどの僕の上には、どんな生命が生まれてくるのかな?
今度はもうちょっと頭の良い連中だといいなあ。
頼むよ、ほんとに。