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ききとして舞え  作者: 曖昧簡素
序章
6/9

大悪鬼②


地響きと共に地面が盛り上がり、土の中から大きな鬼の上半身が現れる。


ざっと、上半身だけで七メートルはあるだろう。


凶悪に歪んだ顔は目がひん剥かれており、視点は定まらず、両目はあっちこっちにぎょろりぎょろりと蠢いていた。

頭からは大仰な角が不規則な渦を巻き、伸びている。


灰色の皮膚は岩肌のようで、歪に膨らんだ筋肉が作るシルエットは『鬼』その者であった。


一之信は大悪鬼と呼ばれる化け物と対峙している。


「悲しき事だ。かつては神とさえ言われた化け物がこのような獣に堕ちるとは」言葉とは裏腹に一之信は吞気にため息を吐く。


大悪鬼は忙しなく目を動かしながら雨の中、咆哮した。それは正しく獣の声である。


元気が良いのは良いことだ。ただ、力の差が理解できないのは良くないことだ。僕はそう思う。

なあ、そうだろう一之信。


一之信は息を吐き、槍を握る。


「白木派六代目、白木一之信。参ります」


音も無く地面を蹴った。




一方の始真は地上に降り、足を鳴らしていた。


爪先や踵を鳴らし、靴底から魔方陣が展開される。そして闇の深い山を物凄い速さで踊るように走っていく。転々と光が浮かぶ。


タップダンスのような、激しい音は山中に響いている。軽快なリズムに聞こえる音は最後、足を揃え、立ち止まった時。山全体に途方も無い数の術式が編まれた光が一斉に放たれ、辺りは昼のように明るくなり、集まる化け物を次々と貫いていった。



木陰で空を見上げる始真は満足そうに煙草に火を付け、深く煙を吸い込み、そして吐き出した。


その煙は上へ上へと昇っていくが、その内雨に含まれて消えていく。


雨は一層強まる。


雨雲に一番近い場所に陣取る二人がいる。

想鬼と新ノ口である。


空には大きな番傘が咲いており、その下に二人は座っている。想鬼は忙しなく指先を動かしていた。彼の目の前には画面が三つ、ホログラムのように浮かんでおり、物凄い速さで情報が上から下へと流れていく。


想鬼は画面を瞬きもせずに見つめたまま、実態がないキーボードをしきりに叩いている。


新ノ口は雨の音を聞きながら小さく唄を歌っており、そっと想鬼の肩に自分の頭を凭れた。


想鬼の目の前で広がる邪気に刻々と変わる数値と戦闘による時空の歪み、空間バランスをとっているのだ。邪気をシャットダウンし、これ以上敵を集めない役割も担っている。


キーボードで打ち込む命令式は常に変化している。しかし新ノ口はというと、想鬼の肩に頭を乗せたままのんびりと唄を歌い続けている。


そしてふっと零す「力は、足りているかい?」


「ん? ああ、充分だ。ありがとう」と画面から目を離さない想鬼は言う。


「うん、ならいいんだ」と微笑む新ノ口は想鬼に自分の「氣」を送り続ける。


新ノ口は修行をしていない。元々が白木の出ではないのだ。


本来白木派に入る人間は予め決まっている。


しかしこの新ノ口は想鬼に着いてきただけなので、たまにこうして戦地に赴き、生来の才能とも言える膨大な「氣」を他者に供給する。


勿論、彼の"力"はそれだけではないのだが――――――。

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