記録①『大悪鬼』
始真は上空で体を固定し、ライフル銃を用いて細かい敵を一体ずつ撃ち抜きながら(案外楽な仕事だな……)と感じていた。
数自体は多いものの、急所を射貫かれた雑魚達は一発で済む、何より一之信が大人しいのである。
「……はあ」
面倒くさい。
別に目覚めるのを待たなくとも、そのまま殺してしまえば良いのに――――。
一方、一之信はというと暗闇の中、両手に槍を持ち、耳を澄ませていた。
寝息が聴こえる。
化け物の規則正しい呼吸が、ずぅ、ずぅと聴こえてくる。
地の底から微かに響く空気の摩擦を頼りに辿り着いたのは古ぼけた祠だった。
ここから邪気が流れているらしい。この祠は神を祀っているのではなく、邪悪を封印していたのである。
時が経ち、人間は悲劇を忘れ、信じることを止め、封印がゆるくなってしまった。
――――――まるでかつてのあの方のようだ。
一之信は独りごちる。
いや、あの方をこんなモノと比べる事は不敬にあたるか。と考え直し、槍を構えた。
そう、不敬にあたるのである。
祠は音も立てず瓦解した。
一之信の純粋な霊力が祠を砕いたのである。
地響きが鳴る。山が揺れ始め、空には暗雲が立ちこめ始める。月明かりが隠れ、邪気がますます濃くなる。
空が低く喉を鳴らし、稲妻が黒い雲を駆ける。
雨が降り始めた。
「……短気は損気とはよく言ったものだ」
参った参った、と眉を八の字にして笑う一之信は穏やかなものだった。
上空にいる始真がぽつりと漏らす。
「……楽な訳ねぇか」
前髪から雫が滴る。