第13話:不良王子の罠
第13話
サブラが死刑になるかもしれない。
「かもしれない」と言うか、その可能性は高いらしい。
しかし、そのように聞かされても、俺に出来ることなどなさそうだ。
五菱商事の有馬氏が事情を調べてくれているという。
ならば、とりあえずは、その結果を待つしかないようだ。
それでも、何もできずにただ待つことが、もどかしくて仕方がない。
そんなところに、社用車を駐車しに行っていたサイードがオフィスに上がってきた。
オフィスボーイのヤッシンは、サイードの顔を見るとすぐに、アラビア語で何かを伝えた。
当然、サブラのことに決まっている。
オフィスには、他にドライバーのアタがいる。
つまり、サブラ以外の全員がオフィスにいるわけだ。
皆の表情は深刻そのものだ。
俺は、聞き忘れていた大事なことをヤッシンに聞いた。
「ところで、有馬さんは、サブラが逮捕されたという話を誰から聞いたの?」
「ハキームだよ。有馬さんはハキームのタバーから電話で聞いたのだって」
「それで、有馬さんは、今どこにいるの?」
「ハキームのタバーのところだよ。タバーのところに行く前に、このオフィスに寄ってサブラのことを知らせてくれたのさ、畑中さんに伝えて欲しいってね」
ハキームとは、いわゆる口利き業者だ。
そして、タバーとはハキームの社長だ。
我が社が五菱商事に工作を依頼すると、五菱商事の有馬氏がハキームに口利きを頼む。
そういう関係なのだ。
もちろん、口利き料を支払っての話だ。
ハキームのタバーは、当然、たくさんのコネを握っている。
ハキーム社は、表向きは、メガネフレームの輸入業者であり、イタリアの一流ブランドからフレームを輸入している。
メガネの直営店も出しているのだが、売り上げは、むしろ、口利き業の方が多いようだ。
そのようなことだから、ハキームの社長のタバーは多くの有力者を知っている。
その中には、王位継承順位の高い王子も含まれている。
有馬氏は、そのようなタバーのところに行ったのだから、詳しい話を聞けるに違いない。
それでも、俺は、有馬氏の帰りを待ちきれない。
だから、タバーのオフィスに電話を入れた。
その電話にはタバー本人が出た。
「あ、タバーさんか、そちらに有馬さんが行っているでしょ」
「ああ、来ているよ。サブラの話だろ」
「ええ、そうです」
「畑中さんも、こちらに来るか?」
「はい、もちろん伺います」
俺は、早速、サイードの車でタバーのオフィスを訪れた。
そのオフィスに入ってみると、タバーと有馬氏が険しい表情で話をしていた。
俺の顔を見ると、タバーが声をかけてくれた。
「ああ、畑中さん、早速来たか」
「ええ、サブラの一大事ですからね。で、何がどうしたのですか?」
すると、有馬氏が日本語で説明してくれた。
その内容をかいつまんで述べると、どうやらサブラは、スジャーを激怒させてしまったらしい。
スジャーとは、農工省の課長のことだ。
第164王子でもある。
サブラに言わせると、不良の王子だ。
ワル仲間も多いと聞いている。
まずいことに、そのワル仲間のほとんどが王子だ。
つまり、この国には不良王子のコミュニティーがあるというわけだ。
だから、不良王子の一人を敵に回すと、その不良王子のコミュニティーから報復されることになる。
普段は気さくなスジャー王子だが、一度怒らせると、決して侮れない恐ろしい男なのだ。
26歳とまだ若造だが、それでも王子は王子だ。
サブラは、王家を侮辱した容疑で逮捕されたというのだが、それにしても、容疑の内容があまりにも不明だ。
だから、俺は、有馬氏にそこのところを聞いてみた。
「王家を侮辱したと聞きましたけど、具体的には何をしたのですか?」
「それが、まったく不明なのですよ。ただ、王家を侮辱したから逮捕された、わかっていることはそれだけです」
「そんな!」
「だから、ひょっとしたら、容疑のでっち上げかもしれませんね。スジャーを激怒させたから話をでっち上げられたとかね」
