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27.砦にて

 吹き付ける雪で、肌にちくちくと痛みが走る。

 足元は3センチほど積もった雪のおかげで滑ることもなく、さくさくと踏みながら歩を進めることができた。

 宿で休めたからか、おいしいご飯を食べたからか、身体は軽いように思えた。歩いて火照った身体に、雪の冷たさは心地いいと感じるくらいだ。



 ノヴァック領とオクレール領との境界には、何もなかった。立札が一本、ただそれだけ。

 矢印の先にノヴァック領、こちら側へ向いている矢印にはオクレール領。領地の境で揉めているという話も聞かないし、そもそもこのあたりには特に目立った資源があるわけでもないし、地図上で明確に区分けされていれば済むのだろう。


 そのままどんどん北へ歩いていく。行き交う人もある程度はいた。みな、雪国ならではの装いだ。

 ふくらはぎに巻かれている毛皮、あれはなんだか温かそうで素敵だな、と思う。水も弾くし、実用的だしおしゃれだし。

 男性女性問わず、カラフルな毛織物を纏っている。これは、雪の中でもすぐに見つけられるように、だ。クロエの服は、濃い茶色。大人っぽくて素敵だと思って着てきたが、この場にはそぐわないような気がした。


 ラインハートのモスグリーンも、きっとこの雪の中ではあまり映えない。

 あの紅茶の鮮やかな青やピンクだったら、遠くからでも目立ちそうだわ。


 白い息を吹きながら歩く。一人だと、いろいろなことを考えてしまう。


 ラインハートは大丈夫だろうか。確かにこんな荒天じゃ、街に気軽に出ては来られないだろう。

 しかも、三峰の崩落。領地で災害があったのでは、嫡男としても対応に追われているだろう。……それだけであればいいのだけど。


 顔を上げると、もうだいぶ山脈に近い。そういえば、さっきから少しずつ坂を上っている。

 ノヴァック領館は、どのあたりだろうか。


 立ち止まって辺りを見渡していると、砦のような建物が見えた。何本も湯気が立ち上っている。

 外に立っていた衛兵がクロエに気付くと、こちらに駆け寄ってきた。


「失礼いたします! この先、天候不良と地滑りのため、入山台帳への記入が必要となります!」

「入山台帳?」


 通行許可とはまた違うのだろうか。不思議に思って聞き返すと、彼は「はい!」と声を張った。


「身元の確認と、ご用件を記載していただきます! それから、案内をつけますので!」

「あ、そうなんですか!」


 案内人が一緒に来てくれるのはとても助かる。初めて来る場所でこの雪だ、うっかり遭難でもしたらラインハートを心配するどころの話ではなくなってしまう。


 促されるままに石造りの建物に入っていくと、中には10人以上の人がそれぞれにくつろいでいた。

 衛兵とドアをくぐったクロエを、何人かが振り返る。兵士ばかりかと思ったが、貴族も商人もいるようだ。

 大勢からの無遠慮な視線に、クロエは少し緊張した。


 記帳台に、促されるままに書き込んでいく。名前、住所、年齢、と。


「クロエ=ゴドルフィン……? ゴドルフィン商会の縁者かい?」


 何気ない様子で話しかけてきた恰幅の良い商人風の男性に、クロエは頷いた。


「そうかい、さすが豪商は違うねぇ。金のにおいに敏感だ」

「え、それはどういう、」

「ん? 違うのかい?」


 金のにおい? と全く予想していなかった言葉が出てきたことに興味を惹かれて身体を乗り出したとたん。


「そいつは、クロエ=ゴドルフィン嬢ではない!」


 叫び声にも似た、大声が響いた。

 しん、と室内に静けさが満ちる。


 椅子を蹴って立ち上がった貴族の男が、こちらを指さしてさらに言いつのった。


「私は知っている、クロエ嬢はそいつじゃない! 騙りだ!」


 ぞくりと背筋が冷えた気がした。

 顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる男には、確かに見覚えがあった。一度、ゴドルフィンの屋敷で。お見合いをしたことがある貴族だ。さすがに100人に断られている手前、名前までは思い出せなかったが。


 どうしよう、と何から話したらいいか考える間もなく、クロエは両腕を取られた。


「!?」

「確認させていただきますのでご同行願えますか」

「わ、私は!」

「身元詐称の嫌疑です、こちらへ」


 両腕を背中に回され、引きずられるように連行される。半分浮いている状態で、周りに視線をやっても皆怪訝な顔でこちらを見るばかりで、助けてくれる気配すらない。


「違う、違います!」


 声を張り上げても、腕に食い込む衛兵の指にさらに力が入るばかりだった。


 

もう少しで完結です。

最後までどうぞよろしくお願いします。

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