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ききとして舞え  作者: 曖昧簡素
序章
3/9

序章③



想鬼、一之信、始真と役者が揃った訳だが。



さて、残り一人がいないね。

彼は新ノ口(にのくち)という男なんだが、想鬼(そうき)と良い仲の美しいが変わった男だ。

兄弟ではない。

彼はちょっと出自が他と異なるのだ。



白木ではあるけれど、まあ後々詳しく話すよ。



一之信(いちのしん)始真(しま)も出発の準備に取りかかり、屋敷も俄に騒がしくなる。



想鬼はぺたぺたと真っ直ぐ廊下を歩く。

すると一筋光の漏れた部屋に辿り着く、襖を開けた。



「新ノ口、ちょっと良いか」


すると箱を片手に饅頭を頰張る男が振り向く。


部屋は簡素な物だった。畳貼りの床に小さな机と本棚、机の上にはスタンドライトが立っている。


置き棚の引き戸は開いており、中には茶菓子の箱がぎっしりと詰まっている。羨ましい。


床には布団が敷かれていた。寝間着もきちんと着込み、灯りも少し落としている。


なんとコイツは寝る前だと言うのに、饅頭(まんじゅう)を食べていたのだ。


「…………お前、また寝る前に」と言って想鬼は新ノ口の持つ饅頭の箱をひょいと取り上げた。


新ノ口は頬をもごもご動かしながら文句を言う。

想鬼に縋り手を伸ばし、ゆらゆらと取り返そうとする。

「ひょっとくはい良いじゃふぁいか」

「良くない」


新ノ口は黒髪のそれはそれは美しい男である。今は寝間着の紺色の浴衣を着ており、どことなく、妖しげな風貌(ふうぼう)をしている。


想鬼は饅頭を飲み込む新ノ口を見て、つくづく美しい人だ。と思う。


だいぶ新ノ口には甘いようだ。

その美しさと自由奔放さにため息を吐く。


「……任務に行く」

「おや、いってらっしゃい」

新ノ口はひらひらと手を振った。


「はあ……お前も行くんだよ」と想鬼が言うと

「ええ……?」と新ノ口は困惑(こんわく)したような顔をした。


「……もう、夜だろう?」と行きたく無さそうな顔をする。


「頼むよ……」と弱ったような顔で新ノ口を見る。


「うーん……まあ、別に良いけれどね」と新ノ口は立ち上がり、するりするりと浴衣の帯を解き始める。


「すまない、助かる」想鬼は目を逸らして立ち上がり、押し入れから制服とも言える着物を出してやる。


「着替えは手伝ってくれるだろう?」と甘えるように囁く、耳から流し込まれる毒に、想鬼はまた溜息を吐く。


さあ、漸く今夜の役者が揃ったようだ。

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