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習作  作者: 藤柵かおる
場面だけ
8/8

星が落ちた夜

 

里はずれの木の上の家で一人、暮らしているカリナは流れ星をみることを楽しみにしている女の子です。


「よいしょっと……」


 カリナは家の窓から外へと出るとひょいひょいと身軽な足取りで枝を登っていき、一番上の枝へと腰を下ろしました。この辺りで頭一つ分だけ高くなっているこの枝の上は星空を見上げるには格好の場所です。

 しばらくするとカリナの上に広がる満天の星空から光が流れ始めました。すぅっと流れる光の筋が一瞬現れては消え、またしばらくすると一瞬だけ尾を引きます。


 普段は一ケルト(時間の単位、一ケルトは約二時間、つまり一日は十二ケルト)眺めていて一つか二つも見えればいい方ですが今日はそれよりもずっとたくさんの線が流れます。

 半ケルトも眺めていれば流れる光の数は百をゆうに超えるほどになり始め、しだいに流れていない時の方が短いほどになり始めます。


「はぁ……」


 空に光の筋が流れていく光景を見ながらカリナはため息をつきました。

三クルム(月日の単位、一クルムは約二か月、つまり六クルムで一年)に一度起きるこの現象は空の上に住む者たちの手によって起こされるといわれています。

 カリナの様に地に足をつけて生きている者とは違う世界に住んでいる存在、それによって引き起こされる明るい夜は空の上に住む者が地上をのぞき見る日とも言われ、安易に地上のものがそこに関わると不吉を呼んだり、災いを巻き起こすなどとも言われ、昔からこの日は地上の者達は家の中で隠れ、恐れながら夜を過ごす習わしがあります。


 でもカリナはそんなことはまったく気にしていないのでした。

 迷信だとはなから決めつけているわけではありませんが、別に一晩中流れ星を見ていてもこれといったことも起こったことがないのでまぁ大丈夫だろうというそんな理由です。何かが起こったらその時はその時です。

 こんなにきれいな光景を見ることなくさっさと寝てしまうのもカリナには惜しいようにしか思えません。

 そんなある意味で純粋な心を持っていることによって彼女の運命は少しばかり変わることとなっていきます。


 まず最初にカリナは発端の目撃者となりました。

 どんどんと数を増やし、束の様に流れる星空を眺めていたカリナはその中に赤い光を見たのです。


(あれは……)


 カリナは光の筋の中に現れたひときわ赤い光を見てふと思います。

 それからいくばくかもしないうちに赤い光はまるで爆発でもしたかのようにかっと明るさを増し始めたのです。

 それはもう光、などというような生易しいものではありません。夜中にも関わらずまるで夕暮れでも訪れたのかと思えるほどに空一面が真っ赤に染まりました。

 その光は地上にも降り注ぎ、立ち並んでいる木々にもその上で見上げていたカリナの身体にも一様に降り注ぎます。


「うっ……!」


 カリナは目に飛び込んで来た赤い光の眩しさに思わず目をつぶります。一瞬目がつぶれでもしたのではないかと思いました。視界はまるで燃えているかのように真っ赤なままです。

 カリナは下を向き、明るさに目をならしながら少しずつ目を開けていきます。どうやら目がつぶれはしなかったようです。

下を向いたカリナは眼下に広がっている森が赤い光に照らされている光景を見ました。赤い光に照らされて枝と葉の間に黒い影が生まれている光景は、不思議ながらもどこか恐ろしいような光景でした。

カリナはそのまま赤黒い森を見続けていました。しかし突如として赤い光がやみ、辺りが一瞬にして暗闇へと戻りました。


(何……今の……)


 カリナは明るさを失った。空を再び見上げました。そこには先ほどのような赤い光も降り注ぐ光の筋も何もなく、静かな星空だけが広がっていました。


「もう寝よう……」


 なんだか夢を見ているような気分のカリナは寝ることにしました。

最後に振り返って眼下に広がる森を見ましたが、そこにはもう真っ暗な闇がただ広がっているだけでした。


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