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彼の国(かのくに)  作者: 破魔矢タカヒロ
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第4話:裏金と銀座と王子


「じゃあ、言うよ。その金はな、簿外の金さ、軍資金だよ」




 東京の本社に勤務する俺の前任者の宇田という先輩が金庫にある約1000万円の不明な金について説明を始めた。




「軍資金ですか? 工作資金なら五菱商事の裏口座にプールしてある金がありますよね」




「ああ、あれは受注のための工作とかに使う資金だろ。あれとは違う裏金だよ、銀座の軍資金さ」




「銀座ですか?」




「そう、銀座。畑中は『ロイヤルハイネス』というクラブを知っているか?」




「ええ、テレビで視たことならありますよ、座って5万の店でしょ」




「うん、それ。銀座の有名クラブだからな、真面目なお前でも知っているのだね。でな、そこに美咲という美人ママがいるのだよ」




「ああ、名前までは憶えていませんが、テレビで見ましたよ。美人女優が真っ青になるような美女ですよね、30歳くらいかな?」




「うん、30歳くらいだろうね、確かに美人女優もぶっ飛ぶよな」




「で、その美人ママがどうかしたのですか?」




「うちの田坂課長な、その美人ママが目当てで、あのクラブに通っているのだよ」




「そんなの、ウチの会社の課長の給料では無理でしょ、あんな高級クラブだと接待費でも落ちないだろうし」




「そうだよな。だから、軍資金なのさ」




「え、じゃあ、ここにある1000万は、その店に通うための金ですか?」




「そういうこと」




「けど、1000万とは」




「あの店に通ったら1000万なんてすぐだよ。それに、田坂課長は、第1課の辻課長とあのママを取り合っていてね」




「え、辻課長もあのクラブに通っているのですか?」




「そう、田坂課長と辻課長は、あのママをめぐる恋敵というわけさ」




「じゃあ、辻課長の方は金をどうしているのですか?」




「だから、バグダッド事務所の金庫にも辻課長用の軍資金がプールされているというわけさ」




「けど、こんな大金、どうやって作ったのでしょうね?」




「それは、畑中の想像に任せるよ」




「『想像に任せる』って、そうだな、たとえば、ありもしない工事を現地で発注したことにしたとか?」




「ま、そんなところかな。とにかく、お前は首を突っ込むなよ」




 なるほど、1000万の正体は分かった。




 そう言えば、俺の上司の田坂課長は、英語もロクに出来ないのに、この国に定期的に出張する。




 つまり、クラブに通う資金が尽きそうになったら、その補充をしに、この国に来るというわけか。




 なんともふざけた話だ。




 部下を灼熱の砂漠の国で働かせておいて、自分はクラブで遊ぶ金をこの国で調達していたとは。




 しかし、ふざけているのは田坂課長や隣の課の辻課長だけではなく、ウチの会社は会社ぐるみでふざけている。




 ウチの会社は会社ぐるみで何かと悪どいのだ。




 重工業製品のメーカーなのだが、不正が非常に多い会社なのだ。




 贈賄とか談合とか脱税まがいの利益操作とか製品データの改ざんとか、なんでもありだ。




 だから、下まで悪どいということか?




 とにかく、1000万円相当の不明金の謎は解けた。




 解けたところで、俺の同僚の営業マンであるカリール・サブラという男が農工省という中央官庁から戻ってきた。




 彼はレバノン人だ。




 サブラの家族はベイルートに住んでいるのだが、サブラは内戦の影響で勤め先を失い、この国に出稼ぎに来ているのだ。




 サブラは、もう8年もこのオフィスに勤務している。




 36歳なので歳でもキャリアでも俺の先輩ということになる。




 俺の顔を見ると、サブラは開口一番で俺に言った。




「昨日はスジャーのアテンドをしたのだろ、どうだった?」




 スジャーとは、農工省の官僚であり、現在は課長だ。




 しかし、王子なので将来は農工省の次官くらいにはなると目されている。




 スジャーは第164王子だ。




 第164王子?




 そう、第164王子だ。この国には王子、王女ともに約2000人ずついる。




 一夫多妻の国なので長い間に王族の数が4000人以上になっているのだ。




 それでも、世界有数の産油国であるこの国は金満国家なので、王族が4000人以上いても賄えるというわけだ。




 さて、俺は、サブラの質問に答えた。




「いや、それがさ、遅いランチでもしようという話になっていたのだけど、公開処刑を見終わったら、彼、急用があるとかで帰っちゃってさ」




 俺の返答はサブラにとって少しは意外だったはずなのに、サブラは平然とした表情で俺に言葉を返した。




「ふっふ、やはりね」




「え、『やはりね』って、それ、どういう意味?」




「だって、それが彼の趣味だからね」




「彼の趣味?」




「そう、彼の趣味。あのスジャーはね、新任の日本人がやって来ると、公開処刑を見させて、戦慄する表情を鑑賞するのが趣味なのさ」




「そんな ・・・ 日本でアテンドしたときには爽やかな若者だと思ったのだけどね」




「爽やかだって、ふんっ、とんでもない。畑中さんはスジャーの正体を知らないみたいだね」




「『正体を知らない』って、それ、どういうことだよ?」




「例えばだね、日本の雄琴での一件さ」




「雄琴? 温泉地の雄琴か?」




「雄琴は温泉地なだけではないだろ。知らないみたいだから教えてやるよ、いいか」




=続く=


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