第十七話 警護
入団試験には、募集人数を超える数の入団希望者が集まった。だがその中にシュウカイの姿は無かった。
簡単な実技試験の後、大盾を背負い街の外周を一度回って帰ってきてもらうという試験を行った。脱落する者も出てくる中、時間内に城前広場に戻ってくることの出来た試験参加者を、槍盾部隊員として正式に騎士団に引き入れた。また騎馬部隊の補充も行い、これでセキ騎士団には歩兵部隊、槍盾部隊、騎馬部隊の三部隊が整った。
これまで副団長と兼任していたミルに変わり、新たにウィンスを歩兵部隊長に、ケプラを騎馬部隊長兼伝令役に任命した。新設ということもあり槍盾部隊長は置かず、僕が指示を出すことにした。
僕の騎士団も大きくなったことで、ミイネ団長率いるミイネ騎士団はラグナ村に拠点を構えることになった。ランセイス連合とノライト教国の動きが活発化してきた今、当然の判断である。出発当日の朝、荷物の積み込みの手伝いに王城へ行ったが、ミイネ団長の顔は少し寂しげだった。
数日後、僕はエイギス王子から任務を受ける。それはデメルギア王国への届け物だった。以前僕とミルが遭遇し、関わった幻石の移送と警護である。前回の事もあり、今回は騎士団長が直接警護に当たる事とし、僕たち騎士団にそれが任された。あくまで体裁を保つことを目的とする為、全員では無く、少数で向かうよう言い渡される。二人とも街を離れるのはさすがにまずいと思い、ミルに残るよう言ったが、彼女は聞き入れてくれなかった。デメルギア王国はミルにとっても馴染み深い場所だ。何か彼女なりの思いもあるのかもしれない。僕は仕方なく、リクスとウィンスに留守を頼むことにした。
出発の朝、僕とミルは先に幻石を受け取りに、街の東にある採掘場に向かった。砕石や砂利が高く積まれた横を通り、採掘施設へと進む。作業員の待機所の前で一人の男性が僕たちを待っていた。見覚えのある顔。
「なんだよ、お前たちか」
シュウカイが頬を汚しながら、僕たちに歩み寄ってきた。
「シュウカイ、どうしてこんな所に」
「どうしても何も、俺はずっとここで働いているんだよ」
どうりでその体つきか。彼の体格は以前よりもさらに大きくなっているように感じた。
「幻石を受け取りに来たのだけど」
「これだろ。騎士団の人間が来たら渡すよう言われている。受け取ったらさっさと行ってくれ。こっちは忙しいんだ」
シュウカイは小さな箱を差し出した。僕がそれを預かる。するとミルが彼に声をかけた。
「この前の試験、どうして来なかったんだ」
「もう騎士団に入るつもりは無いんでね」
「お前にうってつけの部隊だ。勿体ない」
「うるせえよ。仕事の邪魔だ。用事が終わったんならさっさと行け」
彼は踵を返し、僕らの前から離れていった。その背に声を届ける。
「シュウカイ。君が心を入れ替えたと言うのなら、僕たちはいつでも君を待っている。その力は今の僕たちに必要だ。その時は君の力を貸してくれないか」
一瞬立ち止まったように見えたが、彼は何も返さず作業場に戻っていった。
「あの体は本物だ。才能はあると思うんだけどな」
ミルが小さくこぼした。
「そうだね。でも強制するものでもないし、僕らはただ待っていようよ」
「そうだな」
幻石はミルに持たせることにする。それが一番安全だと考えた。ミルは嫌々といった様子でそれを受け取った。
街の入り口に着くと、ケプラと数人の団員が、人数分の馬を用意して待ってくれていた。その中にエイギス王子の姿があることに気付く。
「エイギス王子、どうされたのですか」
「二人はデメルギアに所縁があると聞く。少しの間であれば滞在を許可しよう。ゆっくりしてくると良い」
「心遣い、ありがとうございます」
それだけ言うと王子は王城へと戻っていった。
王子は思っているよりも親しみやすい人なのかもしれない。弟はあのビーガス王子だ。親しみ難いわけがない。僕は王子の計らいに感謝しながら馬に跨った。
訓練をしているとはいえ、長距離の馬移動は全身に疲労がのしかかる。日暮れまでに国境近くの街に到着するよう計算し、先頭で馬を走らせるケプラ。彼にもう少し速度を落としてくれないかとは言えない。気合を入れて馬を走らせた。僕の様子をミルが度々確認する。その気持ちは隠しきれていなかった。口元にわずかに笑みがこぼれていた。心配をしている表情ではない。戻ったら馬の訓練量を増やそうと心に誓った。
ケプラのおかげもあって、日暮れ前には街に到着した。明日は日の出と同時に出発すれば、明日の今頃にはデメルギア王国城についているだろう。ここからは自由行動とし、僕は軽い食事を終えると、すぐに宿に向かった。お風呂で全身を癒し、ベッドに横になるとすぐに瞼は落ちてしまった。
早朝、街の入り口に集まる。点呼を取り昨日と同様、ケプラを先頭に馬を走らせた。疲れが完全に取れたわけでは無いが、それほ辛くない。昨日よりもゆっくりとした速度でケプラは進んでいた。
街を出てすぐ、国境を跨ぎデメルギア領内へと入る。そこからは順調に進み、あの忌まわしい森も越えた。次にここを通る時は迂回しようと決めていたが、立場上それも難しくなったな。僕はあの時の記憶を頭の奥に追いやりながら馬を走らせた。それにしても初めてここを通った時は、記憶の無いただの男と元野盗だったのに、今では大所帯を率いる騎士団長と副団長とは。人生なにが起こるか分からないものだ。
ケプラの計算のおかげで予定通り日が落ちる前に、城下にある街に到着した。王城の前まで進む。そこにはメーテリアさんの姿があった。
「久しぶりだな、セキ。元気にしていたかい」
「はい。お久しぶりです、メーテリア王女」
「やめてくれよ。そんな風に呼んでくれたことは無かったはずだけど」
「今は立場が立場なので。すみません」
最後に会ってからそれほど時間は経っていないはずだが、とても懐かしく思えた。相変わらず元気がいい。他国の王女と仲睦まじい僕に団員は少し不思議がっていたが、そこは後で説明しておこう。
「今回の警護がセキ騎士団だと聞いて驚いたよ。まさか騎士団を持つまでになっていたなんて。同じ名前の人違いかと思ったくらいさ」
「そうですね。自分でも驚いています」
「目的の物は見付かったみたいだけど」
彼女は隣に立つミルの指輪に視線を向ける。
「記憶は戻ったのかい」
「いえ、それはまだです」
「そうか。こんな所ではなんだし、城へ入ろう。国を出てから何があったのか詳しく聞かせてよ」
メーテリアさんは僕たちを王城へ招き入れ、それぞれに個室を用意してくれた。夕食も用意してあると言われ、その歓迎具合に感謝する。
僕はミルから幻石を受け取ると、彼女にそれを渡し、メーテリアさんからは金を受け取った。
用意された部屋に金を置くと、僕は彼女の部屋に半ば強引に連れていかれ、夕食の時間まで話し通した。ほとんどが僕のこれまでの話で、メーテリアさんから、話すことのできる思い出が増えたんだねと言われ、何故かそれがとても嬉しかった。
食事を終え、自室に戻る。アニアスも元気にしているのだろうか。彼の事を思い出しながら僕は眠りについた。




