コンプレックス
─「お父さんっ?!イ、イヤだっ…!離して!!
お兄ちゃん、助けて…!!」
俺がこんなにも怒りを覚えることは、きっと前にも後にもなかっただろう。
あいつを妹から引き剥がした後のことは正直よく覚えていない…。
ただ、一つだけ言えることがある。あの時、妹がそばにいなかったら あいつが目を覚ますことは永遠になかっただろう。─
「…ゃん!…ちゃん!…お兄ちゃん!!」
今年高校生になった私、渥美彩華はただ今お兄ちゃんの上に乗i…ゲフンゲフン、お兄ちゃんを起こしています!!
「お兄ちゃん!!起きてください!!朝ですよ!」
「……。」
「もしもーし?」
「……。」
「仕方ないですねぇ…。悪戯しちゃいましょう!う〜ん、どうやって脱がせようかなぁ。」
私が結構真面目に考えていると、
「おいちょっと待てそれはまずいだろ!!スミマセン私が悪うござんした勘弁してください…。」
お兄ちゃんが起きてしまった。むぅ…残念…。
「おはようございます、お兄ちゃん!!」
「ああ、おはよう彩華。」
私の兄、渥美智治は高校三年生で今年成人します!!ん?あれ…?
成人って十八だっけ?二十だっけ?…確か十八…だった気がする!!
とにかく兄は大人になるのです!!オトナになるの…嫌です!!!!
ダメ絶対!です。お兄ちゃん、私と一緒にオトナになりましょう!
「どうした、お前表情変わりすぎだぞ?」
いや、もうホントに変わりすぎ。怒ったり、驚いたり、笑ったりと、ド○がおジャンケンに出ていてもおかしくないレベル。中でも一番可愛いのはやっぱド○ミ…。
「てか、俺の服毎回脱がせようとするのやめてほしいんですけど…。」
「なんでですか?」
「なんでってそりゃあ…」
「お兄ちゃんが起きないからいけないんですよ!」
そう言って、指で小さくバッテンを作ってみせる彩華。
母親に叱られているみたいで恥ずかしい…。
ただ、これは認めざるを得ない事実なのだ。
実際、俺は朝に弱い。夜どれだけ早く寝ても、次の日の朝には二度寝してしまうことも多い。徹夜してフォー○ナイトすることもしばしば…。いや、これは朝に弱い関係ないか。
ゆーて、このせいで前は二日連続で遅刻したまである。
故に、反論できない。
「ゴモットモデス…。」
「なんで片言…反省してますか?」
「はい、してます…いつまでも寝てたら、悪いが起こしてください…」
「ん…わかりました。でも、起こし方は変えません!!」
「いや、それだけは変えてください!!それに、何故そこまでそのやり方にこだわるんだ?!」
「そうでもしないと起きないじゃないですか!………ホントほお兄ちゃんに甘えたいだけなんて言えない…//」
「思いっきり言っとるがな!!本当にやめてくれ…」
すると彩華は(´・ω・`)としてしまい俯いてしまう。
う〜ん…少し言いすぎたか?いや、やめてもらわないと俺のメンタルがヤバくなる。
………が、黙っていた彩華がちらと上目遣いで見上げてくる。
「…お兄ちゃんは、甘えん坊な妹は…嫌いですか…?」
うっ、まずい…。「また」だ…。「また」妹がとても愛おしくなってしまう…。
「キ、キライじゃない…。」
そうだ。俺はとことん妹に甘い。…だが!世の中には妹に甘くない兄なんていないんじゃないんだろうか!!だよね?!妹に甘いの俺だけじゃないよね?!でないと死にたくなるまである。
ただ、俺にもプライドというものがある。男のプライドという謎のプライドが。だから、
「せ、せめてもう少し抑えてくれ…」
この発言か○か✕かも分からない…。
だが我が妹は、顔を真っ赤にして、
「…お兄ちゃんのいくじなし……。」
消え入りそうな冷たい声で返す。怒らせてしまったのだろうか…。どう対応すればいいかオロオロしていると、彩華は一変して
「はい、じゃ朝ごはん作るから早く起きてきてね!!」
彩華は笑顔にウインク☆を決めて台所に行こうと、扉へ向かう。
これが、我が妹のいいところである。
基本的に切り替えが早く、実際俺もこれにすごく助けられている。
俺の妹は素晴らしい。
優しいし、可愛いし、甘えてくるし、叱ってくれるし、家事だってこなす。そして、何より信じれる。
正直言うと俺はシスコンである。
妹に絶対の信頼を寄せている。
俺から見た彩華は「素敵な人」だ。一途にそう思い続けている。
だからなのか
扉を開けて部屋を出ていこうとする彩華の横顔が、寂しげだったことに
智治は気付けなかったのだろう。
「さて、頑張ってゴハン作るぞ〜!!」
無理にでもテンションを上げないと私は鬱になってしまいそう…。
「「抑えてくれ」か…。」
私は兄から絶対の信頼を受けている。それは何となく感じている。
きっと兄は本当に私のことを「いい人」と思ってくれているのだろう。
だからこそ
兄のあの言葉はひどく心に刺さった。
信頼してくれるのはとてもうれしい。誰だってそうだろう。
ただ、「いい人」止まりなのはイヤ…。
私だって「女の子」なんだから…。「妹」としてだけでなく「女の子」としても見てほしい…。
だからか、兄が私のことを「女の子」として見てくれていない…。
そう考えると非常に胸が痛む。
「…私じゃだめなのかな、お義兄ちゃん…。」