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Libre !!  作者: Shina Kuroe
3/7

1. 雨の降った日(3)

「絹」の読み方は「けん」です。

降り始めた大雨の中、寮に飛び込んできたのは一人の少女だった。

青いパーカーにジーンズというボーイッシュな出で立ちの彼女は、ドアを開けた時と同じように勢いよく閉めた。

バタン!という激しい音がロビー内に響く。

私たちはあっけにとられてそちらを凝視していた。

当然、ロビーにいた人は皆同じ方向を見ていたわけで、本人もそれに気付いて気まずそうに奥へ歩いてきた。

近付けば近付くほど、顔がはっきり見えてきた。

非常に整った、中性的な美形、とでもいうのだろう。

そして、パーカーのフードを外したので、顔全体が露わになった。

彼女、否、彼は男だった。

男子にしては華奢だったし、無表情だったせいで勘違いしてしまったのだ。


彼はポーカーフェイスを崩すことなくずぶぬれのパーカーを脱いで、腕にかけた。

そして、周りを見回すと、おもむろに黄色い紙を鞄から取り出してなにやら読み始める。

そういえば、彼は随分大きな荷物を持っている。身長の半分はあるかというような大振りのスーツケースに、重そうなリュックサック。休暇中帰省でもしていたのだろうか。

突然走りこんできた美形にみんな興味津々だ。

彼は紙をしまうと、階段に向かって歩き出した。

大量の視線が彼の動きを追う。

しかし、順調に進んでいた彼は突然謎の失敗を犯した。

重そうによろよろしながら、なぜか階段を右に上がっている。ロビー中央の大階段は踊り場から右に上がると女子寮、左に上がると男子寮だ。やっぱり女の子だったんだろうか・・・。

そのまま美少女(?)は女子寮のドアへと消えていった。



「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

なんとなく沈黙がおりて、私たちはまた果物剥きの作業に意識を戻した。

そのとき。

突然、さっき美少女が入って、閉まったはずのドアが開いて、すごい勢いで彼女が飛び出してきた。

「なんだ?」

かっちゃんがつぶやく。全員の代弁をしたかっちゃんに私たちはうなずいて同意を示した。

彼女はかなり焦っている様子だ。

そして、なんとこっちに歩いてくるではないか。なんとも挙動不審な子だな。

「あの!」

やっぱり私たちのところに来て、その子は口を開いた。声は明らかに男だ。

「はい。」

私が最初に応えた。座っているため見上げる姿勢になる。

「ここって、女子寮なんですか!」

「は?」

なんだろう。西地区の人じゃないのだろうか。寮を移ってきたグランカ生とか?

「いや、男子寮に行きたいんでしたら階段を左側ですよ。」

疑問に思いつつも教えてあげると、彼は目を見開いた。まるで今初めて知ったような顔だ。

やっぱり新入生かもしれない。

「新入生か?」

かっちゃんが横から会話に入ってきた。

「そうみたいだね。―――ここは男子寮と女子寮が階段の所で分かれてるの。左が男子で右が女子。」

「はあ、そうなんですか。」

彼は間の抜けたような返事をして、にこっと破顔した。笑うと可愛いな。

「ありがとうございます。あ、俺、寺田絹です。今日からここに住むので、よろしくお願いします。」

「よろしく。何号室?」

かっちゃんが聞いた。

「424ですけど。」

「ふーん、じゃあ荷物手伝うよ。行こうか。」

「え、でも悪いですよ。」

「一人でこの階段登るのはきついと思うけど。ここエレベーター無いんだ。」

少年は、え、と絶句した。

そう。西地区寮にはエレベーターがない。最高7階まで自分の足で登らなくてはならないのだ。

特別に必要な人はそれのある中央地区か北地区の寮に入っている。

かっちゃんもまあお人好しな。

「じゃあ、ちょっと行ってくる。」

かっちゃんたちはロビーにいた全員に見送られて、階段を上って行った。












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