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ききとして舞え  作者: 曖昧簡素
序章
2/9

序章②




小太郎はそのまま煙のように消え、帰って行った。


本来、ここは彼らに与えられた住居だ。

会議なども気まぐれでしか開かれない。大抵が居間で家族会議で終わるか、想鬼の部屋で説教が始まるくらいのものだ。

しかしこの屋敷、どういう構造になっているのかは、本人達もわからないことが多い。



残された青年たちは各々息を吐いたり、足を崩したりする。

緊張の糸が緩むのがわかる。



そして想鬼(そうき)の横に控えていた龍之介(りゅうのすけ)が胡坐をかいて言う。


「……それで? 想鬼兄、どうするんだ?」


流之介は真っ白な髪に少しつり目の男で、その所作から少し乱暴な印象を受けた。


白木派の四代目から下は皆、義兄弟である。

上の者を兄と呼び、下を弟とする。


四代目の想鬼は長男。

五代目の龍之介は二番目、次男にあたる。


想鬼は「そうだなぁ」と考え込む。


「私と、一之信(いちのしん)、それから始真(しま)と、新ノ口(にのくち)が良いだろう」と指を折る。


始真と呼ばれたのは黒い洋装に身を包んだ男で、少しくたびれたような表情をしていた。


他の者が白いのに対し、始真は髪も瞳も黒い。

彼は切れ長の目をゆっくりと瞬きさせた。


皺の入ったワイシャツに黒いネクタイと生地の厚いベスト、そして黒いズボンを履いている。背が高く、肩幅もあり、身体が分厚いので、良く似合っていた。


ベストの脇の部分はグレーの細かいストライプが入っており、全体的にシックな印象だった。


彼は白木派の派生組織『白木派一門(しらきはいちもん)黒木(くろき)西洋怪異(せいようかいい)討伐(とうばつ)第一室(だいいっしつ)』という長い長い名前の組織に属しており、元々はこの白木にいた。


白木派八代目、黒木始真。

五男にあたる。


要するに彼は子会社設立に出されたような立場だ。

始真は煙草を吸いたい、と考えながら口を開く。


「……想鬼兄さんお言葉ですが、俺は、後方には向かないかと」


想鬼は穏やかに微笑みながら「いや、俺と新ノ口が入れば事足りるから安心しろ」と言った。



しかし兄さん、と続けようとして始真は諦めた。そもそも兄の考えに盾突いた所で、何も良いこと等ないのだ。



白木は前方後方で分かれ、それぞれの役割をこなしながら戦うのが基本的な『()』である。



しかし、この一之信は例外だ。

彼はその圧倒的な力と戦闘スタイルにより、後方は必要とせず、身体を貫かれようが、手足がもげようが、前へ前へと食らいつき、敵を(ほふ)るのである。

最近は自分から傷つきに行っているようにすら見える。



爆弾のような攻撃範囲を持つ彼と戦うのは、なかなか骨が折れるのだ。


日々の残業で始真は疲れていた。


帰って書類整理もせねばならないし、そもそも黒木の仕事だってある。黒木で待つ弟に、稽古を付けて欲しいと頼まれてもいる。



始真は前線に立つのは一之信兄さんだけで充分なのでは、という言葉をぐっと飲み込んだ。


「……すぐ出発しましょう」

あまり、時間が無い。


一之信はそれを聞いてにっこりと笑う。


「おお!久しぶりに始真と前線か!」

「……俺も、嬉しいですよ。一之信兄さん」


始真は嬉しくはなかった。自分の左に控える双子の兄(血は繋がっていない)に、哀れみの目を向けられている事は感じた。


要領が良く、神に最も近い才の溢れる双子の彼ならば、こんな事思わないのだろうと始真は考えた。口寂しい。彼は煙草が恋しいらしい。

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