1 婚約者のために
初めまして。
今まで好きで好きでたまらなかった婚約者が、俺を見て「お前とは婚約破棄をする。」と言った。婚約者の左腕には不安そうな顔をした茶髪で愛らしく優しそうな青年がいる。そして、右腕はまっすぐとこちらに伸びており、その手の先にはよく磨かれ、シンプルながら気品を感じる装飾がされた剣。多分代々帝国に伝わる文化的価値がある剣なんだろう。
今日は学園の卒業パーティーで俺と婚約者と茶髪の青年が卒業する日。そして、本当なら俺と婚約者の結婚を発表する日でもあった。しかし実際は婚約破棄を叩きつけられた。
俺は6歳の時に初めて婚約者に会い、その時から一目惚れをしていた。太陽の光でキラキラと輝く金色の髪に、宝石のような金色の瞳、彫りが深くハッキリとした顔立ちでこの世のものとは思えないほどの美しい容姿をしていた。一目惚れではあるが、本当に好きで好きで仕方がなかった。しかし、だからと言って別に婚約をしたいと俺が駄々を捏ねたわけではない。実際相手は皇子だから、公爵家の子どものわがままで婚約などできない。しかし、俺と婚約者の婚約が決まった。理由は親同士の政治的なものだった。婚約者はこの帝国の第2皇子であり、第1皇子が俺の家と対立する別の勢力と婚約したことで均衡を保つために結ばれた婚約だった。政略結婚が当たり前とされている社会では好きな人と結ばれることが少ない。だから婚約が決まった時は、本当に嬉しかった。当たり前のように両思いになれる、正式な夫婦になれる、と考えていた。しかし婚約をしてすぐにわかった。俺の婚約者は絶対に俺を好きにならない、と。
婚約が決まってから定期的に会って親交を深めるためにお茶会が開かれる。場所は皇宮だったり公爵家だったり、時間は約2時間。
初めてのお茶会で、仲良くなりたいと思った俺はたくさん話しかけた。婚約者は俺の問いかけに返事はするものの、形式的な話し方をする。そして時間が来たとわかると「では」と言い素早く帰宅する。はじめは婚約者も緊張しているのだと思ったりもしたが、そんなことが何回も何回も、と言うより初めてのお茶会からこの卒業パーティーまでのお茶会の全てがそれだった。いくら盲目に恋している俺でもわかった。しかし、婚約という契約は俺と婚約者の絶対的な繋がりを表すもので、いくら婚約者が俺に興味を持たなくとも、いつかは俺に心を許してくれると思っていた。
帝国にある貴族や平民が関係なく優秀な人だけが通える学園に俺と婚約者は12歳から通うことになった。学園は6年制であり、校内では貴族と平民は平等に扱われている。と言ってもやはり平民は貴族を位の高いものと思っているので、全く不平等じゃないとも言えない。しかし、優秀な生徒が多いがゆえに、負族も平民を蔑む者はない。
入学してきてから3年間は俺と婚約者は完璧な婚約関係だと周りの人からは見えていたのだろう。婚約者と学園内で出会った時は、世間体のためか話をすることが多く、その姿を見た人たちからはお互いを尊重していると言われていた。しかし、4年生になった時に学園に平民の茶髪の青年が編入してきた。
、、そこからだろうか。
誰にも興味がなかった婚約者が誰かに興味を持ったのは。いや、誰にも興味がなかったわけではないと思う。今まで、婚約者にも仲の良い友人達がいた。それは俺もよく知ってる人達で、その友人達も俺の婚約者は俺のことに興味がないことを知った上で俺と仲良くしてくれていた。俺とは違い婚約者に興味を持たれて関係を築くことができた友人達だが、そんな友人達と茶髪の青年への興味は別のものだということはすぐに気づいた。
ある日、学校内で婚約者と茶髪の青年を見かけると、今まで見たことないような顔で笑っている婚約者を見た。その笑顔を見た時にあり得ないほどの心臓の鼓動が速くなり、何かが肩に乗っかっているような重さを感じた。とてつも無い恐怖を感じ、すぐにその場を走り去った。その日から、ずっと体に負荷がかかっているように重たい。
