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三題噺もどき3

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくきゅうじゅうさん。

 


 傘を叩く雨音が心地よく響く。


 今日は一日中雨のようで。

 朝から降り続く雨は、その激しさこそ失ったものの、変わらず地面を叩いている。

 所々にできた水たまりに波紋を広げながら、着実に範囲を広げている。

「……」

 今朝からこちら側に来る予定があって、今はその帰りだ。

 電車に揺られながら、こちらに来たのは先日の映画ぶりだったが、この辺を歩くのは久しぶりだ。色々と疲れていて帰りたかったが、なんとなく歩いてみたくなったのだ。

 半年前までは毎日ここまで来ていたのだけど。なんとなく、あの頃と景色が違って見えるのが不思議でならない。

「……」

 川を挟んで道ができている、ちょっとした遊歩道的なところ。

 少し外れてしまえば、ビル群が並んでいるとは思えないほどに、ここは緑が栄えている。

 この辺は桜並木としてはちょっと有名で、その時期になればかなり壮観だった。そんなもの見る余裕はあの頃はなかったのがもったいない。ま、また来年のその時期にでも来てしまえばいいんだけど。

 でも、丁度その時期に懇親会的なことを確かやっていたから、危険ではある。会いたくない人に会う羽目になりそうだ……。

「……」

 今日の予定だって、ホントはすぐに終わるはずだったんだけど。

 会いたくもない人がわざわざ来たもので……無駄に時間がかかった。

 なんというか……思考が合わない人との会話は気疲れするな。

「……」

 合わない……というか、基本的にズレている。

 こちらが想定した答えと全く違う、斜め上の回答が返ってくることなんて当たり前で。

 こちらが無駄に、どうして?どうして、そうなる……?と、思考を巡らせたところで全く意味がない。まるで当たり前のように話していることが、全く当たり前ではないことに気づいていない。あの年で。まぁ、周りが合わせて動いていたから当たり前のようにふるまえるだけで、そのことにすら気づいていないんだろうけど。

「……」

 あんなのが、人の上に立っている―今まで自分の上にも立っていた―と考えると恐ろしくて仕方ない。あの時は当たり前に、上に合わせて動いていたから気にもしなかったが、こうして離れて客観的に見れるようになると、噛み合わなさが目に付く。

 それに気づいてしまった以上もうあの人の元では動けない。休職という形でこの半年置いておいてもらったことには感謝はするが、それが明けてまたあの人の元でということは出来そうにもない。休み始めて最初の頃はそう思っていたけれど。

 色々と気づくのに、気づいてしまうのに、この半年はあの人にとっては最悪だった。私自信は見直しができてよかったと思っているけれど。

「……」

 今日の予定なんて、辞職することをすでに話していて、その辺の必要書類を渡すからと言われたから来たのだけど。

 あの人がわざわざ来て、なんだか話し出して。それがまるで復帰前提で話しているモノばかりだったから、何を言っているんだろうかと酷く頭をひねったのだ。

「……」

 もしくは、案外その話をしたくてわざわざ呼びつけた、なんて勘ぐってもおかしくはないと思う。必要書類なんて、郵送してしまえば済むのではと正直思わなくもないのだ。金がかかるのが嫌だと言うなら、着払いでも何でもいいのに。

 あの人にあって、話を聞かされたこの無駄な時間を考えれば、そっちの方がいい。

 時は金なりなんていう性格じゃないけど。

「……」

 まぁ、弾丸のようにあの人が話し終わった後に、もう辞職をすると言う旨を伝えたら、まるで冗談でしょ見たいな感じで笑いながら肩を叩いてきたのが無性に私の気に障って。

 もうなんというか、何を言う気にもなれなかったので、適当にさようならとだけ言って出て行ってしまったのは、申し訳なかったな。

 一応、お世話にはなったので、お礼ぐらいはすべきだっただろうか。

「……」

 しかしまぁ、ホントに疲れた。

 けれど、とりあえずは色々と終われそうなのでそこは良しとしよう。

 この後どうするかは正直はっきりとは決まっていないけど。

「……」

 ま、今は。

 今日は。

「……」

 さっさと帰って、夕方出かけるための準備をして。

 雨も無事に上がってきたし、甥っ子との夏祭りを楽しむことにしよう。






 お題:ビル群・桜・どうして?

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