「スジャーが激怒した理由をご存知ですか?」
「それも不明です。タバーがスジャーに電話を入れて聞いてくれたのですが、『サブラが王家を侮辱した。だから、警察に通報した』、ただそれだけしか言わないのですよ」
「で、サブラが逮捕されたのは、いつのことですか?」
「昨日の夜遅くです。自宅に踏み込まれたようですよ」
「じゃあ、スジャーが激怒したのは、いつのことですか?」
「まあ、昨日のことでしょうね。それなら、畑中さんの方が御存知なのでは?」
「そう言われても ・・・ あ、そうだ、確かにサブラは昨日の午後にスジャーのオフィスに行くと言って出かけましたよ。直帰すると言っていたので、弊社のオフィスには戻ってきませんでしたけどね」
「そうですか、なら、その時にスジャーを激怒させたのでしょうね」
「サブラはスジャーに何をしたのかな?」
「まさか殴るわけがないから、何か気に障ることを言ったのでしょうね」
「何を言ったのかな?」
「最近、サブラは金を欲しがっていましたよね」
「ええ、離婚に必要な金がなかなか貯まらないようでね」
「サブラの給料は、一部が歩合でしたよね」
「ええ、基本給の他に歩合給を支払う契約になっています」
「つまり、農工省からの受注が増えると、サブラの給料も増える。そういうことですか?」
「はい、その通りです」
「そうか、なら、ひょっとしたら」
有馬氏には思いついたことがあるらしい。
俺は、当然、そのことを知りたいわけで、
「何か思いついたのなら、教えてくださいよ」
「まあ、ただの推論ですけどね。スジャーの秘密を知っていることをサブラが仄めかしたのではないでしょうかね」
「秘密ですか。あの不良王子なら秘密くらいはあるでしょうね ・・・ あ、そうか、サブラは、秘密を知っていることを仄めかして、それを受注に繋げようとしたのかも。離婚に必要な金がなかなか用意できないものだから無茶をしたのかな」
「ええ、私もそのように踏んでいます」
「つまり、サブラは、王家を侮辱などしていないと」
「彼が王家を侮辱するわけがないですよ。だって、動機が何もないのですから」
有馬氏とやり取りをしているうちに、俺は事の真相に迫れた気がした。
スジャーは、たぶん、話をでっち上げたのだろう。
そして、秘密を知るサブラを殺すつもりなのだ。
冤罪で死刑にするという方法で。
だとしたら、なんと卑劣な!
俺、有馬氏、そしてタバーの3人は、その後も話を続け、あまりにも即席ではあるが、サブラを救うための方策がまとまった。
それは、なんとも単純な方策だった。
しかし、仕方がなかった。
とにかく時間がないのだから。
この国の裁判なんて、お粗末なものだ。
庶民については、日本みたいな最高裁まで争う三審制ではなく、一審のみで終わりだ。
その裁判にしても、形式的なものに過ぎず、警察と検察が有罪と言えば有罪に、そして、死刑と言えば死刑になる。
まして、裏で王子が糸を引いているのなら、もはや、裁判なんて殺人の道具に過ぎない。
さて、その単純な方策なのだが、タバーがコネを握る第8王子に口利きをしてもらうというものだった。
タバーが俺たちの目の前で第8王子の代理人に電話をしてくれた。
そして、その結果なのだが、
「100万ルアリ出せば話をつけてくれるそうだ」
そのようにタバーが言ったわけだが、1ルアリが約100円なので、100万ルアリだと、
「日本円で1億かよ!」
俺は仰天した。
有馬氏も欧米人のように両手を広げて見せた。
そして、タバーに言ってくれた。
「それ、なんとか安くなりませんかね」
しかし、タバーは、その首を大きく横に振った。
「無理だよ。それは、第8王子を侮辱することになるからね」
その後もいくらか話をしたのだが、結局のところ、我が社の本社に掛け合うことになった。
有馬氏も口添えをすると言ってくれた。
だから、俺は、その場で早速、俺の直属の上司である田坂課長に電話を入れた。
もちろん、有馬氏も口添えをしてくれた。
しかし、その結果だが、
