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22.危険ならば、なおさらです

「行かない方がいい、ですか?」


 女性と少年は顔を見合わせて、神妙な表情で同時に頷いた。

「馬の脚が折れるかも」

 少年の言葉に、チョコラを見上げる。愛馬は不思議そうにじっとクロエを見つめていた。


「崩落があったんだって」

「街道が封鎖されているから、林道を通るしかないからねぇ。お嬢ちゃんが馬車で来てたら、当然無理だよって止めるところなんだけど。徒歩では行けると思うよ、大人の男だったらね。お嬢ちゃんと馬は……森の中を走るのに慣れた馬なら平気かねぇ」


 チョコラは都会っ子なので、森の中を走るのには慣れていない。

 クロエも都会っ子なので、薄暗い森の中を駆けるのに自信はない。けれど。


「崩落って、どんな状況だかわかりますか?」

「北から昨日通りかかった人が言ってたことだから、又聞きになっちゃうんだけどね。山の中腹を少し無理に掘削したらしくて、地盤が緩んで第三峰がドドーッとね」


 第三峰、ということは三番目に高い峰かしら。

 図面でしか見たことがないノヴァック領北部の稜線を思い描く。記憶が正しければ、領主の館があるのもそのあたりではなかったか。


 うなじのあたりに嫌な感じが這い上がってきて、クロエは立ち上がった。


「――行かなきゃ」

「お嬢ちゃん、」

「あの、これ、お会計ここに置きます! ご馳走様です、ありがとう!」

「ちょっと!」


 女主人の驚いたような声に一度振り返り深くおじぎして、クロエはひらりとチョコラにまたがった。

 きゅっと帽子を被りなおして、リュックを背負う。


「チョコラ、頑張ろう」


 ブル、と返事をするが早いか、チョコラは早足気味に駆け出した。

「気を付けてねー!」

 背中にかけられた少年の声に、後ろ手に挨拶を返してクロエはまっすぐに前を向く。


 無事でいてくれると信じている。

 頭と心の中にもやもやと渦巻いていた思いは、はっきりとした形になってきた。




 ユーゴ作の行程表よりもだいぶ進んで、宿泊。

 泊まる宿の主人に渡すようにと言われたユーゴの手紙を忘れずに渡し、勧められた部屋にそのまま入った。

 

 普通の民家のような温かみのある宿。別の言い方をすると、宿泊施設としてはいろいろ整っていない。

 暗くなると風が強くなり、カタカタと窓を鳴らす。きちんと乾された布団は気持ちがいいけれど、一人で知らない宿に泊まるのは初めてで、心細い。


 チョコラと一緒に厩舎に泊めてもらえばよかったかもしれない、とすら思う。

 大きな枕をぎゅっと抱きしめて、カーテンの隙間から外を眺めた。

 暗くてよく見えない。けれど、向かう山の山頂の雪が白くぼんやりと浮かんで見えた。


「ラインハート様、……」


 そうだ。

 クロエは鞄を引き寄せて、半分読めていないラインハートからの手紙を読むことにした。

 

 銀色の封蝋に押されたノヴァック家の紋を指先で撫でる。騎士の家系ではないせいか、どことなく柔らかい印象がある。

 便箋を開くと、綺麗な筆跡で書かれた文字が並んでいる。

 クロエ様、と綴られた自分の名前も何か特別なもののように感じた。


 しばらく会えないこと、が書かれている。それが残念だけれど必要なことであると。

 具体的な内容はなかった。けれど、丁寧に並んだ字が、彼の思慮深さと何かしらの決意を表しているように感じた。


 多くは書かれていなかった。ただ、最後にあった一文に目を止めた。


『次にお会いした時に、伝えたいことがあります』


 何度もその文字を目で追うと、ラインハートの声でそれが脳内に響く気がした。

 伝えたいことって、何だろう。クロエも話さなければいけないことがある。

 二人にはまだまだ会話が足りない。会って、目を見て、伝えなくてはいけないことがある。

 

 封筒の宛名は、『クロエ様』。ゴドルフィンの姓がなかったことが、じんわりと胸にくる。

 早く会いたい。

 一刻も早く、無事な姿を確認したい。

 

 

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