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看過と執念  作者: 京
3/7

3

どうやらクラウディア・コーラルは少々気性の激しい女の子だったらしい。


何でも自分の思い通りにならないと激しい癇癪を起こしていたようで、家族や侍女たちを困らせることがたびたびあったとか。


鏡を確認したところ、生まれつきだというウェーブがかったブリュネットヘアに綺麗な翡翠の瞳の美女で、猫のような吊り目は気の強さを如実に表していた。

スタイルも良いクラウディアは見た目の良さも相まって、周囲に甘やかされて育ったのだろう。


だからか、私が家族たちと話した時、困惑したような顔をされた。曰く、彼らの知るクラウディアは良家の令嬢を体現した少女で、言い方は悪いが高飛車で高圧的なお嬢様言葉を駆使していたらしい。


それを聞いたときは本当に困った。怪しまれないようにクラウディアを演じたかったがお嬢様言葉なんて柄じゃないし、使いたくもなかった。


だから、苦し紛れの言い訳をした。とある旅人と話して感嘆し、これを機に心を入れ替え、淑やかな淑女になるのだと。苦しすぎる言い訳だと自分でも思ったが家族は普通に信じた。大丈夫かな、この家族。


ベッドメイキングやお茶の用意など身の回りの世話をしてくれる侍女たちにお礼を言うと初めは驚かれ、中には感極まって泣きだした人もいたが、今では慣れたのか受け入れてくれている。クラウディアの振る舞いが目に見えるようだ。




ーーそんな私の頭を今悩ませているのが、婚約者である。



「やあ、ロッティ」


あの舞踏会と同じような王子様然とした白い衣装で現れた男性は甘やかな笑みを浮かべた。

それを受けた私は拒否反応から同じような笑みを返せず、引き攣った表情でぎこちなく一礼した。



サラリとしたブロンドの髪に青い瞳、凛とした麗しい顔立ち。まさに理想の王子を体現した人だった。


名はエドワード・ヴィンブルグ。

この国を治める王家の第一王子である。



この名を聞いたとき、何かを思い出しそうになったのだが忘れてしまった。


気の所為だろう。



この人がクラウディアの婚約者。


それを知った時は拒否反応が限界を超えた所為で文字通り倒れた。


クラウディアの父は現国王とも親しい外交官で、母は元宰相を祖父に持つ公爵家の令嬢。その深い繋がりから第一王子エドワードの婚約者となった。


という政略結婚話は4分の1しか当てはまらない理由である。


あとの4分の3を占めるのは、幼少期のクラウディアがエドワードに一目惚れしたことだ。


幼い頃から我儘だったクラウディアは見目麗しいエドワードに惚れてしまい、父に打診した。エドワードと結婚したいとしつこく言い続け、愛娘の願いに弱い父は現国王に話を持ちかけ、あっさりと承諾されたのだという。


表向きは政略結婚であるこの婚約は、クラウディアの我儘がきっかけだったのだ。



「ロッティ、君の好きな赤い薔薇を用意しました。受け取っていただけますか?」


そう言って美しく包まれた薔薇の大きな花束を差し出される。しかし私の顔は更に引き攣った。


薔薇は確かに綺麗で良い香りだが、私は好きではないのだ。クラウディアが好きでも。

特に赤い薔薇は血を見ているようで気持ち悪く感じてしまう。


しかし差し出された手前、いらないと断るわけにもいかない。


「…ありがとうございます」


どうにか浮かべた作り笑いで受け取った。



彼の贈り物を断れないのには理由がある。原因はまたしても他ならぬ私、否、クラウディアである。


エドワード王子にベタ惚れなクラウディアは彼からの贈り物をこれまたしつこく要求…強要したのだとか。あれが欲しいこれが欲しいと言って。


今回のこの薔薇も以前のクラウディアに強請られたのだろう。


しかし私からしてみれば迷惑この上ないというか、居心地が悪い。他人に貢がれるのは苦手なのだ。特に男からの貢ぎ物は鳥肌が立つ。今もドレスの下では鳥肌が立ちまくっている。


