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この誓いを違えぬと  作者: @豆狸
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「……この誓いを(たが)えぬと、女神様に誓えますか?」


 司祭様に確認されて、私は頷きました。

 ええ! けして(たが)えるものですか!

 今日は私とジェイク様の結婚式です。竜殺しの英雄を父に持つ私と、幼くしてご両親を亡くして国王となったジェイク様の婚約は政略的なものでした。でも、私は彼に恋していました。


 淡いすみれ色の髪と瞳、妖精のような美貌にしなやかな長身。

 澄んだ歌声を聞いていると心は癒されていき、長い腕に抱かれて踊れば空を飛んでいるかのように感じます。

 少し浮気性なところがあるのが玉に瑕ですが、この結婚式の十日前に成人したジェイク様は誓ってくださいました。もう浮気はしない、カサンドラだけを愛する、と。そのときに、私の笑顔が好きだともおっしゃってくださいましたっけ。


 ジェイク様は美しいだけでなく文武にも優れていて、特に剣術に関しては生粋の武人である父が褒め称えるほどです。

 国王として、民を救うために魔獣と対峙することもあるのでしょうが、私が成人のお祝いにお渡しした魔獣馬がジェイク様をお守り出来るよう願っています。


 ジェイク様は、私より先に女神様に結婚の誓いを立ててくださっています。

 もちろん私も誓います。ジェイク様を愛します、この命ある限りジェイク様だけを愛し続けます、と。

 私は、絶対にこの誓いを(たが)えることはありません。


 式が終わって神殿を出ると、青い空の下、王都の住人だけでなく近隣から集まった民達が私達に花びらをかけてくれました。

 陽光を浴びて輝く色とりどりの花びら、そしてその花びらよりも美しい私の旦那様──ジェイク様、ジェイク陛下。

 こんなに幸せを感じるのは、生まれて初めてかもしれません。早くに母を亡くした私に父は優しかったのですが、基本的に無骨な武人でしたので物足りなく感じることも多かったのです。幼いころから一緒の従者は私の言葉に逆らってばかりですし……今は、そんなことを考える時間ではありませんね。


 私は幸せに酔いしれました。

 なによりも私は、初めて会ったときからジェイク陛下に恋をしていたのです。

 妖精のように美しく儚げで、なのにご両親を喪ったという不幸にも負けず幼い身で国王としての責務をこなしていらっしゃる。……好きにならずにいられるでしょうか。


「俺達の門出に相応しい良い天気だね、カサンドラ」

「はい、ジェイク陛下!」

「陛下か……君にそう呼ばれると不思議な感じだな」

「ジェイク様のままのほうがよろしいですか?」

「……どっちでもいいよ、お妃様」


 微笑むジェイク様に心を奪われます。

 瞳が合うたびに恋をしていたら、これからの人生心臓が持ちません。

 わかっているのに、私の心臓は激しくときめいて、ジェイク様が好きだと叫ぶのです。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 私は幸せでした。

 ええ、ジェイク様と結婚した私は幸せでした。

 意地の悪い宮廷雀達に、彼の愛人のリュゼ様が結婚式に来ていたと教えられても、最後の別れに来たのだろうと気にしませんでした。リュゼ様はとある大貴族の未亡人で、ジェイク様の……その、寝所での知識の教師だった方です。そしてそのまま愛人になりました。夜会などですれ違うと、いつも私を睨んできます。


 でも彼女のことなど気にしません。

 結婚前のジェイク様の浮気相手はたくさんいらっしゃいました。リュゼ様もそのひとりだというだけの話です。

 ジェイク様の妻は、このオルベール王国の王妃は私だけなのです。


 私の父は竜殺しの英雄です。

 このオルベール王国を見下ろす、一年中雪に覆われた山脈に棲んでいた邪悪な竜を退治したことで爵位を与えられて定住した旅人です。ですので、王国本来の貴族達には嫌われていました。面と向かって罵られたこともあります。

 そのくせ彼らは自分の領地に魔獣が現れると父を呼びつけ、我が領で育てている魔獣馬を欲しがるのです。


 いいえ、それは今はどうでも良いことです。

 ジェイク様と結婚して三年、私は彼の叔父に当たるブランシャール大公と対峙していました。大公は先代国王の弟で、幼くして即位したジェイク様を陰になり日向になり支えてきた方です。異邦人である私の父のことも、友としてずっと助けてくださっていました。

 その大公が言いました。


「カサンドラ、君達が結婚してもう三年が経つ。ジェイクには、この王国には跡取りが必要だ。……ジェイクは愛妾を迎えることになった」


 どうして子どもが出来ないのでしょう。

 こんなにジェイク様を愛しているのに、ジェイク様も私を愛してくださっているのに! ああ、でも、おそらく愛妾の話が出たと思われるころから、ジェイク様は私の寝所に来なくなりました。国王として、無駄なことは出来ないとお思いだったのでしょう。

 私は大公の言葉に、わかりました、と頷くことしか出来ませんでした。

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