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26.ノヴァック領へ、ひとり

「一人で大丈夫か?」


 夕闇の迫る街はずれで、二人は馬を降りた。家々にも明かりがともり始め、夕食の準備の湯気があちらこちらで立ち上る。

 クロエは、心配そうなイーサンに力強く頷いて笑った。


「大丈夫です! 少しでも早くノヴァック領に入りたいので」

「でももう暗くなるぞ。足元も悪いし……、やっぱり俺もついていこうか」


 イーサンは、ノヴァック領での崩落についての詳細を知らないようだった。ここに来るまでの道中で三峰の崩落についての説明をしたけれど、クロエ自身が状況把握のためにいくのであって、詳しく知っているわけではない。

 ただ、ふたりしてラインハートとその領地の心配をするだけに終わった。


「平気です。チョコラもまだ元気だし」

「でも」

「あ、では、うちの兄ともし会うようなことがあったら、クロエは元気でしたと伝えていただけますか? 追いかけてくるらしいので、きっとここも通るから」


 絶対に意見を曲げないクロエからのお願いに、イーサンは困ったように笑って承諾するしかなかった。

 

「わかった。あんまり無理はしないように」

「はい。ありがとうございます、イーサン様。……会えてよかった」

「俺もだよ」


 笑って手を振りあい、クロエはそのままチョコラにまたがった。


「ラインハートによろしくな!」

「はい! 伝えます!」


 本当に、イーサンに会えてよかった。話ができてよかった。

 お互い、自分の良くなかったところを話した。そんな風に、正直な気持ちを話せるような友人は今までそばにいなかった。

 あの日、お見合いに来てくれたのがイーサンとラインハートでよかった。


 もしかして、ドブスメイクで追い払った男性たちの中にも、いい人はたくさんいたのかしら。

 今更そんなことを思っても仕方がない。お見合いに来た男性たちは、断った後はゴドルフィンには基本的に寄り付かないから。

 人となりを知る機会も、謝る機会もないんだから。




 すっかり陽が沈んだところで通りかかった宿で一泊。

 小さな宿屋だったが、夕食がとてもおいしかった。外は悪天候なのに、毛布がふわふわで嬉しかった。

 ベッドの中で、またラインハートからの手紙を読んだ。

 あと馬で5分も駆ければノヴァック領に入る。暗くて山の様子の確認は出来なかったけれど、早く寝て、そして起きれば朝になる。

 気持ちが高ぶって眠れないかもしれない、と思ったクロエだったが、馬で駆けた疲れもあって即眠りにつくことができた。


 夢は見た気がする。が、覚えていなかった。



 窓のがたがたいう音で目が覚めた。

 薄ぼんやりと明るい宿の部屋の様子からすると、もう朝になったようだった。けれど、窓の外は真っ白。吹き付ける雪で少し先も見えづらい。


 階段を下りていくと、まだ若い店主の妻がシチューとパンを用意してくれた。

 空腹に染みる、素朴な味だ。


「お嬢さん、今日はここでもう一泊していった方がいいかもしれないわ」


 心配そうに眉根を寄せて、クロエに木札を渡した。

「これは?」

「あなたの馬、2軒隣の厩舎に預かってもらったから。さすがにこの暴風雪じゃ、馬は歩けないでしょ」

 緑の屋根の厩舎は、レンガ造りで丈夫な佇まいをしていた。お礼をいうと、彼女は嬉しそうに笑った。

「うちの小屋じゃ、風が入ってきてしまって寒いもの。雪の深い日はいつもそうしているの。その木札は預かり証替わりだから、馬を引き取るときに渡してね」

「ありがとうございます。……あの、」


 リュックの内ポケットに木札をしまって、窓の外の様子を眺めながら、クロエは立ち上がった。


「チョコラだけ、預かっていてもらうことはできますか?」

「え? そりゃ出来るけれど……出かけるの?」


 目を真ん丸にした店主に、クロエは頷いた。


「ノヴァック領に行くんです。あ、そうだ。……兄が来たら、これを渡してください」


 持っていた便箋に、簡単にメモを書いた。

 チョコラは預かってもらっていること、歩いてノヴァック領に行くこと、心配ないこと。

 今日の日付、あて名はユーゴ、署名はクロエ=ゴドルフィン。


「ユーゴさんが来たらこれを渡せばいいのね、分かったわ。でも」

「よろしくお願いします」


 多めに宿泊費を置いて、ドアを開けた。

 深く帽子を被りなおし、雪の中を北へ。

 

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