それから卒業パーティーの一年前に遡る。ある日、茶髪の青年が俺の派閥(そんなものはないが、勝手についてくる)のやつにいじめられていることがわかった。その派閥のやつが言うには、俺が可哀想だったからだと。茶髪の青年が編入してくるまで、俺たちの婚約は完璧なものだったが、やはり周りから見ても俺は可哀想で興味を持たれていない婚約者になってしまったのだろう。実際最近のお茶会は、昔よりもひどく、お互い話すことがなくなって、時間も短くなって1時間で終わってしまうこともある。俺もどんなに盲目であっても昔よりも好きと感じなくなっているのは確かだ。はじめは茶髪の青年が婚約者に近づくのも嫌だったが最近では最後には俺と婚約するし、大丈夫だろうと思うことで心の負担をなくしていた。そう思い続けているからか、最近は婚約者への好意も薄れつつある。俺は、俺の派閥らしいやつにもういじめるのはやめなさいと言い、この問題を終わらせた。
卒業パーティーの少し前のお茶会。
その日もやはり数ことの会話しかしないお茶会が終わろうとしていた。しかし、珍しく婚約者から話しかけられた。「アルを嫌いなのか」と。アルとは茶髪の青年のことだ。「嫌いじゃないです。」と答えるとそのまま会話が終わり、会が終わり、婚約者は早々と帰宅した。
しかし、卒業パーティーで結婚発表する予定だと言うのに、俺たちは何も発表する言葉も打ち合わせていないし決めていない。その時俺はこの後の結果を悟って、机に向かい、紙を2枚用意してペンを走らせる。
卒業パーティーの日。
俺は婚約者に婚約破棄を叩きつけられた。
婚約者によれば俺は自分の手下を使って茶髪の青年をいじめていたのだと言う。婚約者と茶髪の青年がお互いを愛し合っていることに嫉妬をして残酷ないじめをしたのだと。全く身に覚えがないが、婚約者がいうのだからそうなのかもしれない。そして俺の処分としては婚約破棄と国外追放だそうだ。婚約破棄、その言葉を聞いた瞬間に、頭が真っ白になった。それは今までの人生全てが婚約者、いや皇子だったのだと気づいたからだった。しかしそれと同時に、あの時あの笑顔を見た瞬間から感じていた重さがなくなり、すっと軽くなった。ずっと重しを乗せていたせいかわからないが今まで生きて感じたことがないほどに体が軽く感じた。
卒業パーティーの前のお茶会が終わってから、俺はこの展開が来ることがわかっていた。だから右のポケットから一枚の折り畳まれた紙を取り出しそのまま皇子へ近づく。周りの生徒、いや生徒だけでなく皇子と茶髪の青年もなぜ近づくのか意味がわからないと顔を歪ませる。その行動の原因は俺が婚約破棄のショックで気が狂ったからだと思っているかもしれない。実際俺は今の今まで皇子を好きで仕方ない健気で可哀想な婚約者と思われていただろう。だから皇子にしがみついて泣きじゃくって婚約破棄をどうか取り消してと懇願すると思われているのかもしれない。実際は違うのだが。俺は持っていた紙を茶髪の青年に渡し、「みんなに聞こえるように読んであげてね」と言い残した。
「え、?」
茶髪の青年は少し驚いた表情をしていたが、紙を開き、文に目を通す。瞳が左から右へと2か3回往復した後、文の真ん中で止まる。そのままびっくりとした表情で固まっているのを見た皇子がなんと書いているのだと茶髪の青年の腰に回していた腕を外しそのまま紙を奪い取ろうとした。
この瞬間だと思った。皇子が気を抜いているこの瞬間。その一瞬に賭け、俺は皇子の剣を掴み取り、自らの胸を貫いた。
ーーー
卒業パーティーの日。
