だんらん
これは、6日間の帰り道に関する通話記録です。
この記録には、奇妙な点がいくつかありますが
隠された恐るべき真実に気付くことができるでしょうか。
ー1日目ー
もしもし、今日帰り遅くなる。
そうなの?私19時くらいに帰るから、気をつけてね。
うん。
鼻声だね、風邪引いたの?
あぁ、ちょっとね。クーラーのせいかな。
あんまり身体冷やすと良くないよ。
あったかい物でも持って帰ろうか。
うん。ありがとう。
出来立ての方がいいよね。
そうだね!
ー2日目ー
もしもし今日、帰り道で服を汚しちゃった。
大変…!すぐ洗った方がいいよ。
そうだね。取れるかな…?
頑張ってみる。
でも良かったよ暗めの色で!
ちょっと汚れ残っても、あんまり目立たないし。
今度から暗めの服着なよ。
子どもみたいによく汚すんだから。
そう言われると恥ずかしいな…
わかった、そうするよ。
汚れが目立たないようにしなきゃね。
ー3日目ー
もしもし今日、小学生の集団下校を見たんだ。
可愛い!
たまたま方向が一緒だったみたい。
皆コガモの行列みたいに並んでて可愛かったよ。
懐かしいなぁ。よく皆で帰ってたね。
そうだ、今日は焼肉にしようか!
新鮮なお肉があったから、持って帰って来たよ。
うそ!やったー!
最近食べてなかったしね!
塊だから、食べやすい大きさに切ろうか。
小さいから大丈夫だとは思うけど…
手に気をつけて。
…
美味しいなぁ…
久々に食べたよ!
そうだね、久々だね。
でも、あんまり手に入らないから、味わって食べないとね。
そうだね。余った分は地下の冷凍室に入れておこうか。
そうしよう。
地下の冷凍庫もいっぱいになってきたから、
古いやつから先に食べていかないとね。
確かに…
すっかり忘れて、新しいの持ってきちゃったよ。
うっかりさんだね!
ー4日目ー
もしもし大変だよ!
どうしたの?
今日はお肉が入手できないかも…
えー!どうしよう!楽しみにしてたのに!
仕方ないから、隣からお裾分け貰おうか。
そうしよう。
隣のおばあちゃん元気かな?
最近見ないねー
大丈夫かなぁ。
今度お裾分けのお返し持っていってあげたら?
きっと喜ぶんじゃない?
ー5日目ー
※新しく引っ越してきた女性と隣人の老婦人の
会話※
女性:これから、よろしくお願いいたします。
老婦人:よろしくお願いします。
若い人が越してきてくれて嬉しいわ
女性:ここには若い方少ないんですか?
老婦人:いえいえ、うちの隣に若い子が1人いるのよ。まあ、若いって言っても30代くらいだけどね。
女性:そうなんですね!
今度挨拶に行ってきます。
老婦人:ええ、明るくて温厚な人だから
すぐ仲良くなれると思うわ。
よく友達も呼んでるみたいだし。
女性:明るい方なんですね。
老婦人:ええ…でも友達の姿は見たことないのよね…お芝居の練習でもしてるのかしら?
女性:俳優さんか何かなんですか?
老婦人:いえ、普通のサラリーマンのはずだけど
ー6日目ー
※新しく越してきた女性夫婦の会話※
女性:今日は帰り道一緒だね。
女性の夫:久々だね、こうして帰るの。
…そういえば、隣のお婆さんの話聞いた?
女性:何?
女性の夫:あの人、数年前にお爺さんが行方不明になってて、大変なんだって。
女性:へっ!?そんな感じじゃなかったのに…
女性の夫:きっと気丈に振る舞ってるだけなんだよ。強い人だよなぁ…。
女性:そうなの…
なんか心配だし、明日お婆さんに会いに行こうかな。
女性の夫:良いんじゃない?
きっと1人で寂しいだろうし。
ー7日目ー
隣のお婆さんが死んだ。
ショックによる心肺停止だった。
警察によると、原因は差出人不明の荷物の中身だったようだ。
荷物は冷凍品のようだったが、一体何が入っていたというのだろう。
あぁ、今日も帰り道だ。
日が暮れたら危ないよって、小さい頃から言われていたのを思い出す。
あの老婆の気味の悪い死は、私の恐怖心を刺激した。
*
ある日の帰り道、私は近くに住む例の青年を見かけた。青年は誰かと話しているようだった。
どうやら、亡き隣人にお裾分けを持って行ったらしかった。
「淋しくなるね…
でもきっとお爺さんと2人、天国で仲良く暮らせるよ。もう淋しくない。」
「そうだね…これでよしっと。」
「…うん、素敵だよ。」
「良かった、上手くできて。じゃあ帰りましょうか。」
「うん、帰ろう。」
私はすぐに警察に通報し、引っ越しの段取りをした。
家路に、本体から置き去りにされた、色の違う2つの腕が手を重ねていたからだった。
数日後、1人の青年が逮捕された。
最後まで読み終わったら
もう一度、最初から読んでみて下さい。
(以下、ネタバレ注意)
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これは、1人の男の会話である。
食人鬼であり、二重人格でもある男の
帰路の異常な会話の記録である。
青年の会話部分のみ、人物の表記がないことにお気づきになっただろうか。