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30.ヒーロー脱出大作戦!

 ラインハートが救出を待っている。

 ぞわぞわと湧き上がる嫌な予感に、クロエは立ち上がった。

 牢獄の中を見回す。何かないか、と注意深く。視線は辺りを確認しながらも、頭の中はフル回転で脱出策を模索した。


 今の状況は、ここに閉じ込められた時と違う。あの時は、衛兵も去ってしまっていて足音の一つも聞こえなくなっていた。今は足早に行き交う靴音が途切れない。ということは、声を上げれば人が来るだろう。

 武器になるものはないか。16歳の小娘の細腕で兵士に立ち向かうなんて、死にに行くようなものだけれど。何か、刺すもの。もしくは、切るもの。縛るものでもいい。


 恋愛のカリスマ、アナスタシア先生の著作には何かいい案はなかったかしら。たくさん読んだ本の中には、サスペンスやクライムものもあったはず。思い出すのよ、クロエ。

 愛する人が危ない目に遭っているというのに、自業自得で拘束されている場合なの?

 生きて会わなきゃ、謝ることも出来ないじゃない。

 そうよ、クロエ=ゴドルフィン。


「助けに来たヒーローと、姫は恋に落ちるのよ!」


 何が何でも助けに行かねば。誰より先にラインハートを助け出す。

 ヒーローは私!


 クロエはするりとベルトを外して、パンと一度引いて張ってみた。強度は十分。カバンは取り上げられてしまったけれど、まぁこれで行くしかない。

 すぅっと大きく息を吸い込むと、クロエは腹から大きな悲鳴を上げた。


「きぃぃやぁぁあああ!!」


 クロエなりの、絹を引き裂くような悲鳴、である。実際のところわざとらしい騒音にも似た大音声という感じではあった。

 が、効果はあったようだ。

 こちらに足音が向かってくるのが聞こえて、クロエはベルトを手に立ち上がった。


「なんだ、今の大声は!」


 見覚えがある。クロエをここに押し込めた衛兵の一人だ。

 幸い、ここに駆け付けたのは一人のようだ。周りに援軍がいないことを素早く確認して、クロエは彼を見据えた。


「ここから出しなさい」

「は?」


 突然発せられた命令口調に、衛兵は目を丸くして、そのあとぐっと眉根を寄せた。


「だめだ」

「出しなさい」

「だめだ、身元の確認が取れるまでは出さない。身分詐称は重罪だ」

「詐称ではありません。まだ確認も取っていないのに、この扱いは違法ではないのですか? 詐称じゃなかったら、あなた、責任とれるの?」

「なんだと?」

「わたくし、クロエ=ゴドルフィン。このような辱めを受ける筋合いはありません。どうしても出さないというのなら、」


 するりとベルトを自分の首にかけ、格子戸の取っ手に輪にした端をひっかけた。


「このままここで縊死します」

「なっ!?」


 衛兵の顔色が変わったのを見て、クロエは唇の端を少し持ち上げて笑った。

 このまま膝を折れば首が締まるのが見て取れる。動揺している衛兵に、さらに畳みかけた。


「冤罪で16歳の、ゴドルフィンの孫を死なせたとあれば、あなたはどうなるでしょうね。この領地の主は、どう思うでしょうね。うちの祖父は、王族にも貴族にも顔が利きますの。あぁでもこれから死ぬわたくしには関係のないことですわね」

「ま、まて! 今急いで確認を、」

「……」


 ぎゅっと目を閉じて膝を折ったクロエを見て、衛兵は小さく声を上げた。

 慌てて鍵を開ける音が響く。クロエは指をベルトと首の間に挟み、頸動脈が締まって気絶するのを避けながら、顔色が変わるように気道をふさぎ、待った。


 ギィ、とドアが開いて衛兵が駆け込んでくる。屈んで助け起こそうとする彼の顎に、思い切り頭突きを食らわせた。


 顎への不意打ちの衝撃は、脳震盪を起こす。

 ふら付いた衛兵の身体を押し、クロエは素早く毛皮を掴んで牢獄から駆け出した。


 また何かに使うかもしれないベルトは手に巻き付けて、薄汚れた灰色の毛皮を頭から被り、素早く通路を駆け抜ける。

 衛兵がうろついている廊下は避け、裏口へと向かう。このような砦には、必ず四方に通用口があるものだ。


 見つけた木製の扉を開けると、真っ白い雪景色が広がっていた。

 脱出、成功だ。

 

 

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