その2
目を開けるとそこは知らない場所、真っ黒な世界に大きな門がそびえ立つ陰気な場所だった。
「目覚めたかね」
背後から声がして振り返るとそこにはなぜか机があってそこに一人の老人が座っていた。
「あなたは…?」
「個人名は特にはない、この職務についた時にそういうのは捨てた。性質上、個であってはいけないからな。だがまぁ…皆は私を冥王と呼ぶ」
「冥王…?じゃあ俺…死んだのか?」
「そうなるな。おっと言い忘れてた、ようこそ冥界へ」
「冥界…じゃあ本当に…」
「久々の客だ、もっと話していたいが職務を果たすとしよう。これから君に起こることを説明する」
冥王が指を鳴らすとその背後に巨大な秤のようなものが出現した。
「これに君の魂を乗せる、それによって君の送られる冥界の階層が決められる。そして、それぞれの階層でその魂を浄化して転生を待つ」
冥王が秤に重りのようなものを乗せた。
「次は君じゃ」
そう言うと冥王はこちらに指をさして何かを唱える、すると勇者の体は秤の上に移動した。
乗せられた勇者が立ち上がるが秤は一切動かず安定していた。
「ふむ…これは3層といったところかな?なに、どんな奇跡の善人でも2層以下には行くことになっているから普通ってことじゃ」
また冥王が何かを問えるとさっきの場所に勇者は戻された。
「さて、これでここでやることは終わり、あとは魂の浄化じゃが…」
「じゃが?」
「ちょっと世間話でもしないか?ここだと客は極端に少ないんで退屈してるんじゃ」
「いいけど…」
なんかゆるいな…この人…
「うむ…君はどんな最期を迎えたんじゃ?まぁあまり答えたくはないだろうが、君はここに来た時に魂ごと潰されかけてたんで興味があってな」
潰されてた?
最期の光景、あの冷たい声と痛みが頭の中を駆け巡った。
「その…」
口が動かない、体が話すのを拒否しているようだった。
とっさに冥王の顔を見る、とても優しい目をしていた。
「うむ?」
「仲間…ここに来ませんでした?それだけ先に聞いても?」
話題を変えてみたが…なんだか気持ち悪い
「ほう、君の仲間…えーっと…お、これかおったおった。君のところの時間だと2時間前に3人ほど同じ場所からここへ。安心せい、君と同じ層じゃ」
「みんな来てる…」
それだけで、なんか救われた気がした。
体の恐怖が薄れていくのを感じる。
「俺の…最期でしたね」
それでも断固とした拒否反応で文章としては話せず、断片的に何があったかを冥王に伝えた。
「それは…壮絶じゃったな。ここでゆっくり休むといい。…この老人の興味に付き合ってくれてありがとう」
冥王が指を鳴らす、すると勇者の立っていた地面が消えて奈落の底へ落ちていった。
「ヘイズ…お前はまだ…」
最後にそんな呟きが耳に入って、冥王の姿が見えなくなった。
「はーい、みなさーん!冥界へようこそ!こちらへ1列に並んでくださーい!」
そんな声で気が付くと勇者は薄暗い洞窟の入り口の前に立っていた。
振り向くと人魂のようなものが永遠と長い列を作っていた。
「えーっと…アスク・ランダさんですね。どうぞこちらへ」
そう言われるがままに進むと、そこはとても広大な所だった。
「はーい、こちらですよー!」
そんな声がしたので進むと下に大きめの水溜り、その先にも低そうな山とか燃え盛る炎とかが見える。
「まずここを渡ってね。後は君の足が勝手に向かうはずだから」
「はぁ…うぉっ!?」
…その水溜りに突き落とされた。
水面に思い切り叩きつけられて、そのまま沈んでいった。
そこから、しばらく記憶がない。
なんだかとても心地が良かった、懐かしい匂いに自然のゆらめき…故郷を感じさせる場所だった。
静かに目を開ける、ひたすらに高い空と草原が広がっていた。
ゆっくりと起き上がる、遠くに懐かしい町並みが見えた。
「ラン?お前ランか?」
そんな声が聞こえて振り向くと、魔王を倒すかつての仲間の一人…キュウがそこにいた。
「キュウ!まさかこんなところで…!」
俺の親友キュウ、コイツの魔法に旅の中で何度助けられたことか。
「あぁ、俺も驚いたよ」
「あれ、お前だけなのか?ドウとパンサーは?」
頭の中にアイツらの顔が浮かぶ…ストイックに拳を極めていたドウ、撃退したらなんか対抗心を燃やして魔王城まで着いてきちゃった稀代の女盗賊パンサー…なんだかまた会いたくなってきた。
「それが…探してるんだが、ここすっごく広くてよ…まだ見つけられてないだ」
「そうか…でも、またお前に会えてよかった」
「俺もだ。なぁ、みんなを一緒に探さないか?」
小さくうなずき、二人は地平線の奥に向けて歩みだした。
悲鳴の風が駆け巡り、暗黒がそれを支配する場所。
そこに、一人の男が歩みを進めていた。
「久しぶりじゃな…ここに来るのは」
やがて巨大な檻の前で彼は歩みを止めた。
それを合図に檻の前にいた看守がこちらに小走りで来た。
「お待ちしておりました」
「では、手筈通りに」
「冥王様、本当によろしいのですか?コイツらは…」
「わかっとる…だからこそじゃ。それに比較的小さいのだけ、外に出しても害は少ない」
「失礼しました、では…」
冥王が頷く、そうして看守は檻へと戻っていった。
「私も、あまり使いたくはないのだよ…」
轟音と共に、檻が上がり何かの気配が近づいてくる。
その気配が唸り声を上げた時、ここを支配していた悲鳴すら凍りついたのだった。




