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看過と執念  作者: 京
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6

藍原真澄には誰にも言えない秘密がある。



ごくごく普通の社会人で、美人というわけでもないし仕事がよくできるわけでも、性格がいいわけでもない。


そんな真澄は仕事を終えると徒歩10分の距離にある1人暮らしをしているマンションではなく、別のところへ行く。


人気のない会社の駐車場に停められた黒のクラウンに近づくと、助手席から出てきた男によって後部座席のドアが開けられる。小さく頭を下げて乗り込むと、男が助手席に戻ったのを確認して運転手はアクセルを踏んだ。



ーー真澄は毎夜、夢を見る。



見知らぬ女が車に轢かれて亡くなり、次には中世のヨーロッパのような世界に生きるブリュネットヘアの美少女が出てくる。それは生前の見知らぬ女が携帯にインストールしていたゲームに登場する悪役令嬢に似ていた。


いい夢でも悪い夢でもない、そんな夢を毎夜見るのだ。



ほどなくして着いたのは、とある高級マンション。


助手席から降りた男を連れてエントランスを抜ける。エレベーターに乗っている時も会話はない。


扉が開いたのは最上階。男はここからついてこない。ただ視線は感じる。



この階にただ1つある扉のインターホンを押すと、すぐに開いた。同時に中から伸ばされた手に腕を掴まれ、引き摺り込まれた。


「おかえり」


少し薄暗い玄関で抱き締められながら耳元で低い声が囁かれる。


「…ただいま」


ここは真澄の家ではないのだが、ただいまと言っておく。


抱き締められたまま抱え上げられ、廊下を歩いていく。廊下の白い壁に貼られたたくさんの〝四角いそれ〟は、見ないフリをした。



明かりのついたリビングを素通りし、その奥の寝室に入る。キングサイズの冷たいベッドにそっと寝かされた。



「ーー真澄、」


覆い被さってくる影に目を閉じた。




藍原真澄の秘密は、過激なストーカーと暮らしていること。








宮野恭平は藍原真澄のストーカーだ。



街中で見かけて、彼女を監視するようになった。


突き止めた彼女の1人暮らしするマンションの部屋に密かに合鍵を作って侵入し、盗聴器とカメラを仕掛け、下着などを盗んだ。


彼女は自分に無頓着なのかなかなか気づかなかったが、ようやくストーカーの存在に気づいたらしく、部屋の中を探り始めた。その時に部屋に乗り込んで彼女の前に姿を現し、硬直する彼女を攫った。



恭平の部屋は真澄で溢れている。玄関も廊下もリビングも、バスルームもトイレも、寝室も。壁は盗撮した真澄の写真で埋め尽くされ、部屋は真澄の触れた物や使用済みの物が大量に置かれている。


これを目にした真澄は恭平に逆らわないと賢明な判断を下した。





ーーエドワード・ヴィンブルグは恭平の前世だ。



あの修道院でクラウディア・コーラルの消える様を目の当たりにしたエドワードは彼女の後を追うように剣で命を絶った。


ようやく彼女への恋慕を自覚したのだ。


否、恋慕という生易しいものではない。執着だ。その執着をもって、来世では彼女を手に入れると決めた。


欲しいのはかつての婚約者クラウディア・コーラルではない。



クラウディアの中に宿った、彼女だ。



彼女を探して分かったことがある。


前世のエドワードがいた世界は架空の世界で、乙女ゲームと呼ばれるものだった。

エドワードはヒロインーーアリアの攻略対象でクラウディアは悪役。


それを知り恭平は彼女が何らかの要因でゲームのキャラクターに転生したと推理した。


そして最後、あの修道院でクラウディアが消えたのは、クラウディアがヒロインを苛めず悪役にならなかったこと、修道女になったこと、その彼女をエドワードが訪ねたことなど、ゲームのシナリオにはない複数のエラーがクラウディアをゲームから消滅させたのではないかと考えた。



その彼女は今、藍原真澄として生まれ変わっていた。


すぐに分かった。彼女への激しい執着がそう告げていた。



真澄には前世の記憶がない。


それでもいい。



彼女を手に入れた。それが全てだ。







これは、興味本位で始め、すぐに飽きてアンインストールした乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したのに、それを思い出せず、ゲームのシナリオ通りにバッドエンドを迎えた少女の物語。


あるいは、そんな彼女にシナリオにはない感情を抱いた王子が執着のあまり来世で彼女のストーカーになる話。



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