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第十四話 初任務



 正式に騎士団が設立されて数日が過ぎた。突然僕は王城へ呼び出される。ミイネ団長からの呼び出し。何事かと思いつつ支度を済ませて家を出た。


「おはようございます、セキ団長」


 その呼び方にはまだ慣れずにいる。早朝から、庭ではミルとリクスが稽古をしていた。リクスは入団を決め、この家で共に暮らすことを了承してくれた。彼なりのけじめなのだろうか、入団が決まってからは態度が改められ、僕は毎日むず痒い思いをしている。ミルは正式に副団長を命じられ、いつにもまして指導に熱が込められていた。


「本物の剣なら今三回は死んだよ」


「はい、すみません。副団長、次お願いします」


 リクスが傷だらけの体を指輪の力で癒すと、ミルは再度斬りかかった。初めこそ一本で稽古をつけていたミルだが、今日は両手に木剣を握っている。二度かわしたところで、返しの木剣が彼の顔をとらえた。


「はい、また死んだ」


「ミル、あまり熱くなり過ぎないでね。傷は癒えても気力は消耗するんだから」


「わかってるよ。いってらっしゃい」


 本当にわかっているのだろうか。背後からミルの、もう一本と言う声が聞こえてきた。お互いにやる気がある事は良い事だけど。


 王城前に立つ警備の兵士に挨拶をして中へ入ると、ミイネ騎士団長の姿を見付けた。いつも通り凛々しい姿。彼女はまだ僕に気付いていない様子だったので声をかける。


「おはようございます。ミイネ騎士団長」


「おお、セキ君。ちょうど良かった。君に頼みたいことがあって今日は来てもらったのだけど、ここで

はなんだし、場所を変えてもいいかな」


「はい、大丈夫です」


 ミイネ団長の後を付いて、城の中を歩く。朝日の差し込む廊下。階段を上りしばらく歩くと、一つの扉の前で立ち止まった。入り口には王国の兵士。団長の自室だろうか。


「入ってもらえるかな」


 僕は言われるがまま、中へと入る。ミイネ団長らしいと言っていいのだろうか、僕たちが初めて通された質素な部屋とは違い、華やかな家具が並べられていた。壁には一枚の絵。夕日と湖が描かれたそれはとても美しい風景だった。窓から差し込む日の光がそれらを一層輝かせていた。


「どうぞ、座って」


 大きめの机の上には積み上げられた書類や、地図が置かれている。彼女に促され、対面する形で椅子に掛けた。ミイネ団長は机の上に広げられた地図を指さしながら話し始めた。


「ここが今私たちが居る王城ね。そして、ここから北東に進んだ先のこの街。ここに第二王子であるビーガス様の居城が在るの。これからセキ騎士団にはここに向かってほしいの」


「援軍ですか」


「いいえ、以前の戦いで手に入れた“戦”の神の石。それを届けてほしいの。あれからランセイス連合に目立った動きは無いわ。戦闘にはならないと思うけど、念のためね。今王城にいる兵士の中であの指輪を扱える者はいなくて。ビーガス様の軍にも確認してもらう事になってね。強い力だから腐らせておくわけにはいかないの」


 そういえば僕の騎士団員も昨日、全員の適合を確認された。結局王城の兵士の中にも適性の有る者はいなかったのか。


「確認が終わるまでは向こうに滞在してもらう事になるわ。もしも適合する者がいなければそのまま持ち帰ってちょうだい。残念だけど、一番安全なここで厳重に保管するから。街道は舗装されているし、今から出れば日暮れまでには向こうに着くと思うわ。頼まれてくれるかしら」


「はい。もちろんです」


 僕はミイネ団長から“戦”の指輪を受け取ると、布製の小袋に入れ、口を堅く縛る。それを首から下げた。途中で落とすわけにはいかない。


 団長の部屋を出ると、僕は城内の稽古場に向かった。この時間であれば団員が訓練を行っているはずだ。


 稽古場に入ると、ケプラと数名の団員が熱心に戦闘訓練をしていた。


「ケプラ、これから任務に赴くことになった。すぐに団員を集めて街の北入り口に向かってくれるかい」


「分かりました。すぐに全員を集めます」


 彼は汗を拭うと、街で警備に当たっていた団員達を集めるため、稽古場を出て行った。僕もすぐに支度をしないと。手ぶらで出てきたので一度家へ戻ることにした。


 家に着くと庭に二人の姿は無かった。稽古は一段落したのかな。僕は扉を開け中に入る。取り込んだものだろうか、綺麗に洗濯された衣服を抱えたターナさんの姿が目に入った。彼女は僕に気付くと足を止めた。


「セキ様、おかえりなさいませ。早かったのですね」


「はい。急で申し訳ないのですが、これから数日間任務に向かうことになりまして。これから支度を」


「そう仰ると思いまして、団服の準備は出来ております」


 彼女は手に持った僕の団服を差し出した。この用意の良さにはいまだに慣れない。ターナさんからそれを受け取り、二階に繋がる階段を上った。気力回復のために仮眠をとっているというリクスの部屋に向かう。出てきた彼の様子から、ミルの訓練の過酷さが窺い知れる。


