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彼の国(かのくに)  作者: 破魔矢タカヒロ
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第11話:超絶の砂嵐


第11話




 俺たちは逃げている。




 何からかと言えば砂嵐からだ。




 やはり砂漠の国に砂嵐はつきものだったのだ。




 しかし、俺にとっては初めての体験となる。




 具体的なことなど丸っきり知らない。




 砂嵐の雲を見たとき、俺は大マジに巨大な壁だと思った。




 切り立った崖と表現してもいいだろう。




 地面から垂直にそびえ立つ切り立った崖。




 その崖の高さは数百メートル。幅は数十キロとかありそうだ。




 しかし、その崖は、その壁は、実際には雲であり、色はベージュだ。




 そのベージュの正体は砂漠の細かい砂が上昇気流で巻き上げられて雲に混ざったものだ。




 サイードは「とっととUターンして、ずらからないと、見る見るうちに追いつかれる」と言った。




 だから、サイードと後続のアタの車はその2台ともUターンして、ずらかり始めたわけだが、砂嵐の雲が追い付く気配はなく、俺たちはむしろ、その雲から遠ざかっていた。




 そこで、気が抜けた俺は、




「なんだよ、サイード、追いつかれるどころか、しっかりと遠ざかっているじゃないかよ」




「郊外の道は空いていて流れているから遠ざかれるのだよ。けれども、問題は市内に入るときさ。みんな思いは同じだから、市内に入ろうとする車で渋滞になるに決まっているからね」




「みんな、そんなに砂嵐が怖いのか、死ぬとか?」




「車の中や建物の中にいる限りは死んだりなんかしないよ」




「なーんだ、だったら問題なんかないじゃないかよ」




「けど、生身で外にいたら最悪は死ぬよ」




「どうして?」




「もうすぐわかるよ」




 俺たちは、市内の近くまでやってきたが、サイードが言った通り渋滞に巻き込まれてしまった。




 で、サイードが「ほらね」みたいな表情で俺に言った。




「な、渋滞になっているだろ。みんな砂嵐を嫌って早く家なりオフィスなりに戻りたいのさ。ところで、後ろを見てみろよ」




「え、後ろを? わっ!」




「な、砂嵐の雲って足が速いだろ」




 その巨大な壁は、いや、砂嵐の雲は、知らぬうちに背後に迫っていた。




 その壁の上端を見上げると首が痛くなるほど高いところにあり、最初に見たときは色がベージュだったのに今は焦げ茶に近い暗い色になっている。




 それは、やはり壁ではなく雲で、表面の感じがモヤモヤとしてきた。








「ふーん、近づかれてみると、やはり壁ではなく雲だね」




「当たり前だろ」




「しかし、暗くなったな」




「ああ、もうすぐ巻き込まれるからな」




「巻き込まれる前にオフィスに戻れるかな?」




「うーん、大丈夫だとは思うけど、きわどいね」




 しかし、サイードの車とアタの車は、巻き込まれないうちにオフィスの近くまで来られた。




 ところが、サイードは、あらぬ方向へとハンドルを切るわけで、




「おい、サイード、どこに行くのだよ?」




「大丈夫だよ、任せておけ」




 少し走っただけで、その建物に到着した。




 その建物とはパーキングビルだった。




 パーキングビルに入ると、サイードは、躊躇うことなく上の階へと車を走らせた。




 そして、4階に2台分の空きが見つかると、サイードとアタは、それぞれに駐車した。




 車から降りてみると、真昼間だというのに夜のように暗く、すでに細かな砂粒が辺りに舞っていた。




 サイードが俺のことを急かした。




「どうやら雲の中に入っちゃったみたいだな。さあ、畑中さん、走ろうぜ!」




「走るのかよ」




「ああ、こうなると、あっという間に砂だらけだぞ。それをまともに吸い込んだら咳き込むどころではないからな。さあさあ、オフィスまでダッシュだ」




 オフィスまでは300メートルほどしかなかった。




 だから、運動不足の俺は、しっかりとばてたが、とにかくも、俺たち3人は、オフィスの入るビルに駆け込んだ。




 幸い、砂嵐は、まだ「さわり」に過ぎなかったので、咳き込むことなどはなかった。




 ちなみに、オフィスが入るビルは、15階建ての鉄骨建築だ。




 ビルの名前はアドナン・アル・ハショージ・ビルという。




 ハショージ?




 どこかで聞いたことはないか?




 ほら、2018年にどこかの国の総領事館で惨殺された記者の名前さ。




 「カショギ」とか言ったよな。




 けれども、「カショギ」という発音は間違いだ。




 この国では、同じスペルで「ハショージ」と発音する。




 つまり、当時の俺が勤務していたオフィスは、あの記者の父親が所有していたビルに入っていたというわけだ。




 余計なことはともかく、オフィスに到着してしばらくすると、ビルの外が真っ暗になった。




 オフィスには、出かけていたカリール・サブラも戻っていた。




 つまり、皆、砂嵐が怖いというわけだ。




 しかし、何がそんなに怖いのだ?




 とか思っていると、




バリバリバリバリ




バシッ




バッシャーン




 なんの音かというと、雷の音だ。




 オフィスからかなり近いところに、それまで見たこともないほど多くの雷が次々と落ちたのだった。




 俺は、なんとなく心細くなって、サブラに話しかけた。




「なあ、カリール、砂嵐って、いつもこんな感じなのか?」




「いや、こんなに酷くはないよ。今日の砂嵐は特に強烈だな。さて、どうなることやら。スーパーで食物を買っておいて良かったよ」




「食物を買った? どうして?」




「2時間もしたら分かるよ」




 で、だから、どうなるのだ?




=続く=


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