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第十三話 適性


 負傷した兵士の回復を待って、入隊試験を再開した。模擬戦による戦闘適性の確認を終えると、次の試験の説明に移った。


「次は持久力の適性をみます。ここから、街を出て湖の外周を通り、再度ここまで戻ってきてもらいます。期限は日暮れまでとします。走らなくても十分に間に合う距離です。無理はしないようお願いします」


 装備は簡素な鎧のみだが、距離はそれなりにある。万が一の事も考え、参加者の人数を確認し、開始の合図を告げた。集まった参加者は各々広場を出て行った。


「セキは行かなくていいのかい」


 ミルが笑みを浮かべながら言う。


「そうだね。訓練がてら僕も行ってこようかな」


「期限までに戻ってこられなかったら、示しがつかないぞ」


「大丈夫だよ。このくらいの距離の進軍は経験済みだし。これでも戦場を経験した兵士だ。その間ミルは、戦闘適性のあった人達をまとめといてよ」


「ああ、わかった。無理はするなよ」


 僕は兵士から余りの鎧を受け取ると、それを身に着けて街を出た。


 何人かの候補者を追い抜く。思っていたよりも体力がついていたのか、疲れはそれほど感じなかった。と言っても戦闘訓練をしていない身だ。当たり前か。湖の周りは地面が舗装されておらず、歩きづらい。ここでかなりの体力が持っていかれるだろう。僕は気合を入れ直す。団長という責を背負いながら一歩ずつ確実に進んでいった。


 残り半周ほどの所でリクスに追いつく。疲れの色がかなり出ていた。中断し、回復を待ったとは言え、あれほどの戦いをした後だ。無理もない。だが、シュウカイはかなり前に追い抜いた。彼の底力に素直に驚く。


「リクス、無理はするなよ。もしもの時はその場に留まっていてくれ。試験が終わったら馬を走らせるから」


「このくらいは平気だ」


「そうか。期待しているよ」


「早く行け」


 同じように疲労の色の濃い参加者に声をかけながら、僕は歩みを進めた。


 辺りが夕焼け色に染まる頃、僕は城前広場に辿り着く。思っていたよりも疲れた。広場には既に何名かの候補者の姿があった。


「おかえり。かなり疲れているようだが大丈夫か」


「戦場ではここからが勝負だからね。問題ないよ」


 僕は呼吸を整え、ミルから受け取った適性があるとした人の名簿を確認する。そこに名前の挙がっている者達は、軒並み既に広場へ戻ってきていた。


 しばらくして日が落ちた。広場には明かりが灯され、僕とミルは手分けをして参加者の人数を確認する。名簿と照らし合わせると数名戻ってきていなかった。


 近くの兵士に、確認のための馬を出してもらい、最後に馬の適性を確認した。馬の扱いに自信がある者を聞くと、何名かの候補者が名乗り出た。その者達に馬を貸し、その技術を見せてもらう。中でも頭一つ抜き出る技術を見せた者がいた。見覚えのある顔。彼はあの時リクスと共にいた男だった。名前はケプラだったか。話を聞けば、帝国領で馬飼をしていたと言う。リクスとは別の地域からこの街に逃げ延びたらしい。


 一通り試験を終え、僕たちは名簿を見つめながら話し合った。戦闘適性についてはミルの意見を尊重する。それについては圧倒的に僕より目が肥えている。彼女が適性ありとした者たちの名前を僕は確認した。そこにリクスの名前は無かった。試験は公平に。私情は挟まず、持久力と馬術の適性の結果を合わせ、合格者の名前を告げていく。


 合格者として最後の名前を読み上げた後、歩兵部隊採用者とは別に、二名の名を読み上げる。


「今名前を呼んだ者とは別に、伝令兵としてケプラ。それと追加試験者としてリクス。以上の者達を正式にセキ騎士団と認めます。名前を呼ばれた人達はこの場に残ってください。今回は歩兵部隊を組織するための試験でしたが、別の部隊に適性がある者もいると思います。呼ばれなかった人でも次回の募集にまた応募してみてください。本日はお集まりいただきありがとうございました」