「くそっ! 論外とはなんだよ!」
「おい、畑中、お前、寝ぼけているのか、1億も出せるわけがないよ。本人の落ち度なのだから本人が責めを負うのは当たり前だろ」と門前払いそのものの返事をされた。
俺は、心底腹が立った。
だってそうだろ。
自分は、この国のオフィスの金庫に内緒でプールしてある簿外の裏金で銀座のクラブに通っているくせに、サブラの命には金を出せないと言いやがるわけだから。
その金庫に眠る裏金だが、その作り方は実に単純だった。
100億円とかの大型プロジェクトで商社に支払う口銭の料率は、普通は1パーセントだ。
しかし、五菱商事には口銭を5パーセントも支払っている。
ところが、五菱商事の手元に残るのは、およそ1パーセントだけだ。
では、残りの4パーセントがどこに行くかなのだが、それは、タバーの口利きへの謝礼だったり、農工省のキーマンたちへの賄賂だったりするわけだ。
それで、金庫の中の裏金なのだが、タバーが受け取った謝礼の中から田坂課長にキックバックした金なのだ。
不定期ではあるが、タバーの部下がそのキックバックする金をキャッシュで我が社のオフィスに持ってくる。その金を、その時点の駐在員、つまり、今なら俺が金庫に入れる。
そういう話が田坂課長とタバーの間で出来ているというわけだ。
田坂課長は、半年ほど前にも、その金を金庫から持ち出すために、この国に来やがった。
表向きには「現地での打ち合わせ」という名目で。
それなのに、タバーの命を救うためには金を出さない。
そういう話なのだ。
そんなの激怒して当たり前だ。
もちろん、五菱商事の有馬氏とハキームのタバーは、田坂課長がその金を銀座の女に使っていることを知らない。
薄々は勘付いているのかもしれないが。
とにかく、話を続けても無駄と悟ったその場の3人は、その後すぐに解散したのだった。
もちろん、救う手がないことを悟ると、サブラのことが余計に心配になる。
だから、俺は、タバーのオフィスからの帰りしなにサブラが入れられている留置所に寄った。
サブラは、日本で言えば20畳くらいの広さの雑居房に十数人ほどの他の容疑者と一緒に入れられていた。
昨日の今日のことなのに、髭が伸びるのが早いサブラは、むさ苦しい有様で寒さに震えながら、雑居房の小さな窓からその顔を見せた。
そう、今は冬なのだ。
日本の冬ほど寒くはないが、日本の晩秋程度の気温だ。
だから、逮捕された当時の薄着のままだと寒いに決まっている。
そんなサブラは、険しい表情で口を開いた。
「畑中、どうして来たんだ」
サブラは、珍しく、俺の名前を呼び捨てにした。
おそらくは、なんらかの決意があるのだろう。
俺は、もちろん、早速返事をした。
「カリールのことが心配だからに決まっているだろ」
「俺はもう死んだのだぞ、心配しても無駄だよ。どうせ、タバーに口利きを頼んだのだろ」
「ああ」
「その顔だと無駄だったようだな。どうせ、上位の王子の代理人にでも頼んだのだろ。いくら要求されたんだ?」
「100万ルアリだよ」
「ふっふ、日本円で1億か。で、田坂は断ったのだな」
「う、うん」
「ふんっ、知れたことさ。心配するな、俺はもう諦めている」
「なあ、何があったんだよ?」
「それを知ったら、お前の命も危ないぞ」
「おぼろげな話でもいいからさ」
「じゃあ、ヒントだけやるよ。あのスジャーはな、親しい王子の奥さんが好きなのだよ」
「えっ、すると」
「ま、そういうことだな。だから、俺が邪魔なのさ」
「その王子って誰だよ?」
「おい、畑中、いいかげんにしろ! 何もできないお前が知る必要なんかないのだよ。さ、とっとと帰れ!」
「でも」
「うるさいっ! この寒いのに毛布も持ってこないでなんだよ、気の利かない奴だな、さ、もういいから、ガキは帰れ。だいたい、困ったらいつも俺に頼りやがって、お前なんか、鬱陶しいんだよ、帰れっ!」
サブラの最後の「帰れ」は絶叫だった。
だから、俺は、サブラの意を汲んで、サブラに背を向けた。
