その12
気が付くと身動きが取れなかった、拘束されているというよりは体に触れる液体のせいで体に力が入りづらい。
「こんなことをいつまで繰り返すのです将軍!」
「無論、勝つまでだ。…中々あなたも強情であるなシャド。個人としては嫌いではないが、組織人としては扱いにくくてたまらない」
薄っすらとだが声が聞こえる、それはあのとき指揮していたヤツとシャドの声だった。
「従うならば意志はいらないと?総統の意思だけで世界が動くとでも思っているのか?傲慢だ、ならばこの戦況も必然だな」
「動くのだよ、この国では、この世界では!」
「だから滅びる…王の手で」
「あの男一人に何ができる…そのための研究だ」
「直接見ればわかるはずだ将軍、あれには勝てるはずがない。お前たちが侮るその男一人にとってこんなことは稚戯に過ぎない」
「ふん、私から見れば違うな。アレは十分に対処しきれる範疇だ。…お前には主任に戻ってもらうぞ」
「断ると言ったら?」
「拒否権などあるものか…そういえば君には麗しの姫君がいたな」
「貴様…!」
「まーまー。彼の処遇は後にしてぇ、大事なのはアレでしょう?」
どこかで聞いたことのあるリズムの声が二人に割って入った。
「これはこれは…戻っておいでで」
「捕まえたって聞いてぇ。飛んできちゃったぁ!」
「疫病神め…」
そう呟いたシャドに間髪入れず殴打音が炸裂した。
「貴様!総統の側近に対して失礼であるぞ!」
「フフッ…とりあえずぅ、ちょっと外してくれなぃ?」
「構いませんが…一体何を?」
「野暮用ぅ…かなぁ?あの人にはぁ、別に伝えなくていいよぉ」
「わかりました、そのように…立て!来い!」
呻くシャドを引きずりながら将軍は部屋を後にした。
「さてぇ…」
液体が減っていく、ようやく力が入るようになって目を開くとなにかのカプセルの中だった。
「な…!?ヘイズ…!?」
そのガラスの向こう、機械を操作していたのはあのヘイズだった。
「あれだけじゃ死なないとは思ってたけどぉ、本当に生きているとはねぇ」
カプセルのガラスが上がる、その隙間から勇者はヘイズに飛びかかった。
それをヘイズは軽々かわして手痛い一撃を勇者の背中に食らわせた
「ヴッ…」
「これなーんだ」
ヘイズは勇者に緑の巨大結晶を見せつけた。
「ま…まさか…」
「君たちが集めていたモノ、ぜーんぶ持ってきてあげるなんて私やっさしぃー。ふふ、君一人にこの量の力を入れたらどうなると思ぅ?想像したらぁ楽しくなってきちゃったぁ」
ヘイズは結晶を勇者に押し当てる。
「覇権争いになんて興味はないしぃ。『ここ』の役割は終わったしぃ、君の処分も含めて終わらせちゃおぅ。私って賢ぃ」
宝石が勇者の体に押し当てられると体が破裂しそうなほど力が体の中に入ってくる、駆け巡る。
エネルギーは力となって暴れだし、勇者の何もかもを飲み込み始めた。
全部もってかれる…!
そうして意識すら力と同化して、その余波でその部屋を、建物をメチャメチャに吹き飛ばした。
「あはっ!予想以上!」
咆哮と共に勇者だったものは飛び立つ、街が火の海に沈むまでにそう長くはかからなかった。
とても暗く、冷たい場所を彷徨っていた。
知っている景色が泥沼に沈んでいく、止めようと足掻くけれど自分の足すら取られて身動きが取れない。
そうしていく間に、全てが沈んでいくのだ。
音のない声で叫ぶ、それを聞きつけた龍が今まさに飲み込まんとこちらに迫ってくる。
身動きが取れない、龍が大口を開けて目の前に迫る。
喰われる!
思いの外、恐怖はなかった。
『まだその時じゃない』
白い羽が背中から現れて龍を消滅させた。
『あなたはこっち』
翼は力となって泥沼から飛び立つ。
ただ一つの、空に現れた光へ向けて。
「ここは…」
気が付くと燃え盛る廃墟の街の真ん中で倒れ込んでいた。
頭が重く記憶がハッキリとしない、ここは一体何があったのだろうか。
そもそも、ここはいったい…
「やーっと見つけた」
振り向くと透き通るほど白い幼女がそこにいた。
「…えっと……誰?」
「ひどいなぁ、大冒険の案内人を忘れたのかい?……あっ、そういえば私って分裂してたっけ今」
幼女が指を鳴らすとどこからともなく人魂が現れ、幼女に吸収されていく。
そのうち、その姿は見覚えのある姿へと変わっていった。
「天津…神禍…」
「正解!いやー、冥界から神界まで行ったのは感じたけど居ないから焦ったわー、まさかこっちに落ちてるがオチだとは思わなかったけど」
「落ちた…まぁ蹴っとばされたな…それでここってどこなんです?確かウルボアって街にいたはずなんだけど…」
「ここは地上界よ。で、その街っていうのはここね」
「ここ…?」
「そ、大分ハデにやったわよねぇ。まぁそんな一気にあの龍の力を取り込んだらこうもなるよね」
言葉が出なかった、俺が…これを…?
「あー、意識なかったんだっけ?まぁそりゃそうよね」
呆然としている勇者を尻目に天津が笑う、その声が思考する頭に刺さった。
「ま、元々何しでかすかわからない所だったしこの国にとって妥当な結末だとは思うけどね。それに…」
二人の周りで燃え盛っていた炎が全て一瞬で消えた。
「来たわね、相変わらず凄まじい力だこと」
「来たって…何が?」
「この世界を統べる唯一絶対の王にして秩序そのもの。面倒なことになっても困るしとっとと退散するわよ」
天津は虚空に手を置いて穴を開けた。
勇者は天津の肩を借りてその中に入っていった。




