魔法が使えないからと追放された令嬢は追放先でチート能力に目覚めます。〜今更復讐をやめてくれと言ってももう遅い、もう魔王とも協力関係になったので
私は16歳の誕生日に父である皇帝に謁見の間に呼び出されていました。
「イリーナ、16歳の誕生日おめでとう」
その言葉はお祝いの言葉でしたが、全く気持ちはこもっていませんでした。
「それで魔法は使えるようになったのか?」
父は私が聞かれて嫌なことを尋ねてきます。
「……いいえ、まだ」
私は質問に力なく答えます。
私の回答を聞いた瞬間、父の顔が怒りでみるみる歪んでいきます。
「どうしてお前は16歳にもなって魔法が使えないのだ!この出来損ないが!」
父の叱責を受け私は思わず身を縮こめました。
「もうよい、魔法も使えないお前を後継者としておく訳にはいかん、イリーナ、今日を持ってお前を帝国から追放する」
父の言葉に私は唖然とします。
「追放!?ど、どうしてですか、お父様?」
突然のことなので私は動揺を隠せず、皇帝に問いかけてました。
「何故って、自分がよく分かっているでしょう、イリーナ。貴方が不出来だからよ」
質問に答えたのは父ではなく母である皇妃でした。
「皇妃の言う通りだ、この魔法大国であるエンフィールド帝国で後継者が魔法を使えぬなどあってはならぬ。今日より後継者はお前の妹フレアとする」
皇妃の言葉を皇帝が引き継ぎ、改めて私に宣告します。
もはや私が反論を述べる機会などは与えられていないようです。
「刑は島流しとする」
皇帝が私に無慈悲に処分を言い渡しました。
「これで不出来なあなたの姿を見なくて済むわ。とても気分がいいです」
皇妃はそう言うととても気分が良かったのか笑い声を上げました。
こうして私、イリーナ・エンフィールドは帝国を追放されることになったのです。
幼い頃から私は魔法が使えませんでした。
私はエンフィールド家の長女として生まれ、立派な跡継ぎとして育つことを期待されていました。
ところが重大な問題が発覚します。
私は魔法を使えなかったのです。
エンフィールド帝国は魔法大国、魔法によって国を発展させ巨大になった国です。
そんな国で跡継ぎが魔法が使えないというのは大問題でした。
魔法も使えない者が皇帝になっても部下達が命令を聞くはずがありません。
最初の頃は父も母もなんとか私が魔法を使えるようになるよう必死でした。
しかし妹のフレアが生まれ、そちらに魔法の才能があると分かった時から父と母は私に無関心になり興味を示さなくなりました。
今回の処分も後継者をフレアにしたいという父と母の意向の結果でしょう。
帝国を追放された私は皇籍を剥奪されたうえで無人島に島流しとなりました。
本当になにもありません。
時々様子を見に帝国の兵士がやってきますが私へ必要最低限の食料を渡して去って行くだけです。
私はこの島に流された直後もしばらく茫然自失の状態でした。
どうして私だけこんなに魔法の才能がないのでしょう。
魔法が使えないだけで周りから出来損ないと言われ蔑まれる。
最後は島流し。
私自身ではどうしようもないことで、どうしてこうも振り回されるのでしょう。
世界とやらは私が嫌いなのでしょうか。
鬱屈とした気持ちを抱えながらも、他にできることもないので、私はなんとか気持ちを切り替えて島を調べて回ることにしました。
するとある日、洞窟のようなものを発見しました。
興味を惹かれ、中を進んでいくと扉のようなものがありました。
かなり重そうな扉で私は全体重を乗せて押すことでやっと扉を開けることが出来ました。
中に入るとそこには誰かが鎖で繋がれてぐったりしています。
「あなたは誰ですか?」
私が恐る恐る問いかけると、その人はゆっくり顔を上げて私を見ました。
「ほう、こんなところに人間とはまたおかしな話だな」
低く落ちついた声でした。
その人は私の質問にこう答えたのです。
「俺はお前達の言葉でいうところの魔王というやつだ。伝承で聞いたことぐらいはあるだろう」
魔王、言い伝えでは聞いたことがあります。
何百年も昔に魔族を率いて人間と戦争を起こしたものです。
恐ろしい強さを誇ったとのことですが、最後は人間に倒されたと記録にありました。
そんな魔王がどうしてこんなところに繋がれているのでしょう……。
「どうしてこんなところにそんなふうに繋がれているんですか?」
思わず私は聞いてしまいました。
「なに、昔人間共に負けてな。以来ここにずっと封じられている。」
私の質問に魔王は自嘲気味に答えます。
「時にお前はどうしてこんななにもない場所にいるのだ?」