「疲れているところ申し訳ないのだけど、これから任務になった。付いて来てもらえるかな」


「はい、すぐに支度を済ませます」


 僕はそのままミルの自室に向かうが、彼女の姿は無かった。一度自室に戻り、支度を整える。部屋を出ると、ちょうどリクスも済ませたようで、彼の部屋の扉が開いた。


「ミルはどこへ行ったの」


「おそらく稽古場だと思いますけど。いつも早朝の訓練が終わると向かわれるので」


「あれ、すれ違ったのかな」


 僕たちは一緒に家を出た。


 北の入り口に向かうと、すでに団員が集まっていた。リクスに人数の確認を頼む。


「副団長以外は全員集まっていますね」


 ミルはどこに行ったのだろう。ケプラに聞くと、街で見かけたので声はかけておいたとの事だった。しばらく待つと、悪びれる様子も無く彼女は街の方からやってきた。


「どこに行っていたんだい。すぐに出発するよ」


「すまない。ちょっと買い物をしていて」


 そう言うと彼女は手にした小楯をリクスに渡した。


「距離感は測れているけど、間合いの把握がまだまだだからな。それを着けておけ」


 ミルは意外と面倒見のよいところがある。兄妹で過ごしてきたせいだろうか。リクスは左手に小楯を持ち、礼を述べた。


「全員準備は良いかい。初めての任務の人も多いと思うけど、今回は指輪の輸送とその警護だ。危険は無いと思うけど、皆気を引き締めておいてね。それじゃあ出発するよ」


 ケプラの馬を先頭に、僕たちは歩き出した。


 街道は舗装が行き届いており、順調に進むことが出来た。今から向かう街も、ランセイス連合との国境に近い。王国にとっても重要な街なのだろう。王城との行き来も多そうだった。第二王子に領地が任されていることにも納得がいく。幅の広い川に架けられた橋を渡りながら、そんなことを考えていると、隣を歩く一人の団員が口を開いた。


「あのう、中々機会が無く伝えることが出来なかったのですが。父の事、ありがとうございました」


 彼は頭を下げた後、言葉を続けた。たしか名前はウィンス。彼は騎士団の中でも珍しく、片刃の剣を使っていて印象深かった。ウィンスは言葉を続ける。


「リンバルさんが父の遺灰を持ってきてくれた時に話を聞きました。戦場で命を落とした兵士が家族のもとへ帰れることは少ないと言われています。セキ団長があの場にいたおかげで、父を供養してあげることが出来ました」


「もしかして、コール隊長の」


「はい。息子です」


「そうか。あの時、僕にもっと力があれば結果は変わっていたかもしれない。僕は感謝を言われるような立場ではないよ」


「そんなこと無いです。騎士とはどういうものか、父の姿を見ていて分かっているつもりです。父はそれを貫き、団長たちがそれを繋いだ。そして私がまた次に繋いでいく。そう考えています。それに一度は戦場から退いた父の最期が戦場であった事、私は誇りに思います」


「そうだね。僕ももっと頑張るよ。本当はそのままの姿で返してあげたかったんだけど。敵に死人を操るやつがいてね。すまなかった。でもコール隊長は最後まで騎士だった。それは僕が保証するよ」


「ありがとうございます。騎士団に選んでいただいたことも含めてお礼をと思いまして」


「いいや、それは自分の力だよ」


「そうだぞ」


 話を聞いていたのか、隣を歩くミルが言葉を返した。


「お前の剣の腕は団員の中でも相当良い。小さい頃から鍛錬していたことがよく分かる。戦場で経験を

積めば、もっと強くなるぞ」


「ありがとうございます。父に似て体格には恵まれませんでしたが、精一杯励みます」


「大丈夫だ。セキを見てみろ」


「ミル。皆の前ではやめようよ。それにミルの方が小さいじゃないか」


「でも強い」


「そうだね」


 騎士団の周りを、少し離れて進む騎馬兵からの報告も特になく、僕たちは街道を進み続けた。


 日が傾き始めた頃、街が見えてきた。王城よりも少しばかり小さい城は、街の奥に構えられていた。北東の国境を見張る役目を果たすために。


 街に到着した僕たちはひとまず城に向かう。石造りの家屋が立ち並ぶ道を通ると、人々は道を開けた。別の騎士団が兵を連れて街にやってきたのだ、不安があってもおかしくないのに、街の人々の顔は穏やかだった。その理由は城に近付くにつれ理解することが出来た。街の奥には、物見の為の石塔や駐屯兵舎、街を護る為の弓櫓が備えられ、国民の家屋は見当たらなかった。常に国境を警戒している。それが見て取れた。


 城に到着すると、城前で団員と離れ僕とミルは第二王子の居る部屋へと通された。ひと際威厳のある青年が座っている。エイギス様より柔らかい目つき。だが口元などにその面影はあった。髪色は違うがおそらく彼が第二王子のビーガス様だろう。


「王領からの行軍ご苦労であった。まずは件の物を受け取ろうか」


 ビーガス王子から労いの言葉を貰い、僕は指輪を差し出した。すでに要件は伝わっているようだ。椅子を立ちそれを受け取った王子は、傍に立つ兵士に指輪を渡す。全兵士との適合を確認するよう指示を出した。僕らと王子を除いた全兵士が部屋を出る。それを確認してビーガス王子は大きく息を吐いた。


「いや、すまないね。部下の前だから気を抜けなくて。はあ、疲れるな肩に力を入れるのは。君たちも楽にしてくれていいよ」


「お気遣いありがとうございます」


 そこに最初に見た時の威厳は無かった。親しみやすそうな方だ。僕は少し気が楽になった。



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