その9
檻の中は輪をかけて空気が冷たく、一歩踏み出すごとに自分自身に満ちている希望が1つづつ剥がれ落ちていくようなそんな感覚だった。
とはいえ戻るに戻れないのでなるべく足を止めずに進む、いやに巨大だが一体ここになにがいたというのだろう。
しばらく歩いてかなり奥まで来た、しかし何かがあるワケでもなく相変わらず周りには虚無が広がっていた。
この先には何もないんだろうなと思い始めて引き返そうと振り返る。
しかし、そこにはもう道はなかった。
慌ててさっきまで進んでいた方向を見ると虚無ではなくすべてが灰色の色がない街の風景が広がっていた。
歩みだす、どこまでも色がなくてなんとも居心地の悪い場所だった。
進む、進む、ぽつぽつと辺りに人が出てきた。
進む、進む、なんだ周りの人がこちらに指を差しているように感じる。
そういえば今は二足歩行の怪物の姿だったのを思い出す、自然すぎて忘れていた。
まぁ、こんな姿なら仕方がないのだろう
気にせずに進む、進んでいるうちに見覚えのある建物が見えた。
「あれ…まさか?」
急いで近づく、間違いないさっきまでいた魔王の実家だ。
それなら、目的地はまたあの地下なのか?
ドアに手をかける、しかしさっきとは違ってドアは開かなかった。
「そう、うまくはいかないか…」
そう呟いてそこを後にする。
また進む、大通りに出て人も増えてきた。
居心地の悪さは変わらないけれど、それにしても指は刺されっぱなしな上に文字が浮いているような感覚で向こうが何を言ってるのかが目に見えるようだった。
正直、そんなの読み取る気も起きないから無視して進み続ける。
そんなのがしばらく続いて、やがて小さな門を抜けて山の中に入った。
山に入ってから頭の中のノイズがなり始める、しかもどんどんひどくなっていった。
はっきりは判別できないけれど、どうにもさっきから『言われ』続けていることらしい。
気持ち悪い
響き続けるノイズに耐えながら山を登る、山頂らしきところが見えてきた。
何かいるのが見える、それにしても異物感というかこの世界に合ってないというか…
「アイツ色が……ある…!?」
誰かはわからない、ここに迷い込んだのだろうか。
駆け出す、どんどん近づいていくとそれが後ろを向いた女性だとわかった。
あと数十メートル、そいつが振り返った、思い出せないけどなんだか見覚えのある顔。
思い出しかけた頃には何かの衝撃がその腹を貫いていた。
気が付くと体をくの字に曲げて膝から崩れ落ちていた、なんだか悪い夢から醒めたような感覚だった。
「奇遇ですねぇ〜、こんなところで会うなんてぇ」
聞き覚えのある声、顔を上げるとヘイズがいた。
「お前…こんなところで何を…」
「こっちのセリフぅ。へぇ、龍の魔石…こんなもの集めてたんだ」
よく見るとヘイズの手にはあの緑の宝石が握られていた。
「よ…こ…ぐぁっ!」
よろよろと立ち上がったが突然目の前へ転移してきたヘイズの拳が腹に入ってまた膝から崩れた。
「なるほどぉ?もう入ってるのかぁ…いいこと思いついた、増幅にはぴったりねこれぇ」
思い切りこっちを蹴っ飛ばしてヘイズは何もない空間に穴を開けた。
「脱走者にこんなこと言うのもシャクだけどぉ、いいものくれてありがとぉ。安心して糧になってねぇ」
「ま…まて…!」
ヘイズが穴の中に消える、最後の力を振り絞って彼は穴の中に飛び込んだ。




