その4
静かに瞳を開く、その風景に勇者の心が郷愁で満たされる。
起き上がるとアーチ状のオブジェクトとそれを守る木々が見える、子供の頃に何度も遊んだ建造物、あの日のままの遊び道具。
間違いなくここはあの村の…勇者の故郷の村の外れだとわかった。
「帰ってきた…本当に…」
なんだか、ものすごく嬉しかった。
その気持ちのままに故郷の村へと駆け出す、思い出たちが体を駆け巡りその体は軽かった。
ものの数分、しかし一生分思い出した時村の入り口についた。
小さな門、そこにちょっと掠れた『Eve Village』の文字…まさにこの村を出たあの日のままの光景だった。
「変わってない…なにも…」
そうして門を潜る、その瞬間何かがこちらに飛んできた。
それを間一髪避ける、振り向くとそれは岩だった。
「(トラップ…?なぜ…?)」
その疑問を考える前に次の岩が飛んできて、勇者の頭に激突した。
視界が揺れる、それでもダメージは軽い。
「(もしかしてカタパルトショット…!?どうして!)」
この村で一般的に使われる武装だが、あくまで狩りとか外敵用でありどう考えても俺が撃たれる謂れはない
四方八方から飛ぶ岩、堪らずに勇者は元来た方向に走り出した。
走る、走る、元のアーチまで戻ってきて振り向くが誰も追ってきていないようだった。
「クソ…なんでだよ…どうなってるんだ…」
なんか、すごい疲れたな…
勇者は木々の隙間を器用に抜けて小さな池に向かい、そのほとりの岩に腰を降ろした。
水を飲もうと池を覗き込むが水面には何か見覚えの無いものが映っていた。
無数の棘の生えた頭骨にしか見えない頭、うっすら見える人間の骨を黒い爬虫類のような皮膚が飲み込んでいる体、完全にモンスターな手…そんな怪物が目に映る。
「なんだ…これ…」
否が応でも勇者がさっき襲われた理由を納得させる姿をしていたのだった。
数分、いやおそらく数時間、勇者はその場で立ち尽くしていた。
とはいえなんとなく理屈はわかる、冥界からの帰還…その代償がこれなのだろう、そんな感じのことを昔じいさんから聞いた。
ここは世の下の方にある世界だから明快に近い、だからこの世界のモンスター達は冥界からの瘴気を浴びたかつての人間達だとかなんとか。
その話は概ね合っているのだろう、そこから戻った勇者自身がこんな姿になっているのだから。
だが、それを受け入れられるかはまた別の問題だ。
辺りが暗くなってきて水面に映る姿が影になる、姿が隠れて見えなくなっていく。
なんだかそれはホッとしたようなそんな気持ちだった、状況は何も変わってはいないけれど。
「どうするかな…これから…」
「そこに誰かいるのか?」
口を飛び出た呟きに暗闇の向こうから反応があった、振り向くと鎧を着たモンスターがそこにいた。
暗闇でよく見えないがゴブリン辺りだろうか。
「見ない顔のモンスターだな…どこの所属だ?」
「いや…その…」
「おっと、そろそろか…お前も早く隊に戻れよ、作戦時間だ」
「作戦?」
「何だ寝ぼけてるのか?『地均し』だよ。じゃ、俺は戻るからなお前も急げよ」
『地均し』…あの魔王もその単語を使っていた。
確か、障害となる街の文字通りの抹消…だったような。
そうなれば、アイツは魔王軍ということか?
そして、潰す街は間違いなく…
瞬発的に脚が動く、そうしてさっきのモンスターに飛びかかってその鋭い爪で一撃のもとに沈めていた。
そのまま勇者は闇の中へと消えていった。
いくらなんでも数が多すぎる、たとえ村人全員で立ち向かってもこれはちょっと無理かもしれない。
村の中央広場には突然の襲撃で追い立てられた老人・女・子供はそこで身を寄せている、なんとしてもそこまで到達させる訳にはいかない。
戦えるのはこちらはせいぜい20ちょっと、大して相手はゆうに1000に迫る勢いだ。
しかもこの村は小さいから壁なんて大層なもんはない、つまりその少ない戦力を四方に分裂させてほぼペアで戦わければなければならない。
カタパルトを打ち続けてはいるが、いつまで持つか…
外側から焼かれつつあるこの村で、人かモンスターか判別できない悲鳴が各所で上がる。
体中から悲鳴が上がる、そろそろ体力の限界も近い…
「避けろ!」
「え?」
その一瞬の隙を突かれてモンスターに跳ね飛ばされる。
「し…ヴ…」
「チクショウ!お前は逃げろ!」
地面に落ちると同時にこっちのもう一人がモンスターの軍団に突っ込んでいった、もちろん結果はお察しの通りだ。
逃げろとは言うが、疲労とダメージで体が動かない。
モンスターはなおも進軍してくる、流石に死を意識する。
いい人生…いや…まだ生き足りないな…こんなところで…
重く瞼が落ちてくる、諦めに似た覚悟をしたときモンスターがいた方から絶叫とも断末魔とも取れる声が聞こえて顔に何かがかかった。
なんとか力を振り絞って顔を拭う、なんだかネバネバして気持ち悪いものだったが覚えもあるものだった。
連中の血…か…?
最後の力を振り絞って瞼を開ける、瞳に映ったのは一匹のモンスターだった。
さっきまで軍団がいたはずだ、そうなるといま見えたモンスターがそれを全滅させたのか?
思考がままならない、あぁ…すごく疲れたよ…
「や…やめ…命だけは…!いやだぁぁぁぁ…ァ…」
朝日が登っている、多分コレで全部だ。
勇者は広場の方に目をやる、みんな怯えた表情でこちらを見ていた。
多分これで良かった、そう勇者は広場に背を向けて朝日の方に歩き出した。




