その11
「ガフッ…」
勇者はゆっくりと目を開ける、全身が痛いせいでうまく体が動かせなくて状況がよくわからないけれど、どうやらどこかの部屋にいるようだ。
「あらっ!目が覚めたのね!シャド、来てー!」
聞こえたのは女の人の声だった、知らない人だけれどとてもやさそしそうで力強い声だった。
「本当か!…おぉ!気分はどうかな?」
男の人の声が近づいてくる、こっちは繊細で包み込むような声だった。
「ー…ー………ー…」
声が出ない、というより力がうまく入らない感じだった。
「ふむ、声帯を損傷したか?まったく、当局の考えそうなこった」
「どうしましょう…」
「ダメージだけなら休んでいれば治るはずだ、それ以外と考えると…いや、あまり考えたくないな」
「ーーーー………ーれ…ーー…」
「あなた、今…」
「あぁよかった…うん、よくがんばった。ここでゆっくり休むといい」
そうして二人は部屋から出て、静寂が勇者を包む。
あの二人、どうしてこんな明らかに怪物な姿の俺を…
そんな疑問が頭の中を駆け巡り、また眠りへと落ちていった。
そこから数日は平和に過ぎていった、そういえば、こんな時間はあの殺された日から無かったような気がする。
色々とあった、いやありすぎてもうよくわからないのだけど。
平和な時間をただ噛みしめる、故郷を救いたい気持ちは強いけれど、どこか心の隅ではずっとこんな時間が続けばいいのにという気持ちも強かった。
「だいぶ良くなってきたなようだな」
「そうね、ほんとよかったわ」
「さて声もちゃんと出るようになったことだし、なにか覚えていることはあるかな?」
「あの…その前に色々と教えてほしいんですけど、あなた達は一体?ここってどこなんですか?一体何が…」
「そうか…確かにまだ自己紹介もまだだったね。私はシャド、こっちが妻のサリーだ。君の名前は?」
「俺はアスクです」
「ふむ、いい名前だ。それでここはどこかだつたね。ここはウルボア、世界最大の都市だ」
ウルボア…知らない地名だ、しかもそんなに大きいなら聞いたことがあってもおかしくないはず…
そういえばあそこから落とされたんだった、ということはここは境界の世界だろうか、それとも地上界?
「そして、君はラボから脱走してきたのだろう?行き倒れていたのを我々が拾ったというわけだ」
「ラボ…?」
そんなものがここにあるのか
「あー、まだ記憶の混乱程度ならあるのだろう。すまなかった、無理に思い出さなくてもいい」
この絶妙に話が噛み合わない感じ、何か壮大な勘違いをされている気はするがこの際気にしないことにする。
そんな空間を一つのチャイムが引き裂いた、シャドの顔が一気に暗くなる。
「来たか…」
「それじゃあ私は…」
「あぁ、そうしてくれ」
そう言うとシャドは足早に部屋を後にした。
「ごめんなさいね、ちょっと緊急で人を診ないといけないの」
「あの…医者だったんですね」
「えぇ…まぁ」
そうしてサリーは勇者を寝かせ布団をかけてから部屋を後にした。
格好からして、医者には見えなかったんだけど…見かけによらないってことか?
まぁ体はあんまり動けないし、考えるだけ無駄なのかもしれない
「うん、だいぶ良くなったね。そろそろリハビリを始めていこうか」
また数日後、勇者は不自由なく動けるほど回復していた。
「いやぁ…多分大丈夫だと思うんですけど」
「ずっと動いてなかったから念の為の確認だよ、ほんとになにも問題がなかったら好きしてもらっていい。じゃ、ついてきて」
そう言ってシャドは部屋の外に出る、勇者もそれについていく。
長い廊下を歩く、なんだかとても古くて廃屋のような建物のようだった。
「あの…ここって」
「ボロいだろ?ホテルかなんかだったのを私が買い取って改築したんだ、こう見えて結構頑丈なんだよ」
そんなもんなのか…?
そして黙々と二人は歩く、長い階段野途中にあるドアを開けると別の階段が現れた。
「こっちだよ」
シャドはどんどんと下っていく、それを勇者は追いかけて一番下にたどり着くとそれなりに広く何もない部屋に来た。
「すごい…」
「ここなら周りに気を使うひつようもないでしょ?私はちょっと物を取ってくるから、準備体操でもしてて」
そしてシャドはまたあの長い階段を登っていった。
とりあえずやることもないので軽く体を動かしてみる、動きの一つ一つが軽く真化したときのようだった。
流石に羽はなくってしまったので飛べはしないが。
階段の方で足音が聞こえる、戻ってきたのだろうか。
そんなこと思っていると炸裂音と共に一つだった足音はどんどん増えていき全てがこちらに駆け下りてきた。
「ふん、実験体がいるとは聞いていたが本当だったとはな」
武装した集団がシャドを抱えて入り口付近で展開する。
「アスク…逃げろ…壁だ…」
「お前達は…!?」
「どうやって抜け出したのか知らねぇが、戻ってもらうぞ」
指揮官らしきヤツのハンドサインでそこにいた全員がこちらに一斉に銃を向ける。
「6Vショックボルト、撃て!」
亜光速で一斉に発射された弾丸が避ける間もなく勇者に突き刺さり、その全てが電撃を発生させる。
「6V!?将軍、彼を殺す気ですか!?」
「元主任、実験体にはこれくらい耐えてもらわねば、いらぬ」
意識が朦朧とする、立っているのがやっとだ。
「次弾装填!」
「やめてくれ将軍…」
「構え………撃て!」
再び体に突き刺さる、言葉にならない悲鳴と共に勇者は気を失った。
「やめてくれ!」
シャドの絶叫が虚空に響き渡った。