帝国の第2皇子がいきなり婚約者に向かって婚約破棄を宣言した。左腕は茶髪の青年の腰に回っており、絶対に俺は守るというように見える。前々から、婚約者が皇子と仲の良い茶髪の青年をいじめているという噂があった。しかしそれは、噂に過ぎず、実際に婚約者の手下が茶髪の青年をいじめているのを見たというようなことを言う者もいれば、婚約者と話してみて絶対にそんな人物ではないという者もいる。だからそれは噂止まりにすぎない。婚約者は皇子を本当に愛しているのはみんな知っていることで、皇子が婚約破棄を宣言した時にいじめの話を出したことでそれは本当のことだったのかとざわつき始める。しかし、皇子が婚約破棄だけでなく国外追放を叩きつけたことでその場にいた人たちの空気が変わる。誰一人として言葉を発さない。しかし、傍観している人たちは婚約者を心配する者や劇場のように見ている者や婚約者を非難する者といろんな者がいると言葉を発さずともわかった。
皇子の言葉の後20秒くらいだろうか、微動だにしなかった婚約者がゆっくりとでも確かに前へ歩き出した。その方向には皇子と茶髪の青年がいた。その顔は近くにいたものしかわからないだろうが、少しほっとしたのか今までの堅苦しい表情ではなかった。皇子に婚約破棄したくないと泣きつくのか、はたまた油断させといて茶髪の青年に近づき暴力を奮って八つ当たりをするのかさまざまな予想が頭の中を駆け巡った。しかし婚約者はポケットから一枚の紙を取り出し茶髪の青年へと渡す。茶髪の青年は驚いた顔をしたが、婚約者の読んでという言葉に従い紙を開き目を通す。少し目を通すと驚いた顔をし、固まる。それは少し離れたところで傍観していた人たちですらわかるほどに。しかし、茶髪の青年の反応を見て、皇子が紙を奪い取ろうとした瞬間だった。婚約者が皇子の持っている剣で自ら心臓を貫いた。一瞬の出来事で、誰一人動くこともできず、理解が追いつかない。一瞬の間の後、傍観していた者達が婚約者の生死を確認したが、即死と判断された。皇子と茶髪の青年は婚約者に近づきはするが、なんと声を出して良いのかわからないほどに動揺していた。事が収まるまで放心状態のようだった。
後日新たな噂が出回った。目の前で婚約者が死んだ皇子の手から落ちた紙を見た者が言うには、紙には『同意書』、文の真ん中には『婚約破棄いたします』という書かれていたと。
ーーー
勤めている屋敷の息子様が亡くなられた。婚約破棄になるショックの自殺だと世間では言われているのだろう。しかし、息子様の部屋を片付けていると、一枚の紙が出てきた。
『遺書
この手紙を誰かが見た時、私はもうこの世にいないだろう。死因は、自殺か他殺かは今はまだわからない。しかし、どちらにしても自分の意思であることは確かだ。
この手紙で言い残したいことが二つある。
一つ目は私はカルロスを愛しているということだ。私はカルロスを心の底から愛していたが、それ故にカルロスが本当に愛している人との婚約、結婚の邪魔である事が申し訳ないと思っていた。自分の存在が鬱陶しく思われている事は昔からわかっていた。だから私がいなくなったことの責任を感じず、幸せになってほしいと思っている。
二つ目はアルミナへのいじめについてだ。私はアルミナをいじめたことはない。しかし私の知り合いがいじめていた事があったのは知っていた。婚約破棄される理由は私がカルロスに愛されていないことも理由だがそれ以上に私がアルミナをいじめているという事が理由なのだろう。昔一度知り合いにやめるように忠告したが続いているとは知らなかった。言い訳だと思われるかもしれないが、私の意思ではない。
手紙を書く事が少なかったので、うまく書けていないかもしれない。だからもう終わりにする。最後に
俺がいなくなった世界で、みんなが自分の好きなことをして、好きな人と関わって、幸せになれるように願っている。
アネル=モネカ』
ありがとうございます。
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