 落ちてしまった者達は城前広場を後にするが、一人、試験の結果に納得のいっていない者がいた。


「どうして俺が落とされなければいけない。説明しろ」


 やっぱり納得がいかなかったか。シュウカイの名前が名簿にない時点で想像はしていたが、どうしたものか。思い悩んでいると、ミルが彼の前に飛び出した。


「しょうがないな、特別試験だ。おれに勝ったら合格でいいぞ」


 彼女は鎧も身に着けず生身で飛び出すが、心配はいらないだろう。


「どこでもいい。一発当てれば合格にしてやる。いつでもこい」


「舐めるなクソガキ」


 木剣を持ち、ミルに斬りかかるシュウカイ。結果は言わずもがな、ミルの圧勝だった。手首を打たれ、痛みに苦悶する彼にミルが口を開く。


「その程度の技量で、よくもまあそんなでかい口がきけたな。ここに残った者達ならばすぐに追いつくだろう。ちなみに実践でもお前は真っ先に死ぬぞ。それほど浮いた兵は脆い。戦場を舐めるな」


 返す言葉も無く、シュウカイはその場を立ち去った。


 残った新たな団員たちに、兵士としての仕事を説明していく。毎朝城前広場の掲示板に騎士団別の役割が張り出され、それに従い働くこと。主な仕事は街の守衛であり、持ち場を昼夜交代制で回し、配属の無い者達は訓練にあたること。一通り説明を終えると、証明書を渡し新しい団員達を帰した。


 城前広場に残ったリクスが僕に声をかける。


「追加試験とはどういう意味だ」


「ここでは話しづらいので、僕たちの家に来てもらえるかな」


 僕たちは片付けを終えると、帰路についた。


 家に戻ると、まずは夕食を食べる事にした。お腹が鳴って仕方がない。話はその時にしよう。ターナさんの用意してくれていた食事を四人で頂く。


「今日のご飯は特段美味いな」


「そうだね」


 ミルの言葉にターナさんが笑みを浮かべる。


「いい加減、話してくれないか」


 しびれを切らしたリクスが口を開いた。


「ごめんね。君にはこの指輪をはめてほしいんだ」


 指輪を机の上に置く。僕の言葉に一番に反応したのはミルだった。


「どういうことだ」


「おそらくリクスにはこの指輪の力を扱えるはずだ。根拠は無いんだけど、今日一日君を見ていてそう感じた。本当は合格したらと思っていたのだけど、試すだけはしておきたいなと思って」


 リクスは恐る恐る指輪を取り、指にはめた。祈りを捧げてもらうと、指輪は彼の声に答えたようだった。驚く彼に話を続ける。


「聞えたと思うけど、この指輪には癒しの力がある。誓いは“前後不覚”自らの――」


「気力を捧げることで」


 僕が続けようとした言葉をターナさんが口にした。


「知っているのですか」


「いえ、その言葉の意味を知っているだけです」


「そうなんですね。本当に何でも知っている人ですね。ターナさんが言った通り、気力を捧げることで傷や人を癒すことが出来る。君にはこの力を扱えるだけの精神力があると、僕は感じた。模擬戦の時に見せた覚悟が普通のそれではなかったからね」


 頭の中に浮かんだいくつもの言葉をつなぎ合わせて彼に伝えた。


「それは……。確かに俺は帝国領を出てから、何度も連合の兵に囲まれては逃げ続けた。殺意を向けられたことも少なくなかった。でもそんなこと、騎士団でなら当たり前の経験だろう」


「それはそうだけど、あの場所で模擬戦を本当の死地だと思っていたのは、おそらく君だけだよ。いや、ごめん。ミルと君だけかな」


「まあ、おれはそういう所で生きてきたからな」


 ミルは当たり前のように答えた。


「リクスのその心の強さが、今の僕たちには必要なんだ。どうか力になってくれないか」


 リクスが返事に困っていると、ミルが食事を口に含みながら声を出す。


「まあ指輪にえらばれたんだし。仲間になれよ」


「話すのは飲み込んでからにしようね」


「ん」


「それからもし力を貸してくれるのなら、リクスには騎士団とは別で、僕たちと共に行動してもらう事になると思う。役割が役割だけに君を前線に出すことはなるべく避けたいからね。どうかな、もし良ければここで一緒に暮らさないか」


「す、少し待ってくれ。話が唐突過ぎて考えがまとまらない。今すぐには答えられない」


「すぐに答えてとは言わないよ。とりあえず今日はここに泊まってくれていいから、どうするのかゆっくり考えてみて」


 そう言うと、僕はターナさんに視線を移した。彼女は笑みを浮かべながら口を開く。


「そう仰ると思いまして。ご用意は出来ております」




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