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喉の痛み

作者: TOMMY
掲載日:2026/10/25

喉の痛みは突然やってくる。


呼んでもいないのに、

来なくていいのに、

知らないうちに、ひたひたと。


痛くなるタイミングだけは、何となく分かっている。


それは、夜だ。

疲労が溜まった日の深夜から明け方にかけて。


不思議なことに、起きているあいだは痛みの兆候がまったくない。

就寝前までは痛みゼロ。


それなのに──

朝、目を覚ます。


すると、喉の痛みは100になっている。


「やっちまった」


朝一番、そう思う。


けれど、よく考えてみればおかしい。

眠っているあいだのことを、私は何も知らないのだ。


自分の身体の中で何が起きていたのか。

いつから痛み始めたのか。

そして、なぜ起きた瞬間には、こんなにも痛いのか。


私が眠っているあいだに、何かが起きているのだろう。


そう考えると、あの「やっちまった」という感覚にも、少し別の意味が見えてくる。


私が眠っているあいだ、

私の知らないところで、

いったい、何が。


さぁ、探求を始めよう。


まず最初の疑いとして、睡眠によって免疫力が下がっているのではないか、という仮説が立つ。


自分では何もコントロールできない睡眠こそが、原因として怪しい。

が、そうであって欲しくはない。


なぜなら睡眠は休むことであり、身体を回復させる行為である。

これまでさんざん「病気なら、ゆっくり寝ろ」と言われ続けてきた。


喉の痛みの原因が睡眠だったなんて、できれば認めたくない。


それならば、私の過去にその仮説を反証する記憶がありそうだ。


もしも、睡眠が喉の痛みの原因なのであれば、私は寝れば寝るだけ、不健康になってきたはずである。


──そんなことは、なさそう。


つまり、睡眠そのものが喉の痛みを引き起こしているわけではなさそうだ。


むしろ睡眠は、身体を回復させるために必要なものだ。

では、なぜ眠っているあいだに喉は痛くなるのだろう。


問題は、睡眠そのものではない。

眠っているあいだに、何が起きているのかだ。


睡眠そのものが悪いわけではないなら、睡眠中に変化しているものを探せばいい。


まず思いつくのは、唾液だ。


起きているあいだ、私は無意識に唾を飲み込んでいる。


唾液には、口の中を洗い流したり、細菌の増殖を抑えたりする役割がある。


日中は周囲の状況によってその分泌量が変わる。


美味しそうな匂いがすれば増え、

身体の水分が減れば少なくなる。

それは日常生活で実感している。


けれど、眠っているあいだはどうだろう。


睡眠時の環境変化は少なく、眠っているあいだ、私は唾液を飲み込むことも、水を飲むこともできない。


つまり、唾液の分泌量は睡眠中、減少することだろう。


唾液の減少が原因か!?

いや、ここでそれが原因であると結論づけるのは違う気がする。


唾液が減ることで何が起きるのか。


一番分かりやすいのは、乾燥だ。

唾液が減れば、口の中は乾きやすくなる。


それは核心に近い気がするが、答えではない。


口の中の乾燥が、どうして喉の痛みに影響するのだろう。


喉が乾いたとき、普段はどう思うだろうか。

そこにこの謎を解くヒントがあるはずだ。


例えば、カラオケを夢中で歌った後。

例えば、友達との飲み会でワイワイ騒いだ後。


喉はどうなった?


──ヒリヒリと痛んだ。

喉を酷使して、潤いが失われる。

すると、ガサガサに痛む。


近い。

明らかに朝起きた時の「やっちまった」という感覚に近い。


でも、その後は水分補給することで回復する。


もう一つ、過去の体験が蘇ってきた。

乾燥したときの手の指の記憶だ。


カラカラとした冬。

白い吐息をかじかんだ手に吹きかける。


その時、手の指は、

……ひび割れていた。


乾燥すると、身体を守っている表面そのものが弱くなる。

そこからは容易に細菌やウイルスが侵入する。

そうして炎症を起こす。


では、喉も同じなのだろうか。


乾燥する。

粘膜が傷つく。

そこから何かが侵入する。


もしそうなら、朝の喉の痛みも説明できる。


……でも、本当にそれだけだろうか。


確かに寝ているときは喉が乾燥して、細菌やウイルスの侵入を受けやすいかもしれない。

けれど、なぜ朝起きたとき、喉の痛みが100なのだろう。


その答えはまだ見つかっていない。


ヒントは過去にある。

記憶を、めぐれ。


……


──何も、思いつかない。

寝ているときの記憶は、ない。


少しずつ過去を辿っても、毎日の睡眠時間はずっと空白なのだ。

思い出は山ほどある。

楽しい思い出も、辛い思い出も。


けれど、寝ていたときの記憶の積み重ねはない。

夢の記憶も儚い。

あるのは起きた瞬間の「やっちまった」だけ。


いや、待てよ。

時間は常に流れている。


意識が消えた瞬間から意識が戻るまでの時間は存在している。

そこに記憶がないだけで。


私は毎晩、ベッドの上で何をしている?