留置所からオフィスへと戻るとき、留置所の前でサブラの愛人であるミランダ・フェとすれ違った。
俺は、敢えて彼女を無視した。
申し訳なさすぎて、かける言葉が見つからなかったのだ。
すると、背後からミランダの声が聴こえた。
「ねえ、畑中さん、よくも私を無視できるわね。サブラには弟みたいに可愛がってもらっていたでしょ。日本人はどれだけ薄情なのよ、ねえってば!」
俺は速歩きをしてサイードの車に乗り込んだ。
涙を必死でこらえた。
オフィスに戻ると、有馬氏が待っていた。
俺を見つけると、すぐに声をかけてきた。
「畑中さん、すぐに逃げてください!」
「どうしてですか?」
「さっき警察が来て、アタやヤッシンに畑中さんのことを尋ねて行ったそうですよ」
「けど、別に逮捕しに来たわけではないでしょ。逮捕される覚えもないし。それなのに、どうして逃げるのかな?」
「サブラと親しいからですよ。だから、スジャーから見れば、畑中さんも秘密を知っているかもしれない」
「けど、秘密なんか知りませんよ」
「わかっていますよ。けれども、スジャーがそう思う限り、畑中さんの命だって危ないかもしれないでしょ。逃げるべきです、今すぐ!」
その後も有馬氏といくらかやり取りしたが、結局、俺は逃げることになった。
すると、有馬氏が俺にアドバイスしてくれた。
「この街の空港はダメですよ。スジャーやその仲間の王子たちの息がかかった空港職員がいるかもしれないですからね。ジーデの空港から出国してください」
ジーデとは、紅海に面した街だ。
この国の首都に次いで大きな都市だ。
有馬氏は、そこの空港にまで手は回っていないはずだと言うわけだ。
我が社に出入りする運送業者の親しい日本人に送ってもらおうと思ったが、サイードとアタが「送らせてくれ」と強く言ってくれた。
だから、俺は、2人の2台の車で送ってもらうことになった。
しかし、俺には、この国を出る前にやっておくことが、
有馬氏がオフィスから出て行くのを確認した俺は金庫を開けた。
金庫には1500万円相当の札束が入っていた。
もちろん、それは、田坂課長が銀座に使う裏金だ。
俺はその札束を金庫から取り出し、その金を300万円相当ずつに分けた。
そして、オフィスに残るヤッシンに頼んだ。
「ヤッシン、金を3万ルアリずつに分けたからね。3万はヤッシンにあげるよ。他は、サイード、アタ、社宅のパテール、そしてミランダ・フェに渡してくれ」
ヤッシンは、怪訝そうな表情で俺に言った。
「こんなことをして大丈夫なのか?」
「ああ、この金はな、裏金なのだよ。田坂課長が東京の女に使う金なのさ。だから、使い込んだって、俺が日本で警察に捕まるようなことはないよ。だから、遠慮なく受け取ってくれ」
俺は、日本に帰れたら会社を辞めるつもりだった。
もう沢山だった。
我が社は、会社も上司も汚すぎる。
もう付き合いきれないと思ったのだった。
俺たちが後にした首都から港湾都市のジーデまでは約700キロの道のりだったが、2台の車は、故障もせずに、順調に走った。
そして、ジーデ空港に到着して、俺は、惜しみながらも、サイードとアタに別れの言葉を言った。
日本航空の成田行きに搭乗するつもりだった。
しかし、ビジネスもエコノミーも満席だったので、俺は、有り金のほとんどをはたいてファーストクラスのチケットを買った。ちびりそうな料金を支払った。
キャリアはボーイングの747だった。いわゆるジャンボだ。
2階の席がファーストクラスになっていた。
シートのサイズは一般的なビジネスクラスとさほど違わなかった。
機体がフィンガーから離れたところで、なにげに搭乗口の方を見ると、そこには数人の警官がいて、うち1人がトランシーバーでどこかと連絡を取っていた。
俺は少し不審に思ったが、機体が滑走路の所定の位置につくと、それほど気にならなくなった。
搭乗口の方をもう一度見ると、警官たちがまだそこにいて、俺が搭乗するジャンボの方を食い入るように見ていた。
どうしてだ?
