第1話「追放?まあ、そんな日もあるわな」
※初投稿です。
スキル『話術』ってだけで追放された男が、なんだかんだしゃべり続けてたら世界救ってました。
ゆるく、ふざけつつ、ちょっとだけ成長する物語です。
よろしくお願いします!
「お前、戦えないから追放な」
……うん、知ってた。
でももうちょい言い方ってもんがあるだろ。せめてクッション言葉とかさ。「一応ありがとな」とか、「ごめんね」くらい挟めや。社会人研修ゼロか。
そう言われて、俺はパーティから放り出された。
いや、放り出されたっていうか、けっこう丁寧に荷物まとめて門の外まで送ってくれたけど。優しさの方向性が狂ってるんだよ。
俺の名前はシオン。二十とちょっと。
元・勇者パーティの末席メンバーであり、只今職業を剥奪されました。
無職の旅人になったよ、ちくしょう。
そして、俺が持ってるスキルは──
『話術』
はい、出ました。
剣も魔法も使えない。補助も回復もできない。
“しゃべるのがちょっと上手い”だけの、どうにもならんやつ。
それを見た瞬間、勇者一行の顔が固まったのを、俺は今でも忘れない。
「話術って……それスキル枠のムダじゃね?」
「雑談スキルとか、いらんだろ……」
「ギャグ担当かな?」
うん、俺もそう思う。
とはいえ、勇者パーティに入ったのは、ほんの気まぐれだった。
ギルドの受付のお姉さんに「スキル持ちなら一応登録できますよ」と言われて、なんとなく加入してみただけ。就活ノリ。
結果、3日で追放。ギネス記録かもしれない。
「モンスター倒せないとか、戦力外すぎ」
「お前、戦場で何するの? 司会進行?」
「ナレーション要員としても微妙」
「お前の口だけじゃ、魔王どころかスライムも笑わねぇよ」
おっしゃる通りでございます。マジで戦えないし、戦う気もなかったです、はい。
てか、スライムって元々笑わないんじゃね?
で、今。
俺はひとり。
持ち物は、銀貨5枚とポーチひとつ。
ステータス:自由。
メンタル:まあまあ元気。
目標:とりあえず宿探し。
「はー、人生って雑ぅ〜……」
とりあえず、手元の地図を見る。
目についたのは“カンネ村”という地名。小さな田舎村で、宿と酒場と井戸しかないような場所らしい。
……でも、飯が食えて雨風しのげるなら、それで十分。
「うん、そこにしよう。平和がいちばん」
歩きながら、ふと思う。
俺のスキル『話術』って、本当にただの“会話上手”なのか?
スキル説明には「言葉の影響力が増す」って書いてあるだけ。
でも最近、妙なことが起こってる。
たとえば──
「この道、通らない方がいいかも」と村のガキに言ったら、
本当に通らずに助かったり。
「その人、信用しないほうがいいよ」って適当に言ったら、
なぜか村人全員が即警戒モードになったり。
俺が言ったからじゃなくて、“言葉そのもの”が刺さる感じ。
空気が、重くなる。世界が、少しだけこっちに傾く。
これって──気のせいか?
(いや、むしろ……そうだったら怖いんだが)
でもまあ、今の俺にとって一番大事なのは、晩メシと寝床。
世界の理より、今日の夕飯。
「次は宿屋のおっさんを口車に乗せて、無料宿泊チャレンジやな」
そんなアホなことを考えながら、俺は歩き出す。
しゃべることしかできない俺が、これから何をするのかなんて──
まだ誰にも、俺自身にすら、わかっちゃいない。
でも後になって言われるようになる。
「“言葉だけで戦争を止めた男”がいた」って。
いやいやいや。俺はただ、しゃべっただけなんだってば。