もっと無理なのが、エドワードの『ロッティ呼び』である。

これまたクラウディアが原因で、エドワードに愛称で呼ぶことを強要したらしい。ちなみにクラウディアは勝手に『エド』と呼んでいた。


ぞっとする。呼ばれるたびに寒気がした。


だからそろそろ言おう。


「エドワード様、お願いがあります」

「ロッティ、どうかいつも通りに呼んで下さい」


『ロッティ呼び』やめて。

いつも通りが無理なんです。


「…エドワード様、これからはこういった贈り物はご遠慮したいのです」


エドワードがきょとんとした顔で私を見つめた。そりゃそうですよね。


「私が強請って贈り物を強要していたのに勝手なことを言って、申し訳ありません。私の我儘でご迷惑をおかけしました。これからは贈り物はご遠慮したいのです」


それから、と続ける。


「どうか私のことはクラウディアとお呼び下さい。愛称で呼んでほしいなんて身の程知らずな発言をしたこと、お許し下さい」


私もエドではなくエドワード様と呼ぶ、ということを伝えた。本当は殿下と呼びたいが、いきなり大幅に距離を空けると流石に怪しまれるだろう。


エドワードはしばし固まって茫然としていたが、ふと小さな笑みを見せた。


「君がそんなシンプルなドレスを身に纏っているなんて珍しいですね」


彼の口から出たのは全く関係のないことだったが、ぎくり、と肩が強張る。焦りが顔に出ないよう細心の注意を払った。


「今の私はそういう気分なのです」



クラウディアは派手で美しいものが好きだった。特に好んでいた色は赤。


侍女に部屋着のドレスを用意された時、どきつい赤で胸を強調したものだったので羞恥のあまり発狂しかけた。


クローゼットを見ても赤、赤、赤…。

他の色もあったが派手なものしかなかった。


どうしても着たくなかったので、申し訳ないが侍女に地味でシンプルなドレスを買いに行ってもらった。本当は動きやすいパンツスタイルが良いと言ったが侍女が気絶しかけ、令嬢らしくないと拒絶された。


アクセサリーも派手で大きな形のものばかり、おまけにヒールの高い靴しかなかったので、ドレスと一緒に売り払ってしまった。


おかげで今あるのはグレーや白、淡い色合いのドレス、ヒールがほとんどない靴と申し訳程度の小さな宝石のネックレスだけ。家族や侍女が目を剥いて驚いていたが。


部屋も豪奢な置物や天蓋付きベッドなど高価なもので溢れていたが、それも売り払ったり家族や知り合いに渡して、必要最低限のものしかない、さっぱりとした部屋に変えた。この時は屋敷の者全員が失神しかけた。



「部屋も随分変わりましたね。まるで知らない令嬢の部屋にいるようだ」

「…私には必要のないものばかりだと思い直したのです」


するとエドワードはにこりと笑みを深めた。



「私が君に贈った絵画にも興味がなくなったのですね。あんなに欲しいとおっしゃっていたのに」

「、えっ…」


びしっと身体が硬直し、自分の顔が青いどころか紙のように白くなっていくのが分かった。


そういえば壁に馬鹿でかい絵画が飾られていた気がする。芸術的な感性のない私には意味が分からず、さっさと売り払ってしまったのだ。思い返せば、絵画を売り払ったと知った侍女がやけに慌てた様子ではなかったか。


とんでもないことをしてしまった。

いくらクラウディアを知らないとはいえ自分から強請って頂いたものを売るなんて。


「も、申し訳ありませんっ!」

「謝らないで。気にしていませんから」


エドワードは朗らかに笑うが、すぐにその笑みは消えた。代わりに観察するような顔つきになった。


「あの舞踏会の日から君は変わりましたね。感銘を受けたという旅人はそれほど素晴らしい方だったのですか?」

「、はい!本当に素晴らしいお方で感謝してもしきれないくらいです!」


そんな旅人は実在せず私の作り話なのだが、王子も信じてくれているようで何よりだ。

将来、詐欺などに騙されないか気掛かりではあるけれど。


後はどうやってこの婚約者と婚約破棄するかだ。




ーーしかし、それは案外簡単だった。



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