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24/38

24.旅は道連れと言いますけれど


 ここでは寒いでしょうから、とイーサンの同行者に促され、焚火近くの仮設休憩所まで移動した。

 イーサンの背丈よりも高く燃え上がる火は、焚火というにはいささか大きい。ベンチへ腰かけると、ほっと身体から力が抜ける。


 イーサンは、座ったクロエのそばでそわそわと落ち着かない。このイーサンが、お見合いに来た挙句に笑ってお断りしてきたあのイーサンと同じ人物とはとても思えない。

 クロエは笑ってベンチの横を叩いた。


「座ってください、イーサン様」

「え!? と、隣に? い、いいんですか」

「何の遠慮ですか。みんなのベンチですよ」


 女性が苦手なのだろうか。でも、お見合いの席では必要以上に堂々としていたし。

 クロエと同一人物だと気付いていないからこの様子なのかしら。だとしたら、申し訳ない。


 以前のクロエだったら、申し訳ないなんて思うはずもなかった。

 金目当てで寄ってくる男をからかうことに対しても、罪悪感を抱いたことなど一度もなかった。

 なのに。


 クロエは、隣に腰掛けてまだそわそわしているイーサンに、深く頭を下げた。


「お久しぶりです、イーサン様。……クロエ=ゴドルフィンです」

「……?」


 キョトンとした顔で、彼はクロエを見つめた。じっと目を見て、髪を見て、また目を見つめて、微かに首を傾げる。

 何も言わないイーサン。いたたまれない気持ちになりながら、クロエはじっと身を固くして反応を待った。

 膝の上できつくこぶしを握り、怒鳴られるかもしれない、と覚悟を決める。

 

「クロエ=ゴドルフィン……」


 小さな声でイーサンは名前を呟き、びっくりしたように大きく目を見開いた。

「クロエ!? え、ちょっとまって、……クロエ、ゴドルフィン?」

 その表情からは驚きしか見えない。

「俺の知ってるクロエとは顔が違うんだけど」

「――はい、すみません。……お化粧です」

「女ってすごいなー!」


 クロエだと知ったとたん、一人称が「俺」に戻っている。感心しているイーサンは、人懐っこい笑顔を浮かべていて、それにひどく安心した。

 イーサンは無遠慮にクロエの頬を手のひらで撫でまわし、帽子から出ているポニーテールの栗毛をさらさらと指で梳き、へーとかほーとか言っている。


「外に出るときは、この顔なんだな」

「いえ、すっぴん状態でこの顔です」

「そばかすもきれいに消えてる」

「今日は描いてないんです」

「自然な色の化粧だな」

「自然そのものです」

「?」


 強めに擦ったり髪をかき上げられておでこを見られたり、とむずむずするような好き放題。

 くすぐったくて顔をしかめると、はっとしてイーサンはようやく手を離してくれた。


「ご、ごめん! 女の子の顔に!」

「いえ……ちょっとびっくりしたけれど大丈夫です」

「――そっか、あの子がクロエだったのか、気が付かなかったな……」


 独り言のように小声でそう言い、イーサンは深くため息を吐いて空を仰いだ。

「イーサン様?」

「あー、うん、何でもない。うんうん、何でもないんだ」


 どことなくすっきりした顔をして、イーサンは笑った。

「女の子って、化粧でほんとに変わるんだな!」

「……ごめんなさい、だましたみたいになって」


 みたいというか、事実騙したのではあるけれど。

 クロエの謝罪に、彼はまた笑った。

「別にそんな、謝るようなことじゃ。っていうか、好きな子の変装も見抜けないようじゃ、駄目だよなぁ」


 後半、声が小さくてよく聞き取れなかったけれど、クロエはすっと肩から重荷が下りたような気がした。

 素直に話せた、謝れた。よかった。


「あ、それで、クロエ」

「?」

「すっかり忘れてたけど、川、渡るんじゃないの? 通行証持ってる?」


 首を振るクロエに、イーサンはちょっとだけ真剣な声で言った。


「俺の通行証があるから、一緒に渡る?」

「! いいんですか!?」


 イーサンは上着の内ポケットから通行証を出し、クロエに見せた。

 イーサン=アドル、と名前が入っている。また、先ほどの同行者の名前らしい名前も。


「これ、……名前入りだから、途中での追加は出来ないんでは……」

「出来るよ」

「そうなんですか!?」


 だったら、と言いかけたクロエに、イーサンは続けた。


「俺の妻、としてだったら」


 イーサンの指が示す通行証の備考欄に、その記載があった。

 

『通行証における名義人、及び配偶者に限り通行を許可する』

 

 

誤字脱字報告ありがとうございます!

もう少しで完結です、よろしくお願いいたします!

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