1. 雨の降った日(6)
そろそろ雨の降った日終わりにしようかな。。。
浜辺に着くと、気の早い選手が数人、すでに練習を始めていた。
あの一際大きなオスイルカは、今年の注目ルーキー、デニスだ。ちなみにアメリカ人。
実際に泳ぐのはイルカなわけで、良いイルカを捕まえた選手が勝つのは当たり前と思われがちだけど、まっ
すぐ最短距離を泳がせたり、方向の指示をするのは乗っている人間だ。勝敗は選手がイルカの力を十分に発
揮させてあげられるかどうかで決まる。時にはまだ成長しきっていない子供イルカでも選手の技量によって
上位に入ることもある。
デニスはあのイルカをゲットして運がいい上に、本人の素質も十分にある、と私は思っている。相棒のイ
ルカとの信頼度が、まだつきあっていくらもしないのにとても強いのだ。
「かっこいいなあ、あのスポーツ刈りの人。」
絹がつぶやく。
「デニスね。今年の優勝候補だよ。まだ初めて一年も経ってないんだけど、筋がいいの。」
「へえ、普通は何歳くらいから始めるもんなの?」
「泳げるようになったらいつでも。小学生以下は決まった区域内で、監督が見ているところでしかできない
けど。私も小学校卒業までやってたんだけど、選手にはならなかったの。」
「へえ、なんで?」
「別に、あの中で競えるほど素質が無かっただけ。」
「ふうん。大変そうだもんね。」
「それと、相棒だったイルカが、いなくなっちゃったから。」
そう言うと、絹は意外そうな顔をした。
「別に珍しいことじゃないの。特にメスは、子供ができるともう来なくなっちゃうことがあるから。・・・
でも、三年間一緒に頑張ってきた仲間がいなくなっちゃったのは、ちょっと寂しかったけどね。」
「そのイルカ、なんて名前だったの?」
「ノイミ。」
なんでだか覚えてないけど、その頃はノイミが一番可愛い名前だと思っていた。
「へえ。日本人にもいそうな名前だね。」
「でしょ。フランス人の女の子の名前なの。」
「へえ。」
そんな話をしているうちに、デニスが浜にあがってきた。
「ああ、満輝。こんばんは。元気?」
「うん。まあね。」
デニスとは、彼がイルカレースに参加しはじめてから知り合ったけど、なんだかんだで顔なじみである。
「どう、ジャンプの調子は?」
ジャンプは彼のイルカの名前。大きな体で、高く高く水の上をはねる様子は、とても迫力があって、その名
前がついた。ちょっと気分屋であらっぽいところがあって、当初全くの初心者だったデニスがジャンプを手
なずけたときは飼育委員やレース実行委員の間でちょっと話題になった。
「あ、紹介するね。こちら、デニス、で、デニス、こちらはケン。日本からこの前来たばかりなの。」
デニスはそこで初めて絹に気がついたように、私の横を見た。
「へえ。転校生?めずらしいね。よろしく。」
「よ、よろしく。」
陸で近くで見ると、デニスはけっこう小柄だ。それも彼の強みの一つ。乗馬と一緒で、乗り手が重いほどイ
ルカに負担がかかるしスピードが落ちてしまう。水の抵抗がある海中では、特に体が小さいのは有利だ。
「リセアン?何年生?」
デニスが絹に聞いた。
「リセアン・・・??」
学園用語を知らない絹は理解できなかったみたい。横から日本語で説明してあげた。
「リースの生徒かってこと。ここではリース生のことをリセアンって呼んでるの。あと専門職系コースはリ
ース・プロとかただプロって呼ばれてるから、覚えておくといいよ。」
「へ、へえ。そうなんだ。知らなかったよ。」
「マニュアルに書いてあるわけじゃないからね。こんな隔離された島だから、普通の英語じゃない、ここだ
けで使われてる言葉もけっこうあるの。なんていうか、一種の方言?」
で、答えを待っているデニスに向き直る。
「そう、だから、僕はリセアン、で、1年生。2学期から編入するんだ。」
「そうなんだ。俺はプロの機械整備科2年。同じ西地区だけど、別の建物なんだ。」
「へえ・・・。」
「ドイツ語とってる?そしたら同じクラスかもな。」
「いや、僕はドイツ語やってないんだ。」
「ああそうなの。」
他愛もない話をして、デニスは再びジャンプの待つ海へ戻っていった。
何年ぶり?っていう更新・・・。