「そ、それは島流しにあったから……」
「島流しとはまたよっぽどだな、どんな罪状なのだ?」
「……魔法が使えないからです」
私は弱々しく魔王の質問に答えます。
「ほう、お前は魔法が使えないのか。」
「はい……」
「魔法が使えないだけで追放とはまた酷いものだな、しかし余にはお前が魔法を使えていないようには見えないが」
「は、はい?どういうことですか?」
魔王の言葉を私が聞き違えたのでしょうか。
「ふむ、どうやらお前はかなり珍しい魔法の使用者らしいな」
「だから私は魔法が使えないといったでしょう」
「違うな、お前は使えないのではない、破壊しているのだ」
「え……」
「破壊の魔法をその身に宿しているとはな、なかなか面白い」
「破壊の魔法……?」
聞いたことがない魔法です。
「俺も使える者は数名しか見たことはないがな。まあ用は他の魔法を全て破壊する魔法と考えれば分かりやすいか。お前はそれがゆえに魔法を発動出来なかったのだ、発動する前に破壊していたのだからな。先程の大扉も魔法で封印が施してあったのだぞ」
なるほど、私が他の魔法を発動しようとしてもその前に破壊の魔法が壊していたから発動出来なかったという訳ですか。
「ふむ、お前は自分に降りかかってきた理不尽にいいようのない怒りを感じているな?」
自分の力について告げられ、まだ実感が湧いていない私に唐突に魔王が尋ねてきます。
「どういう意味ですか?」
「お前は今回の自分に降りかかった理不尽に行き場のない怒りを感じているようだったからな。そこで提案なんだが余と契約する気はないか?」
「け、契約……?」
「お前がもし自分を理不尽な目に合わせた奴らに復讐したいと思うなら余が手を貸すと言っているのだ。まあ契約とはそれが一番ぴったりな言葉だったから使っただけだ。」
「復讐……」
その言葉を口にした時、妙な心地よさを私は感じました。
今までの理不尽な周りの人間にやり返す機会が得られる。
想像をすればするほど気分が高揚します。
しかし、
「……どうして、あなたは私にそれほど肩入れするのですか?」
そうです、魔王はどうして会ったばかりの人間である私にここまでの提案をするのでしょうか。
どうしても納得出来ずに私は魔王に尋ねます。
「お前のその理不尽に対する怒り、諦めの悪さを気に入ったからだ」
「私はあなたをここに閉じ込めた者たちと同じ人間ですよ。それでも味方するのですか?」
「そんなものは過ぎたことだ、今更何百年前のことを蒸し返してどうこうする気はない。余の力とお前の破壊の魔法、この二つがあればお前を苦しめた人間にやり返すことは可能だろうさ」
私の破壊の魔法と魔王の力が有れば私を蔑んだ者達にやり返すことができる。
魔王は私に対し、きっぱり言い切りました。
そうですか、なら
「私に協力してください、魔王さん」
もし契約で、理不尽に抗う力が手に入るなら。
自分を蔑んだ者達に復讐することができるなら。
私の破壊の魔法にそれを成し遂げる力があるなら。
見返してやりたい、私を嘲笑った者達を。
「ふふ……そういうと思っていたぞ、お前は」
どうやら魔王は私の返答に大層満足したようです。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったな、名前はなんという?」
「イリーナ。イリーナ・エンフィールド、いえもうただのイリーナですね」
皇籍は剥奪されていますしね。
「ではイリーナと呼ぼうか?」
「はい、それで構いません。よろしくお願いします。そういえばまだ魔王さんのお名前も聞いていませんでした」
「ゼクトだ、呼び方はゼクトでいい。これから一緒に行動する仲だからな」
「それでゼクトさん、まずはあなたを縛っている鎖を壊せばいいのですか?」
「そうだ。ちょうどいい、お前自身が自分の力を確認するいい機会だ。この鎖も魔力で作られているのでな、お前が触れるだけで壊せるはずだ」
本当にそんな簡単に行くのでしょうか。
私はその言葉を疑いながらもゼクトさんを縛っている鎖に触れます。
すると鎖は簡単に壊れてしまいました。
「ええ……」
「言っただろう、これで自分の力は認識出来たと思うが」
どうやらゼクトさんが言った私の破壊の魔法の力は本物だったようです。
「さて、改めてよろしくだな、イリーナ」
そう言ってゼクトさんは私に手を差し出してきました。
私はその手を強く握り返します。
こうして私と魔王の復讐を目的とした奇妙な契約は成立したのです。
今更やめてくれなんて謝ったって遅いですよ、お父様。