とにかくも、ジャンボが離陸した。
ジャンボは水平飛行に入った。
すると、窓際の席の英語を話す客が「なんだあれ、戦闘機じゃないか!」と言った。
だから、俺も窓の外に注目した。
すると、
F15だ!
戦闘機だ!
米軍のものではない。
さっき後にしたばかりの国の戦闘機だ。
右だけかと思ったら左にもいる。
なぜだ?
ひょっとして、
俺か?
すると、女性のチーフパーサーが俺の席にやってきた。
そして、俺に聞いた。
「畑中様ですか?」
「ええそうです」
「管制塔が当機に引き返すように言ってきています」
「なぜですか?」
「畑中様は重要参考人なのだそうです」
「で、引き返すのですか?」
「いいえ。ただ念のため、事情を聞かせて頂けませんか?」
俺は、支障のない範囲で、とある王子の罠にはまったらしいことを伝えた。
すると、そのチーフパーサーはコクピットのところに行き、そのドアを開けてもらい、中に入った。
しばらくすると、機長が俺の席に来た。
「畑中様、ご安心ください。どうやら厄介なことに巻き込まれたみたいですね」
「ええ、ご迷惑をおかけしています」
「なにをおっしゃいます、迷惑なんか、かかっていませんよ」
「けれども、2機の戦闘機が両脇を飛んでいますよね。戦闘機のパイロットは何か言ってきましたか?」
「ええ、空港に引き返せとね」
「それなのに引き返さないのですね」
「ええ、あんなのは単なる脅しですからね、しかもガキの。中国やソ連の戦闘機ならともかくも、日本に石油をたくさん買ってもらっている国の戦闘機がその日本の旅客機に手出しをするわけがありませんからね。このまま成田まで直行ですよ」
機長は、そのようなことを短い時間で俺に告げると、急ぎ足でコクピットへと戻って行った。
機長と入れ替わりでチーフパーサーがまた俺の席に来た。
「機長が引き返さないと仰っているのだから、絶対に引き返したりはしません。どうぞ安心して空の旅をお楽しみくださいませ」
「けど、戦闘機が2機も ・・・」
「当機の機長は肝が座っているのですよ。だから、あんな戦闘機なんか気にしませんよ。機長は航空自衛隊の空将補だったのですからね」
「空将補?」
「昔の軍隊で言えば、空軍の少将ですね」
「少将! なるほど肝が座っているわけだ」
それから少しすると、諦めたのか2機の戦闘機はどこかに行ってしまった。
だから、俺は心からほっとした。
ほっとすると、堪えていた涙がジワジワと流れた。
最初は、自分の涙の意味がわからなかった。
命が助かったからか?
それは、どうやら違う。
サブラを見殺しにしたからか?
もちろん、それはある。
しかし、もっと他にもあるようだ。
考えてみた。
そして、思い当たった。
そうだ、
俺は、兄のように俺の面倒を見てくれた、親切にしてくれた、可愛がってくれた、
そんな仲間を、
見殺しにしたのだ。
俺は、これから、卑怯者として生きていくのだ。
卑怯者として生きていくことが悲しいのだ。
「そんなこと誰も咎めないよ」
いや、違う。
俺自身が咎める。
そして、俺は自分から一生逃れられない。
そう思うと、涙が止まらないのだった。
=続く=