思いつかないなら、仮説を立てよう。


寝返り。

これはたぶんしている。

それによって喉が潰されている?

いや、これは違う。


脳や内蔵が再生している?

身体の傷が癒えている?


……もう少し何か要素はないか。

もっと根本的なことでいい。


心臓は動いている。

汗をかいている。


──息をしている。


寝ていても、息は必ずしている。

記憶になくても間違いない。


ならば、眠っているあいだも、私は何かを吸い込み続けている。


ふと、私は鼻づまりが酷いことを思い出した。

就寝前は、点鼻薬を鼻にシュッと塗布するくらいに。


点鼻薬を差すと鼻の通りがよくなり、よく眠れる。

疲れたときこそ、それをやる。


けれどその効果は、数時間でなくなる。

それは風邪を引いて日中差したときに知っている。


つまり、寝静まったあとの私は、鼻がつまっている可能性が高い。

するとどうなるか。


……分かった。


──口呼吸。

細菌やウイルスを受け入れ、喉を乾燥させていく。


私は日中は鼻呼吸だ。

でも、睡眠中は口呼吸になっている可能性が高い。

それが核心だ。


見えていなかった時系列が急に見えてきた。


寝る前の喉の痛みゼロ。

朝起きたら喉の痛み100。


そのあいだの事象はこうだ。


就寝前、点鼻薬を差す。

数時間後、点鼻薬の効果が切れる。

口呼吸に切り替わる。

喉が乾燥して、喉の粘膜に影響する。

喉の炎症が起こる。

そして朝起きて、喉の痛み100。


──これだ。


私は、ついに原因を突き止めた気がした。


……そう思った。

けれど。

本当に、それだけなのだろうか。


ゼロから100。


その答えが、まだ分かっていない。


けれど、ここまで推理できているなら、ゴールはかなり近い。


仮説を立てよう。


そういえば、まだ使っていないヒントがあることに気付いた。


冒頭で何気なく言った、「疲労が溜まった日」。


これが関係していないわけがない。

疲れている日ほど、喉が痛くなりやすい。

ならば、疲労もこの謎の一部なのではないだろうか。


身体は疲れている。


疲労が溜まった状態では、身体の防御機能も十分に働きにくくなる。


そこへ、睡眠中の乾燥や口呼吸が重なる。


喉が乾く。

粘膜に負担がかかる。

そして、細菌やウイルスなどによる感染があれば、それに対する身体の防御も必要になる。


疲れているときは、

その変化が起こりやすいのかもしれない。


けれど、眠る。


睡眠によって、身体は少しずつ疲労を回復させていく。


つまり、眠っているあいだに、

疲労は減っていく。


一方で、喉では乾燥や炎症による変化が進んでいる。


身体が回復していくことと、

喉の痛みが強くなっていくこと。


その二つは、同時に起こり得る。

そして私は、その過程を何も知らない。


痛みが10になったことも、

30になったことも、

50になったことも。


私は知らない。

ただ眠っている。


そして朝。

目を覚ました瞬間、

私は初めて結果を知る。


「やっちまった」


これが、私の知るすべてだった。


──けれど、本当は違うのかもしれない。


私が眠っているあいだにも、

身体は疲労を回復させ、

呼吸を続け、

外から入ってくるものに対処し、

傷ついた場所を修復しようとしている。


私が何も知らないところで、

私の知らない時間を生きている。


そして、朝になれば、

その時間に起きたことの結果だけが、

私の意識に届けられる。


喉の痛みも、その一つなのだろう。


考えてみれば、私たちは自分自身のことを、

それほどよく知らない。


眠っているあいだだけではない。


心臓が動くことも、

食べたものが身体をつくることも、

傷が塞がっていくことも。


その仕組みを知ることはできても、

そのすべてを自分の意識や記憶で見届けることはできない。


自分の身体でありながら、

自分には立ち入れない時間がある。


それでも、身体は私のものであり続ける。


私が覚えていなくても、

私が気づいていなくても。


私という存在は、

私が意識している時間だけで

できているわけではないのだ。


そして今夜も、私は眠る。


明日の朝、

何も知らない顔で目を覚ますために。

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